第112話:侵食する観測領域
【約束の泉・神殿最深部】
「燃え尽きろォォォォォッ!!」
アイリスの前に展開された三重の極大魔法陣から、全属性の理を宿した深紅とドス黒い闇の奔流がシュウへと叩きつけられる。
神殿の空間そのものを焼き尽くす一撃。だが――。
『【観測改変】――『消滅の未来』を確定。』
ピシィィィィィンッ―――――……!!
シュウの右目に宿る【森羅万象眼】が不気味に輝くと、アイリスの放った極大魔法がシュウに届く手前で不自然に霧散し、まるで最初から存在しなかったかのように消滅した。
「そんな……私の魔法まで『消された』……!?」
「アハハハッ! 僕が観測すれば、どんな攻撃も存在しなかったことにできるんだよ! これぞ世界のシステム.....女神そのものとなった僕の領域ッ!!」
絶望的な神のチート権能を前に、アイリスが息を呑む。
シュウが不気味に笑い、異形の水晶腕から放たれる虹色の衝撃波がアイリスへと迫る――その瞬間
ズドォォォォォォォォンッ―――――ッ!!
「黙れ……『観測』だの『未来確定』だの……くだらねぇんだよッ!!」
壁の瓦礫を粉砕して躍り出たリンドが、アイリスの前に割り込み、右腕の【捕食】でシュウの虹色衝撃波を真っ向から噛み砕いた。
胸部から血を流しながらも、リンドの瞳には絶望など微塵もなく、凶暴な不敵の笑みが浮かんでいた。
「リンド……!? でも、あいつの【森羅万象眼】は当たらない未来を書き換えて――」
「アイリス、お前の全属性魔法で空間全体の『魔力の密度』を限界まで上げろ。……奴に『観測する余地』を与えないほど、過密な情報を叩き込んでやる」
「……! わかったよッ!!」
リンドの意図を察したアイリスが、残された魔力を解放し、神殿全体を過密な【擬似深層】の魔力粒子で埋め尽くす!
空気中の密度が跳ね上がり、情報量が爆発的に増大していく。
「何を企んでいるのかな....?何をしたって無駄だよ二人とも!!早く【王】に覚醒しなよ....!!」
無数の魔力粒子が不規則に蠢く空間で、シュウの【森羅万象眼】の光線にわずかな「遅延」が生じる。
その一瞬の隙を突いてリンドが肉薄し、黒金の拳をシュウの顔面へと叩き込む。
ドカァァァァァンッ―――――ッ!!
「おおぉ……!?」
【森羅万象眼】の絶対防壁を強引に突破し、シュウの顔面を捉えたリンドの一撃が繰り出される。
シュウの体が神殿の壁を何重にも突き破りながら吹き飛んでいく。
「やった……捉えたわッ!!」
アイリスが声を上げる。だが――吹き飛んだ瓦礫の中から、シュウは全く無傷の状態で、正気を疑うような高笑いを響かせながら立ち上がった。
「あはっ……あははははッ!! 素晴らしい! 素晴らしいよ山城クンッ!! 観測のラグを狙って僕の未来確定を強行突破するなんて……!!」
シュウが歪んだ笑みを浮かべ、両手を広げると、胸の奥に埋め込まれた『女神の核』が不気味な黒金色へと変色を始める。
「でもね……僕が用意したゲームは、こんな浅いものじゃないんだよ。……見せてあげるよ、女神サマの記憶に刻まれた『世界の終わりの風景』をねッ!!」
ズズズズズズズズズズッ―――――……!!
神殿の空間全体がぐにゃりと歪み、周囲の壁や床が黒い液体のように溶け出し始めた。
地面から女神を模った泥人形がいくつも姿を現す。やがてしっかりとした固形となった人形がライオ達に襲い掛かる。
「な....なんだこいつらは!?.....うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
ライオ、ダイダラ、サウスが即座に戦闘態勢を取り、応戦する。しかしその女神人形は常軌を逸した強さで一体一体が【グラルド】のレベルだった。
「やめ....やめろ!!....くそっ!!!」
俺は仲間達を助けようと人形達を攻撃しようとする。しかし。
「山城クン!!君の相手はこっちだよ?よそ見なんてしてていいのかな?」
シュウが目の前に立ちはだかる。
「くそっ....邪魔だ.....!!」
俺はなんとかシュウを避けて仲間のサポートに入ろうとするが、【観測】された未来の前では無力で、全てのルートが防がれた。
「リンド様ァァァァ!!我々は大丈夫です!!どうかご自身の戦いに集中なさってください!!」
ダイダラが叫ぶと同時に、【隷紋・解放】を発動。主であるリンドの【混沌】を飲み込み、【深層化】のその先へと至る。
「あたしも.....負けないんだから!!!」
エルニャも同様に覚醒。【混沌の従者】となった二人が女神像を攻撃する。先ほどまでは全く届かなかった攻撃が一転、よろける女神像にすかさずライオが追撃を仕掛ける。
「これなら.....いける!!リンド!!俺らの事は任せてくれ!!」
「お前ら....ありがとう。」
俺は安心し、シュウに向き直る。




