第43話:深層の王と狂王の歓喜
神殿の中央に渦巻くのは、世界を削り取るかのような漆黒と紅蓮の超重圧。
「あ……あぁ……っ……」
ゴーレムを倒したばかりのサウスたちが、その圧倒的な存在感の前に膝を折り、言葉を失う。
そこに立っていたのは、俺であって俺ではない『異形』だった。
かつて人間だった肌は深海のごとき漆黒に染まり、その表面には血のように鮮烈な「赤い紋様」が血管のごとく脈打っている。背からは闇を吸い尽くすような漆黒の巨翼が広がり、頭頂部からは禍々しいツノが天を突く。
そして――膝裏まで伸びた髪と爛々と発光する両眸は、すべてを焼き尽くすかのような重厚な「真っ赤」に染まっていた。
【深層化】――転生者アルス(桐原蓮)の持っていたユニークスキルで身体ごと深層の魔力と融合し、戦闘能力を数万倍へと跳ね上げさせた姿。
「……オ……オオオ……」
声帯から漏れる声すらも、空間を物理的に振動させる重低音の波となって周囲を押し潰す。
「ハ……ヒヒッ……! ギャハハハハハハハハハハハッ!!!!」
その異形を目にしたバンド・ジャガラは、絶望するどころか狂喜に顔を歪ませ、腹を抱えて大笑いした。
「最高だぁぁッ! 最高だぜぇ『深層くん』!! てめぇ、どこまで俺様を愉しませてくれるんだッ!! 雑種が……本物の『怪物』になりやがったぁぁッ!!」
バンドの体表の赤紋様も激しく光を増し、その足元が炸裂する。
「死ねやぁぁぁぁッ!!」
ズドォォォォンッ!!
神殿の床が瞬時に消滅するほどの踏み込みから、バンドが超音速の突撃を敢行する。もはや目視すら不可能な、空間を跳び越えるような殺気の爪。
だが――。
(――遅い)
【超感覚】と【深層化】の数万倍の知覚が、バンドの超音速の軌道を止まった映像のように捉えていた。
リンドは視線すら動かさず、漆黒に染まった巨大な腕をただ一振りする。
ドバァァァァンッ!!!!
「ガハッ……!??!?」
交戦の音すらない。
バンドの凶爪が届くよりも早く、リンドの振るった腕から放たれた『極厚の衝撃波』がバンドの全身を正面から叩き潰した。
「グアァァァッ……!?」
バンドの頑強な肉体がくの字に折れ曲がり、神殿の壁を何重にも突き破りながら外の広場まで吹き飛んでいく。
「一撃で……あのバンドを……!?」
血を吐いて倒れ込むバンドの様子に、後方にいた冒険者たちが息を飲む。
「……ガ……ハッ……ヒヒ……いい……いいぞぉ……ッ!!」
瓦礫の中から立ち上がるバンド。胸骨が砕け、全身から血を吹き出させながらも、その目は狂気と歓喜に燃え上がっていた。
「こうじゃなきゃ殺し甲斐がねぇ……! 来いよ『深層の王』サマぁッ!! 俺様の命とてめぇの命、どっちが重いか削り合おうぜぇぇッ!!」
数万倍の力を得た異形のリンドと、死線の中で狂気を極限まで高めるバンド。俺は亜空間から「冥王の凶剣」を取り出し、構える。
理屈を超えた怪物同士の、神殿を崩壊させるほどの最終死闘が幕を開けた――!




