第79話:禁忌の味と追撃の足音
【ウルド領域外縁・古代地下大迷宮『奈落の底』最深部】
「ハッ……ハハハ……ッ!!」
血の匂いが充満する薄暗いダンジョン最深部。
【暴君ディザスターズ】の4人を喰らい尽くしたリンドは、己の手のひらを凝視しながら不気味に笑っていた。
【賢王】のスキルが脳内に馴染んでいく。
この世界の大陸全土の歴史、魔力の緻密な計算式、そして各地の地理情報が一瞬にして脳内に構築されていく感覚。
(これだ……! 魔物だけじゃない。スキルを持った『人間』を喰らえば、その知識も、経験も、能力も丸ごと俺のものになる……!)
理性のタガが外れかけていた。
サングリアの暗躍、神殺しの計画、そしてシュウという底知れぬ怪物。
それらを叩き潰すための絶対的な「力」を求めるあまり、リンドの瞳からは人間の温もりが消え失せ、飢えた獣のような『喰らう者』の光だけが宿り始めていた。
(サングリアには……膨大な数の『転生者』が集められている。兵器として洗脳された強者どもが……。あいつらを全員喰らえば……俺は本当の”最強”になれる……ッ!)
禍々しい笑みを浮かべ、リンドは次の標的、未喰らいのダンジョンボス、あるいは邪魔立てする冒険者を求めて、さらに奥の闇へと消えていった――。
【エル・ストラード外縁・平原】
「ハァ……ハァ……ッ! リンド……どこに行ったのよ……!?」
早朝、リンドの置手紙を見つけたアイリスたちは、ライオから提供された追跡魔法と足跡を頼りに、必死で大平原を駆け抜けていた。
「アイリス殿、落ち着いてください……! リンド様の気配はあのダンジョン『奈落の底』に向かっている!」
背後にダイダラ、エルニャ、サウスたちが続く。
「……リンドの様子が、ウルドの戦いの時から少しおかしかったの。……一人で全部背負い込んで、どこか遠くへ行っちゃいそうな……そんな嫌な予感がするのよ……!」
アイリスの瞳には不安の涙が浮かんでいた。
「フン……あの男が簡単にくたばるとは思わんが、何か焦っているのは確かだな」
後方から馬を走らせて追いついてきたのは、ライオと……その背に乗るフードを被った一人の男。
「ライオ様! その人は……!?」
「ああ。昨晩話した、サングリアから逃げ延びてきた俺の配下だ。サングリアの裏事情と内部構造を知る男だ」
フードの男が静かに顔を上げる。
「……サングリアへ単身で殴り込む気なら、急いだ方がいい。あそこは……『転生者』を喰らうための屠殺場だ。あいつらの罠に飛び込めば、リンドとやらも……『人間』ではいられなくなる」
仲間たちの焦りと、一足先に闇へと堕ちていくリンド。
二つの足跡が、大迷宮『奈落の底』で交差しようとしていた。
【聖教国・サングリア 大聖堂】
一方サングリアでは【ランカーズ】ガルガン、ナスタ、ゲステスが教皇の間へと案内されていた。
「教皇様って....どんな姿なんだ....?」
「クックック....噂では2Mを超える大男だとか、細身の女性だとか、普通の好青年という話もありますな....」
「全部全く違うじゃない!....謎すぎるわね....。」
未知の存在に会うことに好奇心と不安が入り混じる中、ついに最奥の扉の前に辿り着く。
「貴様ら、無礼の無いように話したまえ。我らが目を光らせていることを忘れるなよ。」
案内をしていたグラルド・ソノザキが釘を刺すようにランカーズの面々に話す。
「はは....肝に銘じます.....。」
いつもはオラオラ口調のガルガンもその力の差を肌で感じているのか、丁寧に媚びへつらう。
そんな中ついに扉が開く。そこには巨大な天使のような石像がいくつも並んでおり、まさに神に祈りをささげるような場所だった。
「.....!?あ....あなたが....教皇.....様.....?」
その顔を見たランカーズは全員その場に倒れこんでしまった。
「よろしいのですか、教皇様。改造を施すだけの人形にお顔を見せてしまって。」
ソノザキがランカーズの体を回収しながら問いかける。
『.....問題ない。その者たちとの別れだ。』
「ふ、随分と粋なことをされるのですね。.....では、回収いたしましたので、あの部屋へ届けてまいります。失礼いたしました。」
ソノザキは教皇に一礼し、体を魔力で持ち上げたままその場を立ち去った。
『神の全てを愛し...そして壊す。私の世界を創る最初の戦争となろう。』
教皇は一瞬ニヤリとした。更なる運命が加速してゆく。




