第56話:揺らぐ王座と最強の血脈
【王都・深層の間】
「……ワビーとサビーの反応が消えた……だと……!?」
玉座の間で、国王アダムス・ユングべリの激昂した怒号が響き渡った。重厚な石造りの床が、彼の抑えきれない怒りの魔力でバチバチと亀裂を刻んでいく。
「何なのだ……! 一体何が私の邪魔をしているというのだッ!!」
アダムスの本当の狙い――それは、自らの統治するお膝元の街「ウルド」を中心とし、周辺のダンジョンや莫大な資源を完全に独占することだった。
他国との均衡や外交など知ったことではない。世界の底に眠る【深層】の圧倒的暴力をもって、他国を平伏させ、世界の全てを自分の庭にすること。ただそれだけのために【五角】を作り上げ、恐怖政治を敷いてきたのだ。
しかし、その計画の歯車が狂い始めている。バンド、フェリス、そして北へ遣わしたワビーとサビーまでもが相次いで潰されたのだ。
「……落ち着いて下さいませ、アダムス様」
静かに、だが王の放つ絶望的な魔圧を事もなげにいなしながら、一人の男が歩み出た。
漆黒の軍服に身を包み、腰に一振りの軍刀を差した男。
最後の【五角】にして――作中最強の人間、カルマルド・エノキダ。
彼は異質な存在だった。かつてこの世界に落ちてきた「過去の転生者」の男が、この世界の女性との間に産み落とした混血の血脈。
父から受け継いだ転生者特有の異常なチート因子――そして、彼が所有する固有ユニークスキル【時間操作】。
対象の時間を止めるどころか、この世界の時間そのものを無制限に停止させるという、理不尽の極致たる神の領域の力。
「……エノキダか」
国王アダムスですら、この男の瞳を見つめる時には微かな冷や汗を流していた。もしこの男が反旗を翻せば、王たる自分すら一瞬で首を飛ばされるという恐怖。
だが、エノキダという男は極めて真面目で、規律と王国への忠誠を第一とする律儀な男だった。だからこそアダムスは彼を『最後の【五角】』として傍らに置き、最大の切り札として重用していたのだ。
「『害虫』どもの破竹の進撃……誠に不愉快。ですが、ご安心を。このカルマルド・エノキダが、王の御前を汚す不快な羽虫どもを、時の隙間にて全て塵へと変えてまいります」
エノキダは恭しく片膝を突き、深々と頭を下げた。
「……任せるぞ、エノキダ。余の邪魔をする奴らを……一人残らず『停止』させよ」
「は。御意のままに」
過去の転生者の血を引く最強の人間と、無制限の時止め【クロノス】。
【神域】を手に入れたリンドたちの前に、世界の理を停止させる最大の壁が立ち塞がろうとしていた――。




