第31話:深海竜の胃袋
ギギギ……と重音を立てて開いた巨大な扉の先。
そこに広がっていたのは、ダンジョンの最奥とは思えぬ広大な『地下水域』だった。
水面が不気味に黒く蠢いた直後――ドバァァァンッ!!
水柱を突き破り、巨躯を現したのは、全身を漆黒の鱗と不気味な黒いモヤで覆われた巨大な竜――『深海龍リヴァイアサン・半深層』。
「グルオオオオオオオオッ!!!」
空間を揺るがす咆哮。次の瞬間、深海竜の口から超高圧の水流ブレス――【ハイドロ・プレッシャー】が放たれる!
「なっ……速い!? 避けきれ――」
「サウス、下がれ! 【魔法無効】!」
前に躍り出た俺が手をかざし、凶悪な水流ブレスを正面から掻き消す。
「助かったぜリンド! 恩に切る! オラァッ、野郎ども、前衛は俺とダイダラで頭を押さえるぞ!!」
「おおッ!!」
サウスとダイダラ、二人の巨漢が踏み込み、大剣と巨斧を深海竜の巨躯へ叩きつける。
前線がガッチリと固定されたのを見届け、俺は後方へ合図を出した。
「ナハム、アイリス! 水の耐性を活かして叩け!」
「任せなさい! アイリス、先ほどのイメージよ!」
「うん……! 波と同調し、穿て――『極氷の交響曲』ッ!!」
アイリスが両手を掲げると、先ほどナハムに教わった魔力同調の技術により、ブラックホールのように集束した魔力が解き放たれた。
極大の氷の槍群が深海竜の胴体を深々と貫き、巨躯の半分を一瞬で氷漬けに変える!
「あら嫌だ、教えた以上の威力を出すじゃない……! 最高よアイリス!」
「ギャオオオオッ!?」
絶叫する深海竜。半身を凍結され暴れ狂う巨竜に対し、エルニャが風のように間合いを詰める。
「隙あり……っ!」
短剣による鋭く的確な目つぶし。視界を奪われた深海竜が狂乱し、周囲の水面を激しく叩き割る。
(――トドメだ)
俺は一瞬で距離を詰め、右手を突き出した。
「【時間停止】」
――ピシィィィンッ!
半径5メートルの空間から、すべての音が消え去る。
暴れ狂う深海竜の動きが、ぴたりと静止した。
灰色の静寂の中、俺は大剣を上段へと構え直す。
道中で捕食した【水流】と【水の心得】で水圧を力にして一気に詰め寄る。
「【星砕き】――」
――ガキィィィンッ!!
時が動き出した瞬間、深海竜の巨大な首が宙を舞い、大量の黒い返り血を上げて胴体が水面へと沈み込んだ。
「「「おおおおおっ!!???」」」
ブルーポセイドンのメンバーたちが絶句する。
S級パーティですら苦戦を免れないはずの『半深層化ボス』を、俺たちはほとんど損害なしで完勝してしまったのだ。
「す、すげぇ……なんだ今の速度……首が一瞬で吹き飛びやがった……!」
サウスが目を見張り、呆然と俺を見つめている。
「よし、終わったな。」
俺は周囲の目を盗み、沈みゆく深海竜の残骸へと手を伸ばし、その強大な力を余すことなく喰らい尽くした。
『【捕食】――完了。【海龍の鱗】【超水流操作】【深層水流】を獲得』
(....ん?【深層水流】?なんだこれ?)
よくわからないスキルも手に入ったが、ダンジョンボスのユニークスキルを手に入れ着実に力を増していく感覚。
これで1つ目のダンジョン攻略は完了だ。一同が胸を撫で下ろし、勝利の喜びに沸き立とうとした――その時だった。
「……ん? なに?……この違和感。」
ナハムが眉をひそめ、崩壊し始めたボス部屋の最奥を凝視する。
ボスが倒れ、深層虫も駆除したことで消えるはずだった不気味な「黒いモヤ」が、消滅するどころか、さらに濃密になって空間を侵食し始めていた。
「おいおい……ボスを倒したのに、半深層化の浸食が止まらねぇぞ!?」
サウスが警戒を強める。
ただの魔物の変異ではない。まるで――「誰かが意図的にダンジョンを歪めている」かのような禍々しい魔力の痕跡が、奥から漂ってきていた。
「……何かいる。このダンジョンを狂わせた『元凶』が、別の場所で動いているぞ……!」
俺たちは武器を握り直し、深まりゆく謎と不穏な気配に表情を引き締めた――。




