第11話:賢王の終焉と、血塗られた王の真実
『賢王の墓』最上階。
ボロボロの城内とは一線を画す、異様なほど煌びやかな大扉が立ちはだかっていた。
無数の絢爛な宝石で彩られたその装飾は、かつてこの城にいた国王の強欲さと傲慢さを如実に物語っている。
「無駄に豪華な扉だな……」
俺はお構いなしに扉を強打し、豪快に蹴り開けた。
『グルァァァァァァァァァァァァァ!!』
室内に轟く、鼓膜を裂くような重低音の咆哮。
玉座の間で待ち受けていたのは、超巨大なドラゴンのゾンビだった。腐肉が垂れ下がり、所々から巨大な骨が剥き出しになっている。眼球は潰れ、ボロボロの翼を広げて威嚇してくる。
だが――俺の視界に入った瞬間、脳内のスイッチが切り替わった。
理性と抑制が弾け飛び、黄金色の眼光が凶虐な捕食者の色へと染まる。
「Sランク相当の極上モンスターか……! 食いごたえがありそうじゃねえかぁぁぁ!!」
【浮遊】で瞬時に上昇し、ドラゴンゾンビの頭上から【蒼炎弾】を掃射!
頭部が青い猛火に包まれ、巨体を乱暴に揺らして暴れ回る。その隙を見逃さず、俺は【空間魔法】で二本の凶剣を両手に引き抜いた。
「龍種特攻が効くか……試させろ!【黒雷】!!!」
【黄金龍の煌剣】にドス黒い雷光を纏わせ、肉薄して巨躯を切り裂く!
新スキル【剣術の心得】による補正と龍種特攻が相乗効果を起こし、破格の一撃が激痛となってドラゴンを襲う。
『ガァァァァァァァァァァァァァァ!!!』
狂乱したドラゴンゾンビは、顎を大きく開き、濃密な【闇魔法】を込めた暗黒のブレスを放射してきた。
当たれば肉体ごと消滅しかねない威圧感。だが、俺は【高速移動】で空を滑るように回避し、そのままカウンターの魔法を唱えた。
「【闇魔法:ダークネスバインド】!!!」
床の闇から紫のオーラを纏った極太の黒鎖が伸び、ドラゴンの巨躯を絡め取る。
強引に鎖を千切ろうと暴れる龍に対し、俺は薄笑いを浮かべながらさらに魔力を注ぎ込んだ。
「逃がさねえよ……【魔力暴走】!!」
鎖が爆発的に太くなり、巨体からは想像もつかない素早さを誇っていた龍を床へと完璧に磔にする。
「ここが貴様の死に場所だ!【星砕き】!!」
空中から急降下し、縛り上げられた頭部へ最大威力の叩き付けを叩き込む!
『ガルァァァァァァァァァァァァァ!!』
頭蓋が砕け散る鈍い音と共に、ドラゴンの巨躯がドスンと地響きを立てて沈黙した。
(ハッ……終わりか……! 喰わせろ……!)
肉を貪ろうと無我夢中で駆け寄った、その瞬間――。
ドスッ……!!
「……っ!? ガハッ……!?」
背後から絶大な激痛。
見下ろすと、紫の怪光を放つ宝剣が俺の胸を貫通していた。
吐血しながら振り返ると、そこには豪奢な王冠と衣装を纏った、凄まじい威圧感を放つゾンビが立っていた。
『吾輩のペットを痛めつけてくれたお礼だ……受け取ってくれたかね?』
……なるほどな。
『賢王の墓』の真のボスは、ドラゴンではなくこの国王の死骸か。油断した俺の隙を完璧に突いてきやがった。
「……チッ、油断したぜ。ボスが一体だけなんてルールはねえよな……【一角獣の後光】!!」
『ぬうっ!? 聖なる光属性か……ぬぉぉぉぉぉぉ!!』
背後から放たれた眩い純白の閃光に、国王ゾンビは顔を歪めて跳び退いた。
俺は胸の貫通傷を見下ろす。【自動回復】と【再生】のダブル発動により、激しい音を立てて肉芽が盛り上がり、一瞬で傷口が塞がっていく。
「へっ……無敵になった気分だぜ。……まあ、HPはだいぶ削られたがな。今度は俺がお返しする番だ!」
両手の剣に再び【黒雷】を宿らせ、距離を詰めて【切り裂き】を連続で解き放つ!
国王ゾンビは宝剣で必死にいなすが、双剣による怒涛の連撃に追いつけず、一瞬の隙が生じた。
「がら空きだぜ、王様ぁぁぁ!!」
首を刎ね飛ばそうと踏み込んだ、その瞬間――。
ズバァァァァァァン!!
側面から放たれた強烈な打撃。ドラゴンの巨大な尻尾が俺の攻撃を完璧に遮断した。
「なっ……こいつ、頭が吹き飛んでるのに動きやがるのか!?」
頭部を失ったドラゴンゾンビが怪力任せに立ち上がり、再び襲いかかってくる。首がなくても動く真の不死者。
ドラゴンの尾撃と、国王ゾンビの精密な剣術。二通りの攻撃が同時に襲いかかる。
ガキィン! ボガァン!!
