第3話:奈落の怪物と絶望の逃走劇
仕事の関係で一話あたりの内容は短いかもです。。。ご了承くださいませ。
「……うっ……こ、ここは……?」
目が覚めた。生きていた。
奇跡としか言えない。あんな底も見えない穴に叩き落とされたというのに。
立ち上がろうとした瞬間、全身を鈍い激痛が突き抜けた。身体中を強打したようで、耐えきれずにその場へ倒れ込んでしまう。
(ダンジョンの深層部か……? 魔力の流れが異様すぎる。それに……この床、妙に柔らかいが、これは……?)
だんだん目が闇に慣れてきて、自分がいる場所の全貌が見えてきた。
次の瞬間、僕は喉がちぎれんばかりの悲鳴をあげていた。
「う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
巨大なドラゴンだ。僕は、その漆黒の巨躯の上に跨がっていた。
黒い肌に、所々浮かび上がる血のように赤い紋様。圧倒的な存在感と恐怖に、血の気が引いていく。背中の大きな翼は破れてしまっていたが、もしかしたらあの翼がクッションになって、僕は助かったのかもしれない。
(動けない……っ! なんだこのオーラは……逃げなきゃいけないのに、身体が震えて……!)
圧倒的な圧倒感。今度こそ死ぬ。こいつに殺される。逃げることすらできない自分があまりに哀れで、惨めだった。
(……待て。こいつ……息をしていない……?)
どれほど待っても龍が動かないことに気づき、恐る恐る全身を観察する。
よく見ると、龍の脳天に黄金の剣が深々と突き刺さっていた。それがトドメとなり、息絶えていたのだ。
(理由は分からないけど……助かった。死んでいるなら問題ない、まずはここから脱出しないと……!)
僕は痛む身体を引きずり、龍の横たわる部屋から外の通路へと這い出た。
――だが、外に出た瞬間のことだった。
『ブモォォォォォォォォォォォォ!!』
空気を揺らす咆哮。
目の前に現れたのは、牛の頭に人間の身体を持つ魔物――ミノタウルスだった。
だが、僕の知っているミノタウルスじゃない。目の前のソレは、先ほどのドラゴンと同じように漆黒の肌に赤い紋様がいくつも浮かび上がる、禍々しい異形だった。
「な……なんだこいつ……!? 僕の知ってるミノタウルスじゃない……! 深層の異様な魔力で狂暴化してるのか……!? くそっ!!」
僕はすくんだ足に無理やり力を込め、元いた龍の部屋へと逃げ込もうと踵を返した。
だが――異形のミノタウルスは尋常じゃない速度で僕との距離を詰めてくる。
「ぐ……ぐわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
腹部に激痛が走った。
見下ろすと、太い角が僕の腹を貫いていた。溢れ出す鮮血。滴る血の温かさが、死の現実を突きつけてくる。
(知らない……こんなミノタウルスなんて知らないぞ!? 前世の知識の中でも、この世界で十七年生きた知識の中でも……こんな恐ろしい魔物がいるなんて、どこにも書いてなかった……!)
「あ……あぁあ……っ!」
力なく情けない声を漏らしながら、それでも生への執着だけで、僕は這うようにして龍の部屋へ突っ込もうとした。
追撃してきたミノタウルスが、巨大な斧を振りかざす。
必死に身を翻して躱した――と思った、その瞬間。
――ズバッ!!!!
斧の軌道から、目に見えない『透明の斬撃』が飛来した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」
激痛。視界がグラリと揺れる。
自分の左足が、膝下から切断されて宙を舞っていた。
大量の血を撒き散らしながら、僕は見えない斬撃の衝撃で吹き飛ばされ、なんとか龍の部屋の入り口まで転がり込んだ。
どういう理屈なのかは分からない。だが、ミノタウルスはこの部屋の境界線でピタリと足を止め、忌々しそうに咆哮をあげるだけで入ってこようとはしなかった。
片足を失った状態で、肘だけで必死に匍匐前進し、部屋の奥へ。
ドラゴンの死骸に背中を預け、ずるずると座り込む。
視界がどんどん狭くなっていく。腹に空いた穴からも、切断された足からも、僕の命が勢いよく流れ出ていた。
あぁ、僕はここで死ぬのか。
力なく天井を見つめながら考える。
なぜこんな仕打ちを受けなければならないのだろう。一生懸命、努力して生きてきただけなのに。
……ぐうぅぅ。
こんな死の直前だというのに、腹が猛烈に減っていた。つくづくおかしい。人間っていうのは、最後まで愚かだ。
悔しい。僕に力があれば……。
僕を裏切ったあいつらも、外にいる魔物も……全員蹴散らせるような、そんな力が……。
あぁ、本当にこんな時なのに、腹が減って仕方がない。
そういえば、十五でスキルをもらってから、ずっと妙にお腹が空いていたっけ。それでみんなに食べ過ぎだって呆れられたりして。
ぼんやりとした意識の中で、背中にある冷えた龍の肉体に触れる。
(……ドラゴンって、食べられるのかな)
死の間際に、僕はなんてバカなことを考えているんだろう。
いや――こんな時だからこそだ。死んでたまるか。まずは食わなきゃ。
復讐したい……あいつらを殺してやりたい……!! そのためなら、僕は……俺は!!!




