第66話:集う刃と遠方の魔圧
【都市レアリア・ギルド長室】
グラァァァァン……ッ!!
大気が微かに震え、遥か北西の空が不気味な紫黒色に染まり上がっていた。
要塞都市エル・ストラードの方角から漂ってくるのは、肌を焼き切るような不吉で常軌を逸した魔圧の渦。
「……感じたか、サウス」
窓辺に立ち、腕を組んで遠くの空を見つめる男――ライオ。
かつてリンドと死闘を繰り広げたこの街の領主は、険しい表情で背後の男に問いかけた。
「ああ。間違いない……リンドから感じていた異様な【深層】の力がいくつも。……そして――リンド本人の魔力も混じっている」
サウスが低く唸る。その隣には、静かに大剣を磨いていたシュミットと、扇を優雅に揺らすカレンの姿もあった。
「ついに始まったようですね。リンドと国王アダムスの決戦が」
カレンが静かに呟く。ライオは鼻を鳴らし、不機嫌そうに顔を背けた。
「フン……知ったことか。あの男が勝とうが負けようが俺には関係ない。俺は……自分の街の住民たちをリンドの実験の餌にされた恨みを忘れたわけではないからな」
己の領地と民を踏みにじられた激怒。ライオの拳がミシミシと音を立てて握りしめられる。
そんなライオの横顔を、カレンは優しく、しかし力強い瞳で見つめた。
「ですがライオ……。もしアダムスがあの怪物を使ってリンドたちを打ち破れば、次に滅ぼされるのは間違いなくこのレアリア、そして世界そのものです」
「マスターの言う通りだぜ、ライオ」
サウスが不敵な笑みを浮かべ、巨大な斧を肩に担ぎ上げた。
「それに……リンドのことは、確かに気に入らねぇのわかるが、民を理不尽に踏みにじるような奴じゃなかった。……俺たちの『借り』を返すなら、今しかねぇだろ?」
「……フッ、まったくお前たちは」
シュミットも静かに立ち上がり、剣を鞘へと収める。
信頼する部下たちの言葉を受け、ライオはフッと自嘲気味に笑うと、バサリと漆黒のマントを翻した。
「おい、レアリアの冒険者共に通達しろ! 装備を整え、直ちにエル・ストラード平原へ向かう!戦い生き残った奴にはたらふく報奨金をくれてやるってな!!」
ライオの咆哮のような号令が館内に響き渡る。
「....!!ライオ....!」
「アダムスに民の報いを受けさせる! ……ついでだ、あの生意気な転生者に、大きな借りを作ってやろうじゃないかッ!!」
かつて火花を散らした猛者たちが、リンドの背中を支える「最強の援軍」として、惨禍の大平原へと進軍を開始する――!
【ウルド・ギルド前】
一方こちらでも異変を感じ取った者が一人。
「.....神の使いによる遊戯が始まった。」
「ランカーズ」のメンバー、シアンがポツリと呟く。他のメンバーは呑気にボードゲームで遊んでいた。
「あん?シアン、気持ち悪い事言ってんじゃねぇよ!!....おいゲステス!!お前まだ上がりじゃねぇだろ!!」
「ギクッ!あははは....バレてましたか....クックッ」
「次は私のターンよ!ガルガン、飛ばさないでよね!」
ランカーズは【深層】捜査に成功したとして、かなりの報奨金を得たようで、ここ数日は怠けて過ごしていた。
「それにしても急だよな、俺達があの【聖教国・サングリア】に呼ばれるなんてよォ。」
ガルガンがニヤケ顔で話す。
「クックック、どうやらあの異様な魔力のダンジョンについて詳しく聞きたいとのことでしたよ。ガルガン様方の活躍があの超大国にまで届いたのでしょうねぇ....」
数日後、彼らはウルドの隣国にして、この世界で最大級の大国【聖教国・サングリア】へ向かうようだった。
そこで何が待っているのかも知らずにだった。




