第110話:極北の凍土と約束の泉
【世界の北端・約束の泉・前庭】
交易都市ウルドを出発したリンド一行は、極寒の吹雪が吹き荒れる世界の北端――【約束の泉】へと足を踏み入れていた。
視界を真っ白に染め上げる猛吹雪の中、眼前に姿を現したのは、氷と黄金の装飾で彩られた巨大な古代神殿だった。
「ここが……【約束の泉】……。空気が重いわ……世界中の魔力が集束しているのを感じる……!」
【擬似深層化】の後遺症から全快したアイリスが、白銀の髪をなびかせながら神殿を見上げる。
その背後では、カレンのヒーラー部隊によって完治したライオ、ダイダラ、エルニャ、サウス、ナハムが武器を構え、周囲を警戒していた。
「冷気の中に……微かに『死線』の匂いが混ざってやがる。シュウの奴、お行儀よく待ってるわけじゃなさそうだ」
リンドの瞳に不気味な黒金の光が宿る。
【神深眼】の時間制限は切れたものの、シアンから【捕食】した天害級スキル【吸収】と数多のチートスキルが、リンドの【深層】の中で静かに脈打っていた。
『アハハハッ! ようこそ、世界を救う勇者様ご一行! 待っていたよ、山城クンッ!!』
ズバァァァァァァンッ―――――ッ!!
神殿の門が轟音とともに開き、吹雪を突き破って狂気的な叫び声が響き渡る。
神殿の深部から姿を現したのは、観測者・シュウだった。
「シュウ……! 逃げずに待っていたのは褒めてやる。だが、ここがお前の墓場だ....!!」
リンドが冷徹に告げ、深層剣を構える。
「墓場? それは違うよ、山城クン! 僕は世界を救うこの世界の【王】の誕生が見たいんだ!僕はその為の敵役....最高の助演なのさ!」
シュウが狂ったように腕を広げると、神殿の奥から巨大な「光の柱」が天へと昇り、極北の空を黄金色に染め上げた。
光の柱の中には、巨大な水晶に包まれた美しくも不気味な女性の影――この世界の概念そのものを司る『女神』が静かに眠っていた。
「あの水晶……あれが『女神』なのか……!」
ライオが大剣を握り締め、殺気を飛ばす。
「さぁ、その目を覚まして女神サマ!!【王】があなたの悲願を達成しにやってきたよ!」
シュウが女神の眠る水晶に手を触れる。その瞬間、水晶が激しい光と共にピシピシと音を立てて割れはじめ、女神がその姿を現し始める。そして----。
パリィィィィィィンッ!!!!
激しい音と共に水晶が割れ、ついに女神が地に降り立った。
『【転生者】よ.....よくぞ教皇を倒し、この地に来てくれましたね....礼をさせてください。』
女神は目を開くと、リンドをまっすぐ見つめ話し始める。
「君にそんなことを言う権利はないよ、.....よっと....。」
その女神の後ろに立っていたシュウが女神を剣で刺す。
『あ.....わた....し.....の世界.....の....糧に......』
口から血を流す女神。やがて女神の体はシュウに吸収され始め、一つとなった。
「何を....してるんだ.....!?」
状況が飲み込めない俺達をよそに、シュウはその姿を変える。先ほどよりも髪が伸び、切断されたはずの右腕には「透明なクリスタルで形成された異形の義手」のようなものが生え、その眼にはリンドのような魔法陣が虹色で描かれていた。
「ハハハハハ....!!さぁ、山城クン!!絶望を乗り越えて完全なる【王】になってくれよ!!」
蒸気を逸した魔力を放つシュウが迫る。本当の最終決戦の幕が、今上がる。




