第105話:虚空の神戦と転生者の遺恨
【サングリア領上空・崩壊都市】
ズドォォォォォォンッ―――――ッ!!
大聖堂の天頂を突き破り、二つの化け物がサングリアの空へと躍り出た。
昼なお暗いサングリアの上空には、黒と金の渦を巻く巨大な雲海が広がり、落雷と次元の亀裂が絶え間なく世界を打ち叩いている。
『死ねぇぇぇッ! リンド・アルターヤァァァッ!!』
理性を怨念に呑み込まれたシアンが、上空で十本の【神壊の触手】を大輪の花のように開花させる。
次の瞬間、シアンの全身から放たれたのは、かつて彼が屠ってきた数知れぬ転生者たちの「チートスキル」の無差別連写だった。
『【極光の聖剣】――【天塩の暴風】――【絶望の黒炎】――【絶対零度の棺】ッ!!』
ドガガガガガガガガガガッ―――――ッ!!
空そのものが色鮮やかな破滅の色彩で埋め尽くされる。
レーザーのごとき光の束、あらゆる物質を塩と化す暴風、触れた概念を焼き尽くす黒炎、そして空間ごと凍てつかせる絶対零度の嵐。それら数十種類のチートスキルが、【全霊吸収】による底なしの魔力によって数千倍に増幅され、全方位からリンドへ殺到する。
「チートスキルの安売りか……ッ! 一つひとつは強力だが、統一感も思想もねぇ! そんなモンで俺の【深層】が穿てると思うなッ!!」
上空を自在に舞うリンドの【神深眼】が、数千の攻撃軌道を一瞬で演算・分解する。
背後に展開した【深層の闇】を翼のように押し広げ、襲い来る光線や黒炎を真っ向から喰らい散らしていく。
「【深層捕食・波状吸収】――――ッ!!」
バリバリバリバリッ―――――ッ!!
リンドの体表を覆う黒金のオーラが巨大なアゴのように跳ね上がり、シアンの放った【絶対零度の棺】や【天塩の暴風】の概念を次々と噛み砕き、自らの魔力へと還元していく。
どれほど強力なチートスキルであっても、「奪うだけ」で自分の血肉にできていないシアンの攻撃は、リンドの純粋な【深層】の胃袋を満足させる糧に過ぎなかった。
『なに……ッ!? 私が奪ってきた転生者たちの真髄を……ことごとく呑み込んでいくというのか……!?』
「言ったはずだ、お前のスキルは『密度のムラ』だらけだってな! 借り物の力でイキがってんじゃねぇよッ!!」
空を裂く加速。音速の壁を何重にも突破したリンドが、スキルの弾幕を強引に突き破り、シアンの背後へと回り込む。
「【神深技・絶空断】――ッ!!」
スパァァァァァァンッ―――――ッ!!
漆黒の深層剣が空を横一文字に切り裂く。
シアンが背中に展開していた十本の【神壊の触手】のうち、右側の五本が一瞬にして根元から切断され、空中で悲鳴を上げながら黒い泡となって消滅した!
『グガァァァァァァッ!? 私の……私の神領域が……ッ!?』
「片翼はもらったぞ! これでお前はもう、上空での体勢を維持できねぇ!!」
『おのれ……おのれぇぇぇッ!! 許さん……許さんぞリンド・アルターヤ!! 【神域絶対即死】――ッ!!』
右側の触手を失い、空中での平衝を崩したシアンだが、残された額の【第三の神眼】から全魔力を注ぎ込み、リンドを中心とした半径数百メートルの空間に重力と即死の概念を叩き落とした。
ガゴォォォォォンッ―――――ッ!!
目に見えるほどの透明な重力圧がリンドの全身を押し潰す。
あまりの圧力に、リンドの背後に展開していた黒い翼が砕け散り、肉体が上空から大聖堂の廃墟へと猛スピードで叩き落とされていく。
「くっ……重力と……即死の複合……概念魔法か……ッ!?」
地表へと一直線に激突するリンド。
サングリアの街全体に巨大なクレーターが穿たれ、大量の土煙が空へと巻き上がった。
『ハァ……ハァ……ハハッ! 落ちた……落ちたぞ! 地表に激突し、私の即死概念に晒されたのだ……いかに【神深眼】を持っていようと、無事では済むまいッ!!』
残された五本の触手を不気味に蠢かせ、空中から見下ろすシアン。
だが、クレーターの中心から湧き上がるドス黒い黄金の魔力は、衰えるどころかさらに密度を増して狂い咲いていた。
「……ハッ。即死魔法ねぇ……。生憎だが俺はな……『一度死んで』ダンジョンの底から這い上がってきた男なんだよ....!!」
煙の中から悠然と立ち上がるリンド。
その身に纏う黒と金の鎧はさらに禍々しく変貌を遂げ、その瞳(神深眼)はシアンの「核」となる部位を完璧に捕捉していた。
「遊びは終わりだシアン。お前の【吸収】の構造……全て暴いたぞ...!!」
地表から空の偽神を見据えるリンドの全身から、世界の理を書き換えるほどの「真の覚醒」の圧力が解き放たれる。




