第38話:深層の巨人
「ヒヒ……ヒハハハハッ!! 雑種どもが揃いも揃ってぞろぞろと……最高のお披露目舞台じゃねぇか!」
神殿の最奥で起き上がったバンド・ジャガラが、狂暴な笑みを浮かべながらこちらを見下している。
「お父さん....どうしてそうなったの...!」
「あん...?だからテメェなんか知らねぇって言ってるだろうがよォ!俺はテメェの父親じゃねぇよ!」
エルニャの必死な呼びかけも虚しく、一蹴されてしまう。クソ親父といえど、奴隷として数年生きていた中で久々に出会った肉親だ。聞きたいことは山ほどあるだろう。
「エルニャ。今は何を言っても聞かないだろう。まずはあいつを黙らせるぞ。」
俺はバンドを目の前にしてまた少し震えてしまっているエルニャをなだめる。
「リンド様....あたし.....頑張る!!」
「お話は終わったかァ雑種共がよ....それじゃあ早速だがお披露目と行くぜェ!!ヒャハハハハハ!!」
その爪が神殿の床を深く引き裂くと、激しい地鳴りと共に漆黒の魔力が地下から噴き出す。
「お前らが外で雑魚相手に遊んでる間に、このダンジョンの『核』は完全に深層へ染まりきったんだよ! 見ろッ! 俺様の最高傑作だぁぁッ!!」
ズズズズズズズ……ッ!!
神殿の中央が激しく陥没し、底知れぬ闇の中から『それ』が姿を現した。
「な……なんだ、あのバカでかい塊は……!?」
サウスが思わず息を飲む。
現れたのは、神殿の天井に届かんばかりの巨躯を誇る土の巨人――『ダンジョンボス・アルテマ・ゴーレム』。深層に染まり、ディープ・ゴーレムへと進化しているようだ。
その全身は泥のような漆黒の岩石で覆われ、体表には血のように禍々しい「赤い紋様」が血管のようにドクドクと脈打っている。
今まで戦ってきた半深層化の魔物とは比べ物にならない、純度100%の『深層』の圧迫感が空間を支配した。
「グオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」
空間を狂わせる地鳴りのような咆哮。
ディープゴーレムがその巨大な岩石の拳を振り上げ、俺たち目掛けて叩き落としてくる。
「散れッ!!」
ボガァァァァンッ!!
間一髪で回避した俺たちの足元で、神殿の石畳が巨大なクレーターとなって崩壊する。衝撃波だけで後方の冒険者たちが吹き飛ばされるほどの威力だ。
「ケケッ! こいつは深層の核と完全に融合した完璧な人形だ! 傷一つ打撃一つつけられねぇぞ! 押し潰されてペチャンコになりな!!」
高台から高笑いしながら見下ろすバンド。
「チッ……! 巨体だからってトロいわけじゃねぇぞ! ダイダラ、頭を押さえるぞ!」
「応ッ! サウス殿、我らの盾で衝撃を殺しますぞ!」
サウスとダイダラが果敢に前線へ躍り出て、次々と叩きつけられる漆黒の岩拳を受け止める。だが、一撃ごとに二人の足元がめり込み、盾からは不気味な打撃音が響き渡る。
「打撃が効かないなら……内部から凍らせる! アイリス、行くわよ!」
「うん! 『極氷の楔』!!」
ナハムとアイリスが放った極大の氷結魔法がディープゴーレムの脚部を包み込み、一時的にその動きを封じ込める。
(硬度も質量も今までの魔物とは桁違いだ……! 普通の攻撃じゃ外殻すら削れん)
俺は大剣を強く握り直し、新スキル【金剛肌】を全身に巡らせた。
「エルニャ! 足止めを合わせろ! 一気に外殻をぶち破る!」
「....わかったっ! 【疾風一閃】!!」
風を纏ったエルニャが氷漬けの脚部を駆け上がり、目の隙間へ短剣を突刺して意識を逸らす。
その一瞬の隙を見逃さず、俺は【時間停止】の領域を展開する準備に入った――。




