第34話:呪われた血脈と約束
作戦会議が終わり、静まり返った宿屋の一室。
月明かりが差し込む窓辺で、エルニャは膝を抱えて小さく震えていた。
「……エルニャ。眠れないのか?」
声をかけた俺に、隣にいたアイリスが優しくエルニャの背中に手を添える。
エルニャはゆっくりと顔を上げ、ぽつり、ぽつりと静かに語り始めた。
「あたしの家……『ジャガラ一族』はね……強い奴が絶対の、恐ろしい部族だったの……」
かつて獣人の集落で暮らしていた幼少期。
父親であるバンド・ジャガラは、族長でありながら集落の絶対的な支配者として君臨していたという。
「強くなるためなら……仲間の肉でも喰らうような奴だった……。弱かったあたしとお母さんは……毎日暴力を振るわれて……奴隷みたいに扱われてた……」
血を吐くようなエルニャの回想。
バンドにとって、家族とは愛する対象などではなく「己の強さを誇示するための道具」であり「不要になれば処分するゴミ」でしかなかったのだ。
「ある日……お母さんが病気で倒れて、まともに戦えなくなった時……あの奴は……っ」
エルニャの瞳から、ボロボロと大きな涙が溢れ落ちる。
「『使えねぇゴミが』って……お母さんを……あたしの目の前で……殺したの……っ!!」
「……っ!」
アイリスが息を飲み、エルニャを強く抱きしめる。
バンドは妻を殺害した後、幼いエルニャをも「使い物にならないゴミ」として森へ投げ捨てたのだという。
瀕死のエルニャは命からがら逃げ延び、泥水をすすり、過酷な環境を生き延びてウルドの路地裏へと流れ着き、行き場もなく奴隷として捕縛された。それが、彼女の凄惨な過去の全てだった。
「あたし……ずっと怖かった……。あの血が自分の中に流れてることが……いつかあたしも……あんな化け物になっちゃうんじゃないかって……っ!」
震える肩。自分の中にある「同じ血」への恐怖とトラウマ。
そんなエルニャの前に、俺は静かに膝をつき、その視線をしっかりと見つめ返した。
「血なんて関係ない。お前はバンドじゃない。お前は俺たちの仲間で、エルニャだ」
「リンド……様……」
「あんな奴はお前の父親でも何でもない。ただの害虫だ。……俺たちが、お前の過去もあのクソ野郎も、全部まとめて叩き潰してやる」
「うん……!」
アイリスも涙を浮かべながら、エルニャの手を力強く握りしめる。
「そうだよ、エルニャ。血なんて関係ないよ。絶望から這い上がった私たちは、もう家族みたいなものなんだから。……一緒に、あの男を終わらせよう」
「……うん……! ううん……っ! あたし……もう逃げない……! みんなと一緒に……あのクソ親父をぶち殺す……!」
涙を拭い、力強い意志を宿した瞳で頷くエルニャ。
トラウマを乗り越え、本当の意味で『ディープレイヤー』の絆が固まった瞬間だった。
過去の呪縛を断ち切る準備はできた。
明日、狂乱の父親・バンド・ジャガラとの因縁に、完全なる決着をつける――。




