第50話:緑の異境と老魔導士
50話に到達しました!
【五角】との決戦、そして国王、、、、ここからの展開もお楽しみください!
寒風吹き荒ぶ白銀の世界を抜けると、そこだけ切り取られたかのように雪が失われ、暖かい陽光と豊かな緑が広がっていた。まさに雪原のオアシス。
「すごぁい……! さっきまでの寒さが嘘みたいだよ!」
アイリスが目を輝かせながらコートを脱ぎ、息をつく。だが、リンドは足元の緑地に満ちる異様な高密度の魔力を感じ取っていた。
「油断するな。この気候自体が、誰かの凄まじい魔術によって保たれている」
緑の奥に佇む古い木造の一軒家。リンドたちが静かに近づくと、ギィと音を立ててドアが開き、小柄な老人が姿を現した。長い白髭に、落ち窪んだ深遠な瞳。
「ほお……こんな極寒の果てまで、珍しい客が来たものじゃな。こんな場所まで来で、腹も減っておるじゃろう。……まあ、入りなされ」
警戒するリンドたちを優しく招き入れた老人は、薪ストーブの焚かれた温かい室内で、温かいスープとパンを振る舞ってくれた。
「美味しい……! 体が温まるよ、おじいさん!」
「フォフォ、口に合ってよかったわい。わしはカガヤ・ガルニーニという。見ての通り、もう先の長くないただの老いぼれよ」
アイリスの問いかけに、カガヤと名乗った老人は和やかに微笑む。だが、一口スープを飲んだリンドは、素朴な疑問を口にした。
「……こんな極寒の地に、なんで一人で暮らしてるんだ? この暖かな空間も、ただの老人の業じゃないだろう」
「……鋭いな、お主」
カガヤは目を細め、静かにパイプに火をつけた。
「わしはな、若い頃に【禁忌の魔術】と呼ばれる領域の深淵に魅せられてしまってな。その危険すぎる力ゆえに、故郷の集落を追放された身なんじゃよ」
「【禁忌の魔術】……」
「そうじゃ。世界を歪めるほどの異端の術。故に一人、ここで静かに命の灯火が消えるのを待っておったわけじゃが……」
カガヤはパイプの煙を燻らせながら、ゆっくりとリンドへと視線を向けた。その瞳の奥に、一瞬だけ鋭い魔導士の光が宿る。
「……お主、体内に尋常ならざる『業』と『闇』を抱えておるな。……人間を喰らい、力を喰らい……復讐の途上におるか」
「ッ……!?」
初対面で【捕食】の本質と復讐の意図を正確に見抜かれ、アイリスたちが息を飲む。だが、カガヤは咎めるどころか、くっくっと不気味に喉を鳴らして笑った。
「よい、実に心地よい闇じゃ。わしの命もあと長くて数日……このまま冥土へ持っていくよりは、世界を揺らす牙に授けた方が面白かろう」
カガヤが杖を軽く突くと、周囲の空間がぐにゃりと不気味に歪む。
「復讐の武器にしたいなら、死ぬ気でついて来い。わしの持つ究極の【禁忌の魔術】――その真髄を叩き込んでやる」
親切な老人が見せた、伝説の魔導士としての異彩。極寒のオアシスで、異質な師弟による地獄の修行が幕を開けた――。




