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第26話:悪魔の相殺と鎮魂


「ハハ……冗談だろ……っ!?」


洞窟全体を狂暴に揺らす、漆黒と真紅の魔力の渦。

アイリスを中心に解き放たれた『魔王級魔術』の圧力は、空間の概念すら歪めていた。


「ア……ァァァァァァァァッ!!」


アイリスの怨念に満ちた叫びと共に、圧縮された超高密度の黒炎と雷撃が爆発した。

その圧倒的な破壊の奔流は、物理完全無効を誇っていた【地龍・テンタクルス】を容赦なく呑み込んでいく。


『グガァァァァァァァァッ!?』


絶対的な防御を誇っていた岩石の皮膚がメキメキと崩壊し、巨体が絶叫を上げて焼かれていく。

人間一人が扱っていい威力を完全に超えていた。


(まずい……! このままだとテンタクルスが消し炭になって【捕食】できなくなる……っ!!)


俺は【飛翔】を発動し、死の魔導が吹き荒れる極限の空間へ突入。焦土と化す間一髪のタイミングでテンタクルスの巨体に肉薄し、その肉塊へ手を突き立てた。


『【捕食】――完了。経験値を獲得。スキル【物理無効】【魔力封印】を獲得』


(よし……! だが、問題はここからだ……!)


暴走する魔力で放たれる炎の玉は瞬く間に地龍の体を焦がし、文字通りの灰に変わってゆく。


「あの龍種をこんなにも短い時間で滅ぼすとは...なんて凄まじい魔法なんだ...!」


テンタクルスを滅ぼしてもなお、アイリスの魔力の暴走は収まるどころか増悪していた。

絶望と喪失感に呑まれた彼女の精神は完全に崩壊しかけており、暴走する魔術は洞窟全体を崩壊させ、彼女自身の肉体すら内側から焼き尽くそうとしている。


「アイリス! 俺だリンドだ!正気に戻れ!!」


俺は即座に新スキル【魔法無効】を発動し、アイリスへ向かって足を踏み出した。

――だが!


『ジュウウゥゥゥゥゥゥ!!』


アイリスの炎が俺の服を燃やした。


「なに……っ!?」


俺の全身を覆う【魔法無効】の力場と、アイリスが放つ【悪魔の制約】の魔導がぶつかり合い、激しいスパークを散らして『相殺』されたのだ。

【悪魔の制約】による極大威力が【魔法無効】の許容量を上回り、無力化しきれない! 近づくことすら許されない死の領域だ。


(チッ……魔法無効すら押し通すか! だったら――一か八か、賭けに出る!!)


俺は相殺の隙をついて暴風の中を強行突破し、死の魔導の渦中にいるアイリスの身体へ泥臭く飛びついた。


「ガァァァァッ!!」


慌てて振りほどこうとするアイリスの肩口に歯を立て、その血を一口すする。


「くっ...悪いな、少し血肉をいただくぞ!」


『【捕食】――対象の遺伝情報およびスキル特性を一時的に解析。条件『大切な者の死』の共鳴を感知――スキル【悪魔の制約】を一時的に模倣』


(……喰いつないだ! 俺も捕食で【悪魔の制約】を一時発動させる!!)


俺の体内からも、アイリスと同質の漆黒と真紅の魔力が爆発的に噴き出す。

自分自身に『仲間に裏切られた過去の絶望』を強く強く刻み込むことで制約を強引に満たし、同等以上の魔力出力でアイリスの魔法を力ずくで押し返して相殺する。


相殺の瞬間にできた一瞬の隙――俺はさきほどテンタクルスから奪ったばかりの新スキルを、アイリスの胸元へと叩き込んだ。


「静まれ……っ! 【魔力封印】!!」


ガコンッ!!と重い鎖が噛み合うような打撃音が響いた。


アイリスの体内に渦巻いていた凶悪な魔力の奔流が、地龍のスキルによって一気に封印され、霧散していく。

狂気に染まっていた瞳の赤が急速に失われ、元の透き通るような白銀の瞳へと戻っていった。


「……リ……ン……ド……?」


正気を取り戻したアイリスは、弱々しく俺の顔を見つめた。

そして……限界を超えた魔力消費と疲労により、糸が切れた人形のように俺の胸の中で倒れ込み、静かに気を失った。


「……ふぅ……ヒヤヒヤさせやがる」


俺は激しく消耗した呼吸を整え、アイリスを背中に背負い直した。

そして、崩れた馬車の傍らに静かに横たわる老執事ラウドの遺体へと視線を向ける。


「……ラウドと言ったな。アイリスは俺が責任を持って守る。安心して眠れ」


俺は亜空間ストレージにラウドの遺体を納めると、背中の少女を落とさないようしっかりと抱え直し、崩落を始める洞窟を蹴って一気にダンジョン出口へと脱出した――。

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