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第45話:強さの果てと前を向く風


「ガハッ……ッ!?……っあ……!?」


神殿の瓦礫に埋もれ、バンド・ジャガラは信じられない思いで自身の身体を見下ろした。

【獣王モード】の巨躯は腰から上が激しく破砕され、もはや生きているのが不思議なほどの肉塊へと成り果てている。


「俺様が……この俺様が……こんなところで……終わるのかよ……ッ!?」


視界が赤く染まり、薄れゆく意識の中で、バンドの脳裏に古びた記憶の欠片が走馬灯のように駆け巡る。


――かつて、自分は一族の『長』として君臨していた。

誰よりも強さを求め、ただ最強であることだけを追求していた日々。

だが、その突き抜けた強さはあまりに異端であり、世界を統べんとするウルド国家の上級貴族たちに恐れられ、脅威とみなされた。


当時の【五角】――いや、その手先であった【四角】の一団による、一族への苛烈な襲撃。

燃え盛る故郷。蹂躙される同胞たち。


だが、その惨劇の渦中でバンドの心を支配したのは、怒りでも悲しみでもなかった。


(……あぁ……なんて美しい強さなんだ……)


一族を容易く屠っていく【四角】の圧倒的な暴力。

その絶対的な強さに、バンドは魂ごと魅了されたのだ。

彼はその場で惨殺されていく一族を平然と捨て去り、自らを滅ぼしに来た【四角】へと膝を折り、その門を叩いた。


以来、更なる強さを求め続け、破壊と暴力の限りを尽くしてきた。


そして今――目の前に立つ、漆黒と紅蓮を纏う【深層化】のリンドを見上げる。


(ヒヒ……そうかよ……。俺様が一生かけて追い求めていた『究極の強さ』ってのは……てめぇみたいなバケモノのことだったんだな……)


絶望などそこにはなかった。ただ、己が目指した武の頂を目の当たりにしたという、歪んだ充足感だけがあった。


「ケケッ……最高……だったぜ……『深層の王』……サマ……」


「バンド、お前がなぜ深層の紋様を宿している?国王は...国は一体何をしようとしてる?」


俺の問いかけにバンドはニヤリと笑みを浮かべる。


「...さぁな。俺は強さ以外に興味はねぇから知らねぇけどよ....だが他の【五角】には気を付けたほうがいいぜェ....俺じゃ足元にも及ばない化け物だらけだからよォ....!ヒャハハハハ!...ガハッ!ガフッ!!」


吐き出された最後の血と共に、バンド・ジャガラの瞳から光が失われ、その不吉な肉体は不気味に崩壊していった。


――静寂が神殿を包み込む。


リンドの全身から黒炎が引き、髪と瞳の色が元に戻り、ゆっくりと【深層化】が解除される。激しい疲労感に膝をつくリンドを、エルニャが優しく受け止めた。


「リンド様……! ありがとう……」


バンドの遺灰を見つめるエルニャの目には、静かな涙が浮かんでいた。

彼が最期に抱いた過去の情景――一族の全滅と、自分を捨てて狂気に走った父親の真実。


「あたしの一族は……もう誰もいないんだね……。」


「エルニャ...。」


悲しみに胸を痛め、短剣を握りしめるエルニャ。だが、その瞳に宿る光はもう二度と揺らぐことはなかった。


「……ううん、あたしは...もう、振り向かない。父の呪縛も、過去の悲しみも……全部ここで置いていく。」


エルニャは涙を拭うと、リンドと、そして駆け寄ってくる仲間たちへ向かって力強く微笑んだ。


「あたしの居場所は……今、ここにあるから。リンド様、みんな……一緒に行こう!」


神殿の崩落の隙間から差し込む光を受け、エルニャは過去を捨て、新しい未来へと力強く踏み出した――。



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