第72話:渇望の王と不気味な影
「ハァ……ハァ……ッ……!!」
大平原の上空。黒い血を吐き出しながら、リンドの巨大な肉体が大きく揺らいだ。
全身を覆っていた漆黒の毛並みが解け、赤く脈打っていた紋様が急速に薄れていく。
(くそっ……魔力が……底を突きかけてやがる……!!)
【深層化】と【獣王モード】の同時発動という規格外の負荷。
肉体が悲鳴を上げ、圧倒的な「暴力の化身」の姿が維持できなくなり、徐々に元の姿へと戻っていく。
対する桐原蓮は――傷を負うどころか、その全身から溢れ出る紫黒の魔力をさらに膨れ上がらせていた。
「ハハハッ! どうした山城、もう終わりかい!?」
「……なぜだ……ッ! なぜお前は……それだけの魔力を撃ち合いながら……衰えるどころか魔力が増してやがる……!?」
片膝をつき、必死に息を整えながらリンドが鋭く睨みつける。
その問いに、桐原は心底楽しそうに背下の広大な戦場を指差した。
「答えは簡単さ。足元を見てみなよ」
「……なに!?」
リンドが視線を落とすと、アダムスが呼び出した10体のボス級魔物、そして地上で殺し合う無数の魔物たちの肉体から、目に見えぬ「紫色の魔力の糸」が伸び、全て桐原の体へと吸い上げられていた。
「僕の【超深層】はね、周囲に存在する【深層】の存在から無制限に魔力と生命力を吸い上げることができるんだよ! 下で魔物が暴れれば暴れるほど、アダムスが強力な魔物を喚べば喚ぶほど……僕の力は無限に跳ね上がる!!」
「……奴ら全員を……『動く魔力ポーション』として利用してやがったのか……ッ!」
いくらリンドが命を削って攻撃を叩き込もうと、地上に魔物がいる限り、桐原の魔力と再生力は文字通り「無限」。
このままでは一方的に削られ、殺されるだけの詰み状態だった。
「これで終わりだ、山城! 君の【神域】も、喰らったスキルも、全て僕の糧となれッ!!」
桐原が勝利を確信し、全魔力を込めた極大の黒炎刃を振り上げる。
(くそ……意識が遠のく……。このままじゃ……喰われる……!)
衰弱する意識の底。リンドの脳裏に、ふと一つの疑問と「男の顔」が浮かび上がった。
(シュウ....あいつの【神域化】があれば...この戦況を覆せる...!!どうする....この限界の状態であいつを【捕食】するのは難しい...!!一体どうしたら....そうだ!!これしかない!!)
離れた高台の上。おもちゃを見つめる無邪気な子供のような狂気に満ちた笑みを浮かべ、この死闘を『観賞』している男――シュウ。
(こいつに対しての【クロノス】は無効....だが!!)
俺はすかさず全体に【クロノス】を発動する。
「どうした?世界の時間を止めたところで、僕は止まらないよ!!」
無駄なことをしていると思い込んだ桐原はもう策が尽きたのかと落胆して警戒を解く。ここが勝機だ。
「狙いはお前じゃねぇよ...!!」
俺は即座に【神速】を使い逆方向へ飛ぶ。
俺が向かったのは笑いながら戦いを鑑賞している男....シュウの方向だった。
「...!?シュウをどうするつもり?仮にシュウがいなくなても僕の強さは変わらないし、このスキルは致命傷を与えられないはず....いや、まさか!?」
桐原が意図に気づいたのか慌てて追いかけてくるがもう遅かった。一足先にシュウの前にたどり着いた俺は躊躇なくその首に噛みつく。
「お前の力を寄越せ、シュウ....!!」
俺が首に噛みつき、垂れてきた血を飲みだしたとき、体にかつてない異質な魔力が流れてきた。




