第108話:偽神と深層の終局
【サングリア領上空・崩壊都市】
『消え去れぇぇぇぇッ! 【深層】の化身どもがぁぁぁぁッ!!』
巨大な【神殻形態】へと変貌したシアンの全身から、サングリア全域の酸素と魔力を食らい尽くす黒金の衝撃波と、二十本の触手による全方位即死攻撃が解き放たれる。
空気が触れる先から黒く腐敗し、重力すら捻じ切れる死の空間。
「アイリス! 奴の【神殻】は外部からの魔力を全て『吸収の膜』で分解・無効化してやがる! 魔法単体じゃ殻の外側で散らされるぞ!」
「なら、どうするの……!? 内部に魔力を叩き込む隙なんて――」
「俺が殻ごと『強引に噛み破る』! お前はその破れ目に、全魔力を注ぎ込めッ!!」
死線が見える【神深眼】が失われていようと関係ない。
リンドの身体から湧き立つのは、いかなる概念や防壁すら力ずくで喰らい散らかしてきた【捕食】の暴力そのものだった。
「【深層捕食・極限開放】――――ッ!!」
ズドォォォォォォォォンッ―――――ッ!!
リンドの全身を覆う黒と金のオーラが、数十メートルに及ぶ巨大な「深層の顎」へと姿を変える。
襲い来る二十本の触手と即死の衝撃波を、リンドはその巨大な魔力のアゴで真っ向から噛み砕き、力任せに咀嚼して呑み込んでいく!
『な……なにぃぃぃぃッ!? 私の神殻の侵食を……私の攻撃そのものを喰らっているだと……!?』
「言ったはずだ……俺の底は、お前が思っているより遥かに『深い』ってなァァァッ!!」
攻撃を喰らい、魔力へ変換しながら空を強行突破するリンド。
音速を超えた突進で神殻シアンの至近距離へと肉薄すると、異形化した右腕の爪をシアンの胸部――固く閉ざされた「神殻の装甲」へと深く突き立てた!
バリバリバリバリバリッ―――――ッ!!
「【深層剛爪・概念破砕】――開けぇぇぇぇッ!!」
神殻の装甲がミシミシと悲鳴を上げ、リンドの圧倒的な腕力と【捕食】の波動によって力任せに引き裂かれる!
黒金の重装甲の奥から、無数の怨念が渦巻くシアンの生身の核が剥き出しになった。
「今だアイリスッ!! 叩き込めッ!!」
「任せなさいッ!! これが……私たちの全霊ッ!! 【全属性極大超絶複合貫通魔法】――『天穿つ深層の魔法槍』――――ッ!!」
ドバァァァァァァァンッ―――――ッ!!
リンドが強引にこじ開けた神殻の亀裂へ向け、アイリスの放った超高密度の極光が一直線に突き刺さった!
【魔法の王】の理論と【擬似深層】の莫大な出力が凝縮された一撃は、シアンの「吸収の膜」に干渉される間もなく、剥き出しになった核の深部へと完全に貫通する!
『ゴ……ガハッ……!?ぐぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!』
内部から爆破されたシアンの巨体が、絶叫とともに内側から激しく発光し、何重もの爆発を起こしていく。
何千人もの怨念、過去に奪ってきた転生者たちのスキル、そして天害級スキル【吸収】の構造そのものが、完全に崩壊・霧散していく!
「終わりだ、偽りの神!!【深眼】....【金剛力】....【星砕き】....!!!」
リンドがシアンの崩壊しかけた体に全力の【星砕き】をぶち込む。直撃したシアンの体は崩壊を早め、だんだんとただの肉塊へと変わる。
ゴオオオオオオオオオッ―――――ッ!!
すかさず散り散りになる肉塊を【捕食】すると、シアンの中に溜め込まれていた全魔力と天害級スキル【吸収】の概念そのものが、リンドの【深層】へと津波のように呑み込まれていく。
シアンの巨体は急速に縮み移り、ただのボロボロの老人のような転生者の肉体へと変わり果てていった。
『バ……バカな……この私が……神に至るはずの私が……ただの人間に……喰われる……など……ッ』
「お前は神なんかじゃない。……俺と同じただの『泥棒』だ」
ズガァァァァァンッ―――――ッ!!
核を全捕食され、完全に存在を破砕された教皇シアンの肉体が、崩壊する大聖堂の瓦礫の山へと力なく叩き落とされた。
二度と起き上がることはない。サングリアを数百年にわたって支配し続けた天害級スキル【吸収】の所有者は、ここに完全に潰えた。
「ハァ……ハァ……やった……本当に……終わったのね……。」
『シアンの【捕食】を確認。スキル【吸収】を獲得。および【吸収】によってシアンが獲得したスキルを全て解放しました。』
空中で【擬似深層化】を解除したアイリスが、安堵の表情とともに倒れそうになる。
それをリンドが素早く片腕で受け止めた。
「ああ。シアンは片付いた……だが....。」
サングリアの空を覆っていた不気味な黒金色の雲が晴れ渡り、崩落した大聖堂の廃墟に澄み渡る陽光が差し込む。
地上からは、血まみれになりながらソノザキを打ち破ったライオ、ダイダラ、エルニャ、サウス、ナハムたちが、空を見上げて歓声を上げていた。
「あはッ……あははははッ!! 最高だ……最高だよ山城クンッ!! 教皇サマの神殻すら力づくでブチ破って丸呑みしちゃうなんて……やっぱり君こそが、僕の求めた最高のイレギュラーだッ!!」
瓦礫の頂で、片腕を失った観測者・シュウが、狂気的な拍手とともに二人を見下ろしていた。
「それにしても喋りすぎだなぁ教皇サマ....さ、『女神サマ』が世界を救った君たちをお待ちだよ!ここより北の地にある、【約束の泉】にて待ってるね!アハハハハ!」
そういってシュウは再びどこかへ消え去った。




