第30話:一斉攻略と海の英雄
――そして、一斉攻略当日。
バラクシアのギルド前広場には、何百人もの冒険者たちが溢れかえり、熱気と緊迫感で肌がピリピリと痺れるほどだった。
「おお、来たか『ディープレイヤー』! 貴殿達には一番難易度が高い『深海竜の胃袋』ダンジョンを担当してもらう!」
ギルドマスター・カレンの指名に、周囲の冒険者たちがどよめく。
前回の『賢王の墓』、そして『クロシキの森』でのボス討伐という破格の功績評価が、俺たちをいきなり最高難度へと押し上げたのだ。
「へっ、ギルドも思い切った指名をするじゃねぇか!」
豪快な笑い声と共に歩み寄ってきたのは、肌を褐色に焼いたガッシリとした体躯の男だった。豪奢な大剣を担ぎ、海の男らしい爽やかな笑みを浮かべている。
「俺はバラクシア公認S級パーティ『ブルーポセイドン』のリーダー、サウス・バーチストだ! よろしくな、リンド!」
「サウスか。よろしく頼む」
一見バカっぽく見えるが、その瞳の奥には確かな戦場慣れした鋭さと、仲間を背負うリーダーとしての真摯さが見え隠れしていた。
「ちょっとサウス、挨拶くらいスマートにやりなさいよ。まったく、うちのバカリーダーは……」
サウスの隣から溜め息交じりに前へ出たのは、艶やかな笑みを浮かべるスタイル抜群の巨乳美女――ナハム・オレートだった。
ブルーポセイドンが誇る優秀な魔導士だ。
「初めまして、ディープレイヤーの皆さん。……あら?」
ナハムの視線が、俺の隣に立つアイリスでピタリと止まった。
その瞳が、驚きと感嘆で見開かれる。
「……すごい。身体の周りに緻密な魔力の奔流が見えるわ。貴女、とんでもない魔法の素質を秘めているわね」
「えっ……私……?」
「ええ。よかったらダンジョンの中で、実戦での魔法の扱い方を少し教えてあげるわ」
―――
ブルーポセイドンのメンバー5人と合流した俺たちは、目的の『深海竜の胃袋』へと侵入した。
半深層化により、ダンジョン内は不気味な黒いモヤと狂暴化した魔物で満ち溢れていたが――両パーティの進撃は止まらない。
「オラオラぁッ! 潮風の如く蹴散らせぇいッ!」
サウスが豪快に大剣を振るい、前線で魔物の群れを力強く抑え込む。ノリは軽いが、仲間の死角を完璧にカバーする隙のない立ち回りだ。
そして後方では――。
「いい、アイリス? 魔法は威力を込めるんじゃないの。『波』のように魔力の流れを空間と同調させるのよ。そうすれば、無駄な消費を抑えて一撃の威力を跳ね上げられるわ」
「波のように……魔力を同調……あッ!」
ナハムのアドバイスを受けたアイリスが手をかざすと、黒いモヤを帯びていた魔力が一瞬で澄み渡り、鋭い氷の槍となって複数の魔物を一撃で貫いた。
「すごい……! 魔法が、こんなにスムーズに……!」
「ふふ、呑み込みが早くて教え甲斐があるわね。流石よ」
アイリスが目を輝かせ、指導するナハムも嬉しそうに微笑む。
アイリスの魔法使いとしての才能が、ナハムの手によって急速に開花していく。
ダイダラの鉄壁の防衛、エルニャの隙を突く鋭い一撃、そして俺の【時間停止】を込めた初見殺しの斬撃。
ブルーポセイドンとの見事な連携により、俺たちは一切の足を止めることなくダンジョンの深部へと突き進んでいった。
(ダイダラ達は勿論、アイリスの成長が著しいな...あの魔法使いのおかげか。死霊召喚する必要もなさそうだな。)
しっかりと鍛えた成果が出て割と余裕を持って進めている。俺もしっかり魔物を倒しつつブルーポセイドンに見られないように【捕食】を行う。
「【水流】、【水中呼吸】、【水の心得】、【水耐性】、【炎無効】....まぁ海付近のダンジョンだから当たり前ではあるがほとんど水関係のスキルだな...」
道中捕食した魔物のスキルを確認したところ、10個ぜんごのスキルが新たに表示されていた。
使えそうなスキルを厳選して用途を考えたりしながら、前を突っ走るサウス、ダイダラ達についていく。
そして――。
「……ここが、ボス部屋か」
重厚な巨大な扉の前に到着した俺たちは、武器を構え直す。
扉の奥から漏れ出る圧迫感は、今までの魔物とは比べ物にならないほど禍々しいものだった。
「よしッ! 頼むぜ、ディープレイヤー! 一気に最奥のバケモノをぶち殺して、バラクシアに平和を取り戻すぞ!」
「「おおぉ!!!」」
サウスの気合いの入った叫びと共に、巨大な扉がゆっくりと開かれ始めた――。




