第37話:猛威と神殿の異形
「――グルアアアアアアッ!!」
【深層の霧】を中和された深層化キメラが、狂乱の咆哮と共に襲いかかってきた。
漆黒の羽を羽ばたかせ、巨躯からは想像もつかない速度で鋭い爪を振り下ろす。
「サウス殿、ここは我らに任されよ! エルニャ、行きますぞッ!」
「うん……ッ!」
前に踊り出たのはダイダラだ。
新スキルで研ぎ澄まされた体幹と巨躯を活かし、前脚の強烈な一撃を真っ正面から巨大な盾と巨斧で受け止める。
ガギィィィンッ!!
「ぐっ……おおおッ!! 押させはせん……! 私は『ディープレイヤー』の壁だッ!」
大地を砕くほどの衝撃に耐え切ったダイダラが、力任せにキメラの巨体を発進点へと押し返す。
体勢を崩したキメラに対し、背後から忍び寄る影――エルニャだ。
「風よ、我が刃に――【疾風突き】ッ!」
新しく得た脚力と、俊敏な身のこなし。風の魔力を纏ったエルニャの短剣が、キメラの背中で不気味に蠢いていた『蛇の尻尾』を一瞬で切り落とした。
「ギャアアアッ!?」
「逃がさん……! 【剛腕一擲】ッ!!」
蛇の悲鳴に気を取られたキメラの頭上から、ダイダラの渾身の斧撃が振り下ろされる。
脳天を直接叩き割られたキメラは、胴体を真っ二つに裂かれ、大量の黒い返り血を撒き散らして大地へと崩れ落ちた。
「ふぅ……見事な手際でしたな、エルニャ!」
「ダイダラさんのおかげだよ……! ありがとう!」
頼もしく成長した二人の連携に、後方のサウスやナハムたちも思わず感嘆の声を漏らす。
(よし、隙を見て……【捕食】)
俺はどさくさに紛れてキメラの死体に手を伸ばし、その異形の力を奪い取った。
『【捕食】――完了。【合成獣の一撃】【黒翼飛翔】【深層の霧】を獲得』
(【深層の霧】....!?こんなものも使えるようになるのか....。)
中ボスの撃破により、広場を覆っていた不気味な気配が晴れる。
俺たちは勢いを殺さぬまま、中心に佇む『古の神殿』の巨大な扉を押し開けた。
―――
神殿の内部は、外の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
高い天井、立ち並ぶ古代の石柱。
その最奥――神殿の祭壇の階段で、一人の男が豪快にイビキをかいて横たわっていた。
「……フゴー……フゴー…………んぁ?」
扉の開く重厚な音に、男は鬱陶しそうに目を擦りながら体を起こす。
全身に刻まれた不気味な刺青と、凶悪な毛並み。バンド・ジャガラだ。
「随分余裕そうだな....!!」
「あぁ~? なんだよ……もう入ってきちゃったのかよ。まだひと眠りし始めたばかりだってのに……うぜぇなぁ」
あくびを噛み殺しながら、ダルそうに俺たちを見下ろすバンド。
外で何十人もの冒険者が死力を尽くして戦っていたというのに、奴はこの最奥で呑気に寝ていたのだ。
「バンド・ジャガラ……ッ!!」
サウスが復讐の炎を燃やし、大剣の柄を固く握り締める。
エルニャもまた、己のトラウマである父親を見つめ、静かに短剣を構え直した。
「ケケッ、何だその目ぇ? 雑種どもがゾロゾロ集まって……俺様の睡眠を邪魔した罪は重いぜ?」
バンドはニヤリと不気味な笑みを浮かべ、その巨躯をゆっくりと立ち上がらせた――。




