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第80話:すれ違う足音と断絶


【古代地下大迷宮『奈落の底(アビス)』最下層】


ゴォォォォォォォォンッ―――――……!!


巨大な地鳴りと共に、このダンジョン最後の主――超大型深層ボス【闇獄巨兵(ギガント・グラットン)】の巨躯が、内側から爆散した。


「……ハッ……ハハッ……! 足りねぇ、まだ足りねぇぞ……ッ!」


飛び散る黒血の雨の中、リンドの背中から生えた【混沌の翼】が血を吸い上げて赤黒く輝く。

【暴君ディザスターズ】を喰らい、ダンジョンボスを喰らい、その魔力とスキルは留まることを知らず膨れ上がっていた。


『【闇獄巨兵】の【捕食】を完了――』

『【捕食の王】の限界突破を確認。さらなるスキル統合が可能です――』


「もっとだ……! 邪魔する奴らも、サングリアの肉人形どもも全員喰らえば……俺は絶対の存在になれる……ッ!」


血走った眼で次の獲物を探すリンド。その肉体からは、かつての理性的で仲間想いな男の面影は消え失せ、狂気的な威圧感だけが放たれていた。


「……リンド……ッ!!」


背後から響く悲痛な叫び。


振り返ると、そこには息を切らせ、傷だらけになりながら最下層まで追いかけてきたアイリス、ダイダラ、エルニャ、そしてライオたちの姿があった。


「アイリス……? どうしてここがわかった。」


冷徹極まりない、氷のように冷たいリンドの視線。

アイリスは胸を押さえ、涙を溢れさせながら叫んだ。


「ダメよリンド! 戻ってきて!! あなた、自分で気づいてないの!? 人間まで喰らって……そんな恐ろしい顔をして……! これ以上行ったら、本当に戻れなくなっちゃうよ……!」


「……悪いが、俺は強くなる。サングリアの企みを叩き潰すには、この方法が一番手っ取り早いんだ」


「リンド様! お待ちください! 我らも共に行きます!! 一人で背負い込むことなど――」


「来るな!!」


ダイダラの言葉を、リンドの咆哮が一閃のもとに打ち砕く。

放たれた爆風のような魔圧に、アイリスたちが思わず後ずさる。


「お前たちがついてきたところで足手まといになるだけだ。……俺の邪魔をするな。ほっといてくれ」


「リンド……っ! どうしてそんな酷いこと言うの……ッ!?」


アイリスの涙混じりの訴えにも、リンドは一度も振り向かなかった。

空間を歪めるほどの漆黒のオーラを纏うと、そのまま圧倒的な速度でダンジョンの天井を突き破り、ただ一人で空へと飛び去っていった。


「待ちやがれ、リンド……っ!!」


手を伸ばすライオだったが、その背影は一瞬で雲の彼方へと消え去った。


「……クソッ……! あのバカ野郎が……!」


残された最下層に重い静寂が降り積もる。

ライオの後ろからフードを被った男が、落胆したように呟いた。


「……単身でサングリアへ向かったか。……あそこには、神をも殺しかねない絶対的な『教皇』と、立ち向かう者を人形に変える悪夢が待っているというのに……」


リンドを止めることができず、膝をつくアイリス。


「……泣いている暇はないよ、アイリス。リンド様が暴走してでも守ろうとしているなら……私たちが追いついて....目を覚まさせないと...。」


エルニャの言葉に、アイリスは涙を拭い、力強く頷いた。


孤独な暴走へとひた走るリンドと、後を追う仲間たち。

二つの運命は別たれたまま、惨劇の舞台【聖教国・サングリア】へと向かっていく――。

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