二本の剣で両者の攻撃をいなし続けるが、このまま正面から打ち合えばジリ貧だ。
俺は【浮遊】で即座に空中へ離脱すると、覚えたての【死霊魔法】を解放した。
「出てこい……!【死霊召喚】!」
一対の召喚にMPを100も持っていかれるが、深層種化した俺の限界知らずの魔力容量なら痛くも痒くもない。漆黒のモヤから、先ほど倒したスカルナイトが五体現れた。
『なに……!? 生身の人間が死者を使役しただと……!? 小賢しい悪知恵を!!』
驚愕する国王ゾンビに骸骨騎士たちをぶつけ、時間を稼ぐ。
俺の狙いは一つ――まず、鬱陶しい巨大な龍を完全に息の根を止めることだ。
【一角獣の後光】で頭部の再生を阻害しつつ、【蒼炎弾】で怯ませる。
さらに特効を持つ【黄金龍の煌剣】で肉体を切り刻み、【呪いの刃】の呪術効果で再生の回路を完全に断ち切る。
俺一人が、まるで一つの軍勢であるかのように戦場を支配していく。
『奴は……魔物なのか……!? いや、あの左頬の不吉な紋様は……! あぁ忌々しい! 忌々しいぞぉぉぉ!!!』
召喚した骸骨たちが倒される度に、さらに騎士とスカルマージを追加召喚して敵の足を止める。
「よし……まずは巨大なお前から喰ってやる。今度こそ塵一つ残さず消し飛べ……【流星群】!!!」
天を仰ぎ、俺は広域壊滅奥義を発動した。
天井を突き破り、降り注ぐ灼熱の巨石群。
深層の魔神アルス=ノヴァにも匹敵する極厚の物理耐性を誇っていたドラゴンゾンビも、この絶対的な破壊力の前には形無しだった。一発、二発、三発と隕石が叩きつけられ――四発目が直撃した瞬間、巨体は肉片と骨の砕片となって四散した。
「はぁ……はぁ……喰わせろ……ッ!!」
俺は倒れたドラゴンゾンビの肉へと飛びつき、夢中で食らいついた。
骨や肉があまりにも硬く噛み切れなかったが、新スキル【噛み砕き】を発動させると、顎の力が跳ね上がり、硬質な骨ごとゴリゴリと噛み砕くことができた。
騎士の骨よりも塩気が強く、熟成された深い味わい。前世の酒が猛烈に欲しくなる最高の“食材”だった。
『【ドラゴンゾンビ】を捕食しました。経験値を獲得』
『スキル【暗黒の息吹】を獲得』
『スキル【物理・魔法耐性】を獲得』
(なるほどな……この狂ったタフさは、このダブル耐性スキルのおかげだったのか)
骨をボリボリと音を立てて噛み砕きながら、俺は冷たい眼光を残り一人の国王へと向けた。
『そ……そんなバカな……吾輩のドラゴンが食い尽くされた……!? くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!』
ようやく召喚体どもを全滅させた国王ゾンビが、なりふり構わずこちらへ突進してくる。
「一対一なら、お前なんざ何の脅威でもねえよ。愚王が」
すれ違いざま、【見えざる斬撃】を一閃。
不可視の刃が、国王ゾンビの首をあっけなく切断した。
ポロッと転がった首級が、血の海の中で狂ったように叫ぶ。
『くそっ……くそ!!! 吾輩は二度も殺されるというのか!! その頬の紋様……アダムスの子か何かか!!?』
「……は? アダムス……? 国王にも、この紋様があるのか……!?」
踏み留まり、転がる首を見下ろす。
『親族ではないのか……!? そうだ、忘れもしない! あの悪魔のような顔! 吾輩の美しき王国を一夜で滅亡に追いやった、憎きアダムス=ユングベリ!! 奴もお前と同じ黒き頭髪と、血のような赤の紋様を持っていたのだ!!!!』
――ッ!?
嘘だろ……。
だが、死に瀕したこのゾンビが嘘を吐いているようには見えなかった。
ウルド王国の現国王アダムスも、深層種の力を持っている……?
もしそれが本当なら、人間を超越した寿命で数十年間も国を治め続けている理由にも説明がつく。
現国王が、魔物と同質の存在……?
俺は知らず知らずのうちに、この世界の根幹に関わる恐ろしい闇の深淵へ足を踏み入れつつあるのかもしれない。
「……お前の国に何があったかは知らんし、興味もない。だが……俺はあの国王を殺し、理不尽なこの世界に復讐する覚悟がある。お前の無念もまとめて晴らしてやるから、あの世で高見の見物でもしてな」
『……!! おお……勇猛なる少年よ……だが気をつけろ……。アダムスは……奴は人間の皮を被った魔物だ。生半可なスキルでは返り討ちに遭う……頼んだぞ……少年……』
国王ゾンビの眼光から光が消え、ついに完全に事切れた。
俺は複雑な思考を巡らせながらも、まだ温かい(?)国王の死体へと膝をつき、肉を貪り始めた。
「お前の無念の分まで……あいつに復讐してやるよ。力を貸してくれ」
『【賢王・ボヌルド】を捕食しました。経験値を獲得』
『スキル【死霊魔法・極】を獲得』
『スキル【執念の怒り】を獲得』




