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第117話:過熱する歪みと常闇の爪痕


【約束の泉・神殿最深部・異空間】


「見えないなら……見えない未来ごと、この世界を塗り潰してやるよォォォッ!!」


シュウが狂叫とともに両腕を突き掲げる。

その瞬間、神殿の異空間全体を覆う天蓋がドス黒い虹色に激しく歪み、幾重もの巨大な魔法陣が空を埋め尽くした。


「【観測強奪】――『存在証明の否定』『事象崩壊』!!」


ドドドドドドドバァァァァァンッ―――――ッ!!


【森羅万象眼】が発熱で血の涙を流しながら放ったのは、空間そのものを『最初から存在しなかった概念』へと書き換える絶滅の極光!

光線が掠めただけで、周囲の崩落した太い柱や瓦礫が一瞬で分子レベルすら残さず消滅していく。

世界のシステム(女神)を取り込んだシュウだからこそ繰り出せる、広域消滅権能。


「リンドッ! 避け――」


アイリスの叫びが響くよりも速く、消滅の極光がリンドの全身を呑み込んだ。

神殿の床が数百メートルにわたって削り取られ、爆煙と虹色の光芒が空間を埋め尽くす。


「ハハハッ! どうだい山城クン!? 観測できない闇だろうと、空間ごと概念ごと消し去ってしまえば終わりなんだよッ!!」


シュウが高笑いを響かせる。

……だが。


サァァァァァ……ッ。


煙の奥から聞こえたのは、肉体が焼ける音でも、崩壊する音でもなかった。

それは、静かに「何かを咀嚼する」ような不気味な水音。


「……なんだ、この程度か?」


「な……ッ!?」


爆煙を切り裂いて現れたのは、傷ひとつ追っていないリンドの姿だった。

リンドの全身から立ち上る【常闇】が、シュウの解き放った『消滅の極光』そのものをズルズルと黒い渦の中へ引きずり込み、文字通り「喰らって」いたのだ。


「消滅の概念だと? ……お前が消そうとしたその『事象の起点』、丸ごと俺の腹の中だ」


「僕の消滅権能を……喰った……!? 馬鹿な! 概念そのものを喰い殺すなんて……そんなスキルの領域を超えたこと……ッ!!」


シュウの顔から高笑いが消える。

虹色の【森羅万象眼】が狂ったように回転するが、リンドという存在の周囲だけは完全に黒いノイズで覆われ、どんな未来の計算式も導き出せない。


「お前が未来を観測して『果』を決めるなら……俺はその未来に辿り着くための『因』を全て喰い尽くす。……次は、お前のその腕だ.....!!」


ズドォォォォォォォォンッ―――――ッ!!


踏み込んだ瞬間、音すら置き去りにする速度でリンドがシュウの至近距離へと肉薄する。

【深層加速】すら超えた、【常闇】の跳躍。


「くっ……【観測改変】――『距離固定』『不発』――ッ!!」


シュウが焦燥に駆られて概念の壁を展開しようとするが、リンドの左手に宿る【常闇】がその発動の兆候(因果)を一瞬で喰らい砕く!


ピシィィィィィン……ドカァァァァァンッ―――――ッ!!


「ガッ……ハァッ……!? ああぁぁぁぁぁぁッ!?」


リンドの剣による一撃がシュウの右肩を深々と穿ち、肉と骨を抉り取る!

【観測改変】の防壁を完璧に破られ、激痛に顔を歪めるシュウ。

さらに、傷口から流れ出るシュウの魔力と「女神の核」の概念が、リンドの剣を通じて【常闇】の底へと引きずり込まれていく!


「あはっ……痛い……痛いよ山城クン……! でも……でもこれだよ! これこそが僕の求めた……僕の観測を上回る『本物の絶望』ッ!!」


右肩から血を撒き散らしながらも、シュウの瞳に宿る狂気は死んでいなかった。

傷口から異形の水晶が異常増殖し、傷を強引に塞ぎながら、シュウの全身がさらに凶悪な「第三形態」へと変貌を始めていく。


「さぁ、ここからが本当の戦いさ.....最高の【王】になってみせてよ!!」


やがてシュウの半身は結晶に覆われ、左右非対称の体へと変化してゆく。異常な魔力の集合体となったシュウを前に、【常闇の王】へ成ったリンドに緊張が走る。

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