第58話:要塞都市エル・ストラード
交易都市ローゼンを後にしたリンドたちは、街道の酒場で得た極秘の情報をもとに進路を北西へと取っていた。
「……国王アダムスが王都を離れ、要塞都市『エル・ストラード』に身を潜めている……か」
リンドの言葉に、地図を広げていたアイリスが険しい表情で頷く。
「エル・ストラード……。王国最前線の軍事要塞都市だよ。外壁は重厚な魔導鉱石で覆われていて、街全体が巨大な防衛結界で守られてるって聞いたことがある。本拠地の王都より守りが堅いかもしれない」
「フン! どれほど頑丈な壁だろうと、俺の巨斧とリンド様の【神域】の力で粉砕します!」
「油断は禁物だよ、ダイダラ。アダムスがそこに引きこもってるってことは、それだけの戦力を結集させてるってことだからね」
「油断....しない....!」
エルニャが短剣の柄を握り直し、気を引き締める。
【五角】の刺客たちを次々と撃破されたアダムスが、自らの身を守るために選んだ最終防衛拠点。そこへ攻め込むべく、一行は鉄壁の要塞へと足を進めていた。
要塞都市エル・ストラードへと続く、広大な一本道の断崖地帯。
荒々しい岩肌が続くその街道の真ん中に――ポツンと一人の男が立っていた。
黒い軍服を隙なく着こなし、腰に一振りの軍刀を下げた佇まい。微動だにせず、ただ静かにリンドたちを見据えている。
「……止まれ」
リンドが片手を挙げ、全員の足が止まる。
先ほどから感じていた肌を刺すような理不尽な圧迫感。その源泉が、目の前に立つ男であることは明白だった。
「……アダムス様より勅命を授かった。【五角】の一角、カルマルド・エノキダである」
男――カルマルドは、礼儀正しく静かに名乗りを上げた。一切の殺気も威圧も表に出していない。しかし、だからこそ異常なまでの底知れなさが漂っていた。
「エノキダ....なんだかこの世界じゃ聞きなれない名だな。転生者か?」
俺は名乗られた名前を聞いて前世の名残を感じた。
「敵と馴れ合うつもりはない。要塞都市エル・ストラードへ向かうつもりであろうが……これより先、一歩たりとも進ませるわけにはいかん。貴様たちの『時間』は、ここで終わりだ。」
「【五角】の残りか……お前も国王までの糧にしてやる。」
リンドは前へ出ると、瞳の奥に漆黒の魔力を滾らせた。カガヤから受け継いだ【神域】の威圧が解き放たれ、周囲の空間が微かに歪み始める。
「邪魔をするなら喰らうだけだ。そこをどけ、エノキダ」
「……交信不能。では、任務を遂行する」
エノキダが静かに軍刀の柄に手をかけた、その瞬間――。
――世界から、すべての『音』と『動き』が消え去った。




