第107話:深層の双璧と崩壊の天殻
【サングリア領上空・崩壊都市】
「アイリス、右の五本の触手はお前が削れ! 左の五本と核は俺が強引に叩き割る!」
「了解! 【深層】の出力上限を合わせるわ……合わせて引き潰す!!」
上空で背中合わせに跳躍したリンドとアイリス。
二人の肉体から溢れ出るドス黒い【深層】の魔力が重なり合い、サングリアの空全体を覆う巨大な漆黒の磁場を形成していく。
『破滅しろォォォォォッ! イレギュラーどもがァァァッ!!』
【神深眼】の制限時間が切れて死線が見えなくなったリンドの隙を突こうと、理性を完全に失ったシアンが十本の【神壊の触手】を大輪の異形のように開花させる。
十本の触手の先端からは、サングリア全土から吸い上げた怨念の極光と、過去に屠ってきた転生者たちのチートスキルの残滓が雨のように降り注ぐ。
「【擬似深層・全属性極大超絶破壊魔法】――『漆黒の果て(ハデス・レイ)』ッ!!」
ズババババババババッ――――ッ!!
アイリスの前に展開された巨大な魔法陣から放たれたのは、深紅の閃光とドス黒い炎が渦巻く極大の波動。
右側から迫る五本の【神壊の触手】から放たれたチートスキルの弾幕が、アイリスの魔法に接触した瞬間、衝撃で弾け飛ぶどころか「分子レベルで崩壊」しながら漆黒の炎に呑み込まれて消滅していく!
『なッ……!? 私の【吸収】の触手が……魔法の火力だけで消滅させられるだと……!?』
「【深層】の魔力に全属性の理を上乗せすれば、お前の『吸収の式』が成立する前に蒸発させられる! 理屈が分かればただの的なのよッ!!」
【魔法の王】たるアイリスの理論と、【深層】の莫大な出力が組み合わさった絶対的な破壊力。
【吸収】の処理能力を超える純粋なエネルギーの奔流が、シアンの右側の攻撃軌道を完全に遮断する!
「暴走して頭が悪くなっちまったんじゃないのか?こっちががら空きだぞ!!」
アイリスが右側の攻撃を粉砕した一瞬の隙を突き、リンドが空を蹴る。
【神深眼】を失い死界は見えずとも、リンドの身体にしみ込んだ戦闘本能と【深層加速】が、シアンの左の触手の根元を正確に捉えていた。
「【深層・剛力喰破】――――ッ!!」
ガギィィィィィンッ―――――ッ!!
左腕の【深層化】した異形の爪で一本目の触手を力任せに掴み取り、そのまま【捕食】の概念を発動して肉体ごと噛み千切る!
さらに残る触手を深層剣で根元から叩き割り、シアンを防ぐ「盾」を力任せに削ぎ落としていった!
『ガハッ……あ……あぁぁぁぁぁぁッ!? 私の……私の力が……引き剥がされていく……ッ!?』
「いいぞリンド! そのまま核を――ッ!?」
リンドがそのままシアンの胸の核へ突き進もうとした――まさにその時!
シアンの胸部から不気味な黒金の体液が大量に噴出し、切断された十本の触手が倍の「二十本」へと急激に再生・膨張を始めた!
『ルァァァァァァァァァァッ―――――――ッ!!』
狂乱するシアンの咆哮とともに、大聖堂の地下深くに残されていた全ての「怨念の地脈」が上空へと噴き上げる。
シアンの巨体は十メートルを超える巨大な黒金の神殻へと変貌を遂げ、サングリアの空そのものを巨大な「吸収の胃袋」へと塗り替えていく!
「チッ……! 往生際が悪い……! 形態変化ってワケ!?」
「アイリス、気を付けろ! 空気の概念そのものが奴の魔力に侵食されてる! 触れるだけで魔力を吸い取られるぞ!」
『ハハハハハ! 無駄だ無駄だ無駄だぁぁぁッ! この【神殻形態】となった私に、人間ごときの攻撃はもはや届かん! 世界ごと私の中に溶け落ちるがいいッ!!』
サングリアの空全体が不気味な黒金色に染まり、巨大化したシアンから無数の破壊光線と重力波が全方位へと解き放たれる!
「上等だ……! 姿が変わろうが、デカくなろうが関係ねぇ!」
「ええ! どんなに固い殻でも、二人で叩き割ればいいだけの話よッ!!」
更なる絶望的な進化を遂げた神殻シアンに対し、リンドとアイリスは不敵に笑い合い、空中で更なる魔力の高みへと跳躍する。




