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幕間・過去編(前):偽りの神童


この世界において、その名を知らぬ者はいない。

代々、最高峰の魔法使いである『国選魔術師』を輩出し続ける絶対なる魔法の名門――ルナスティア家。


魔法の始祖として信仰されるガルムンド・ルナスティアの一族で、分家の人間でも引っ張りだこの名家である。


15年前、その直系たる末娘として、一人の少女が産声を上げた。


「……おお……! おお、なんという魔力だ……っ!!」


生まれたばかりの赤子を抱いた当主は、歓喜のあまり震えていた。

新生児でありながら、彼女が生まれ持つ魔力数値は『1000』を超えていた。それは鍛え抜かれた成人男性の魔術師すら倍以上引き離す、常識を遥かに逸脱した異常な数値。


少女は『アイリス』と名付けられた。


幼少期のアイリスの生活は、まさに世界の中心そのものだった。

常に数人の専用使用人が身の回りの世話を焼き、皇国屈指の魔法スペシャリストたちが家庭教師として連日屋敷に招かれた。

教えられた術式を即座に理解し、幼くして高等魔法の兆候を見せる彼女は、文字通り「ルナスティア史上一の神童」として持て囃された。


「さすがは私とルナスティアの最高傑作だ、アイリス!」


「ガルムンド様を彷彿させる偉大な魔法使いになること間違いなしだわ!」


「お父様、お母様。私が世界一の魔法使いになるね!!」


冷酷で成果主義の両親も、アイリスにだけは惜しみない愛と賞賛を注いだ。

優秀な姉たちですら、妹に向けられる異例の寵愛には目を見張るほどだった。


「チッ……あんなガキがもてはやされて……」

「お父様もお母様も、あの子しか目に入っていないのね」


6人姉妹の姉たちは、陰でアイリスを忌々しそうに睨みつけていた。

だが、両親からの絶対的な庇護下にあるアイリスに対し、手出しをすることなど誰にもできなかった。

アイリス自身もまた、家族から愛されているのだと信じて疑わず、疑念を知らない無垢な笑顔を咲かせていた。


――そして、運命の15歳。

神の加護たる『スキル』を授かる、人生最大の鑑定の日が訪れる。


ルナスティア家の広大な礼拝堂。

両親や姉たち、屋敷の重鎮たちが見守る中、アイリスは中央に置かれた純白の鑑定結晶へと静かに手をかざした。


神童のスキル発現を一目見ようと、場にいた全員が息をのむ。


「アイリス・ルナスティア!前へ出よ!」


「はい!!」


私は誰よりも良いスキルで必ずルナスティア史上最強の魔法使いになる。自分自身も、その場にいる全員が未来の”最強”の誕生を待ちわびていた。


アイリスが水晶に触れた直後――結晶が眩いばかりの『黄金』の光を放った。


「おおおっ……! 黄金の光! やはり神に選ばれし伝説級のスキルか……!?」


当主が勝利を確信し、歓喜の声を上げかけた、その瞬間だった。


――バリバリバリガララララッ!!!!


「ひっ……!?」


「な...何事だ...!?」


突如として空間が歪み、黄金の輝きを塗り潰すように、禍々しい『赤と黒の雷』のような魔力のオーラが噴き出した。

狂暴な衝撃波が礼拝堂を吹き荒れ、数百年ルナスティア家に伝わる頑丈な鑑定水晶が、メキメキと亀裂を立てて粉々に砕け散ったのだ。


静まり返る礼拝堂。

散らばる結晶の破片の中、黒い煙と共に浮かび上がったスキル名。


【ユニークスキル:悪魔の制約】


「ザワザワ....ユニークだと?」


「あんな光は見たことがないぞ...!?」


それが、アイリスの運命を地獄へと叩き落とす、全ての始まりだった――。

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