第42話:制約の氷華と絆の一閃
「アイリス!?どうして前線に....!?」
突然後衛のアイリスが走ってくるのをみてサウスが驚く。
「サウスさん! 敵が攻撃を繰り出す“その一瞬”だけ全属性防御が途切れます! 攻撃の瞬間を狙ってください!」
神殿の瓦礫を疾走するアイリスの絶叫が響き渡る。
「よ、よし、わかったッ! 合わせるぞ野郎どもッ!! 死ぬ気で敵の懐を開けぇぇぇッ!!」
サウスの咆哮に応え、ダイダラ、シュミット、ライオ、カレンの三人が意を決して一斉に地を蹴った。
巨大な岩拳が空を切って振り下ろされる直前――発光する赤い紋様が一瞬だけ不規則に明滅したその微かな刹那を狙い、三方向から同時に刃を突きたてる!
ガギィィィンッ!! ズバァァンッ!!
「ぐあぁぁッ!?」
だが、巨躯から撒き散らされる衝撃波と質量はあまりにも絶大だった。
合わせ込みのタイミングが僅かコンマ数秒ズレただけで、シュミットは大剣ごと十数メートルの石畳を殴りつけられて吹き飛ぶ。狙いは合っているはずなのに、一撃の破壊力が大きすぎて懐へ潜り込むことすら叶わない。
「くそっ……タイミングが厳しすぎる……ッ! 合わせに行く前に潰されるぞ!」
「ガハッ……! サウス殿、限界……ですぞ……!」
何度も巨大な拳を受け止めてきた前衛陣は、すでに満身創痍だった。
サウスの肘は肉が裂けて血が吹き出し、ダイダラは大血を吐いて大盾を支える膝を不気味に震わせている。
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!何がなんでも隙を作ってやるよ!!ぐらぁぁぁぁぁぁ!!」
「私も全力を賭ける!!はぁぁぁぁぁ!!」
二人のギルドマスターによる全力の総攻撃を仕掛けるが、それすらも核心を突くことはできず逆に衝撃を受け吹き飛ばされる。
「ぬおぉぉぉぉぉぉ!?」
「くぅぅぅぅ!!不覚!!」
5人の手練れを以てしても、その隙を作り出すことは叶わなかった。満身創痍の5人に向かってゴーレムが全力の一撃をしかける。
「ま....まずい!!動け...な....」
サウスたちが死を覚悟したその時だった――。
「――【迅雷脚】・【疾風一閃・極】ッ!!」
風と残像を置き去りにし、一筋の閃光となって前線へ躍り出たのはエルニャだった。
超絶的な踏み込みで死角から跳躍すると、短剣に全風魔力を注ぎ込み、ゴーレムの顔面――無防備な『目』の隙間へと目にも留まらぬ三段突きを正確無比に穿つ。
ガガガキィィンッ!!
「グアァァァッ……!?」
視界を強烈に侵され、激痛に耐えかねたゴーレムが反射的に両腕を持ち上げて顔面をかばった。
その瞬間、巨躯の胸部と腹部が無防備に晒され、これまで防ぎきれなかった致命的な「大隙」が神殿内に生まれた。
「今……! 完全に無防備な隙ができた...!!」
着地したエルニャが叫ぶ。 これまで誰一人として作れなかった絶好の機。その瞬間を、後方で死力を尽くして集中を高めていたアイリスは逃さなかった。
「……私のすべてを捧げます。【悪魔の制約】――発動ッ!!」
アイリスの身体から、青と黒が入り混じる禍々しくも美しく澄んだ魔力が爆発的に吹き荒れた。
己の魔力回路に一時的な過負荷(代償)をかけることで、限界領域を超えた火力を強引に引き出す不条理なる大技。アイリスの肌が蒼白に染まり、瞳が聖なる魔力で激しく発光する。
「全てを穿ち、打ち砕け……『絶対零度・絶界結界破』ッ!!!」
アイリスの掲げた杖の先端から解き放たれたのは、漆黒の極寒を纏う超絶的な結界破壊の波。
無防備になったゴーレムの胸部へ一直線に突き刺さり、全身を覆っていた不滅の「赤い紋様」と「絶対防御の結界」を一瞬で凍てつかせ、音を立てて粉々に打ち砕いた!
バリィィィィンッ!!!!
「グオ……オオオオオオッ!?」
長年誇っていた絶対の防壁が弾け飛び、胸部奥深くの『深層の核』が完全に剥き出しになる。
「結界が壊れた……! みんな、今ですッ!!」
アイリスの叫びに応え、絶望を耐え抜いてきた全員の刃が一つに重なる!
「【疾風迅雷斬】!」
「【剛天・十文字斬り】ィィィィッ!」
「【剛破・崩天撃】ッ!」
「【雷閃・極光突き】ッ!」
「【双影・断絶一閃】ッ!」
五人の必殺の刃と重撃が、無防備になったゴーレムの『深層の核』へと吸い込まれるように同時に直撃した。
ドドドドドドドカァァァァンッ!!!!
「グ……オ……アァァァァ……ッ!?」
耐え切れなくなった『深層の核』が内側から爆発的に粉砕され、巨躯を支えていた魔力を失ったディープ・ゴーレムは、ガラガラと音を立ててただの動かない漆黒の瓦礫へと崩れ落ちていった。
「はぁ……はぁ……やった……! 全員で、打ち砕いたぞぁぁぁぁッ!!」
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
全員の息が揃った決着に歓声が上がり、限界を迎えていたサウスやダイダラが倒れ込みながらも安堵の笑みを浮かべた――その直後だった。
ドズゥゥゥゥン……ッ!!!!
「っ……!? な、なんだこの圧は……っ!?」
「息が……できない……ッ!?」
歓声が一瞬で凍りつく。神殿の中央から解き放たれたのは、世界が崩壊するかのような漆黒と紅蓮の圧倒的気圧だった。
そこにいたのは、かつてリンドを絶望に陥れた異形――アルス=ノヴァを彷彿とさせ、戦闘能力が数万倍へと跳ね上がった【深層化】のリンド。
万の魔物が束になっても届かない圧倒的な魔力の放出に、ゴーレムを倒したばかりの全員が、息を呑んでただ呆然とその方向を見つめることしかできなかった――。




