第63話:悪魔の制約と神威の帰還
「ハァ……ハァ……ッ……。見事……見事なり、若き芽吹きどもよ」
傷口を氷で直接拡張され、膝をついたエノキダ。だが、彼の瞳から討伐者としての光は消えていなかった。
「だが……私とて王に捧げた忠義がある。命を燃やし……最後の一瞬まで務めを果たさせてもらうッ!!」
ゴォォォォォォォッ!!
エノキダは自らの肉体に施していた『局所的な時間停止』を自ら解除した。
解き放たれた激痛と吐血、大量の出血が彼の全身を染め上げる。致命傷を負った肉体と引き換えに、彼は膨大な魔力を強引に【クロノス】へ再充填させた!
「嘘!!あの傷の中で時間停止を使うつもり!?...二人とも逃げ......」
アイリスが叫ぶも、その声が届ききる前にエノキダによる詠唱が終わる。
「すべての理よ、静止せよ――【時間操作】ッ!!」
――カチッ。
世界からすべての音が消え去る。
命を削る覚悟で解き放たれた最後の全域時止め。動けなくなったアイリス、ダイダラ、エルニャの三人へ向け、エノキダは血を撒き散らしながら軍刀を振り上げた。
「これにて……幕引きだ――」
――バリィィィィィィィン――――ッ!!
「な……なんだッ!?」
エノキダの背後の空間が、激しい音を立てて内側から「喰らい尽くされて」叩き割れた。
多次元の狭間の中にいたため、現実世界の【クロノス】の影響を一切受けていなかった男――リンドが、次元の壁を食い破って強襲したのだ!
「この瞬間を待ってたぜ……! 食らいやがれッ!!」
ドガァァァァンッ!!
リンドの漆黒の拳がエノキダの側頭部を全力で穿つ!
不意を突かれた激しい衝撃にエノキダの意識が一瞬途切れ、世界を縛っていた【クロノス】が呆気なく霧散した!
「時間停止が……解けた……!?」
時が動き出した瞬間、リンドの背後に立つ三人の目には、勝利の確信が宿っていた。
「リンド様....!!リンド様のお帰りだぁぁぁッ!! 【剛天・絶命断】!!」
「逃がさない……ッ!! 【疾風連撃・穿】!!」
ダイダラの巨斧がエノキダの肩口を叩き割り、エルニャの短剣がその喉元を深く穿つ!
二人の連撃によって空中に吹っ飛んだエノキダへ、最後にとどめを刺すべくアイリスが前に躍り出た。
「我が魂と引き換えに……悪魔の理をここに現出せよ!」
アイリスの瞳が禍々しい紫色に輝き、彼女の持つ秘められた【悪魔の制約】が解き放たれる。
「【悪魔の制約・黒炎滅殺陣】――ッ!!」
ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!!
天を突く漆黒と紫の超極大魔法がエノキダの全身を包み込み、消滅させるかのように焼き尽くす。
【五角】最強の男、カルマルド・エノキダは、四人の完璧な絆と死力を尽くした連携の前に、ついにその場へ崩れ落ちたのだった。
(……思い返せば、酷い人生だったな)
薄れゆく意識のなかで、エノキダの脳裏に忌々しい過去の記憶が蘇る。
彼の父親は、異世界からやってきた「転生者」だった。
強力なチート能力に溺れ、力と欲望のままに世界を荒らし回った最低のクズ。エノキダの母親も、父親の気まぐれで弄ばれた挙げ句、身ごもった途端に捨てられた。
幼い頃から「転生者の子」として蔑まれ、破滅していく母の姿を見て育ったエノキダは心に固く誓ったのだ。
――あの身勝手で遊び戯れる父親のようには絶対になるものか、と。
欲望の赴くまま暴虐を尽くしていた父親を誅殺し、自分たち母子を「世界の理不尽」から救ってくれたのが、当時台頭しつつあった国王アダムスだった。
だからこそ、エノキダは真面目に、愚直なまでに規律を守り、命を救ってくれた王の忠実な側近――【五角】として生きる道を選んだのだった。
「....リンド、と言ったな。貴様も転生により得た力なのか?」
エノキダの問いに一瞬驚いたが、俺は既に”違和感”を確信に変えていたため、答えた。
「そうだ....。お前の父親と同じくな。」
「...!!気づいていたのか。」
見透かしたような俺の発言に、驚愕の表情を隠せないエノキダ。
「....父は、貴様とは似ても似つかぬ。自分が与えられた最強の力で横暴の限りを尽くし、金、酒、女に溺れた。私の母は弄ばれた女の一人だ。こんな世界は間違っている。母のような善良な人間があんな仕打ちを.....。」
エノキダは今にも息絶えそうな致命傷を負っていながらも、その瞳に宿す憎悪を燃やしていた。
「お前も世界の被害者だ....。俺はこの世界に、全てに復讐する。お前の無念も晴らしてやるよ。」
「フッ....私ではない、母の為に.....頼んだ....善良なる転生者....よ....」
こうしてエノキダとの死闘を終えた。




