第104話:次元破砕と偽神の権能
【サングリア領内・大聖堂最深部『神域』】
『ルァァァァァァァァァァッ―――――――ッ!!』
【全霊吸収】によって数百年分の怨念と命の残滓を暴走的に取り込んだシアンの咆哮が、大聖堂の【神域】を音波ではなく「空間の歪み」として揺らし潰す。
背後に展開された十本の【神壊の触手】は、もはや単なる魔力の束ではない。かつて殺されていった転生者たちの恨み節、怨嗟の叫びが実体化し、ドス黒い黄金の異形となって蠢いていた。
「……これが、お前が築き上げてきた歴史の『重み』ってワケか。胸が破裂しそうなほどの汚泥だな」
リンドの【神深眼】に映るシアンの姿は、もはや人型の異形ですらなかった。
何重もの魔法陣が重なり合い、何百人もの魂が体内で激しく暴れ狂う――言わば「動く崩壊寸前のスキル炉心」。
『そうだッ! これがサングリアの裏で私が奪い、溜め込んできた絶望の総量! 人間ごときの『器』では一瞬で精神が焼き切れ散るこの怨念の毒……! 喰らえるものなら喰らってみろ、リンド・アルターヤッ!!』
ズガァァァァァァァンッ―――――ッ!!
既に【吸収】によって得た膨大な魔力で理性を失ったシアンの背後から解き放たれた十本の『神壊の触手』が、光速を超越した速度で迫る。
触手が通過した空間は存在そのものが摩耗し、次元の壁がガラスのように粉々に砕け散っていく。黒い次元の亀裂から虚無の風が吹き荒れ、大聖堂の巨大な天井が原型を留めずに崩壊していく。
「死線……! いや、多すぎる……ッ!? 概念ごと死線を上書きしてやがるのか……!」
【神深眼】をもってしても、目の前を埋め尽くす「概念の暴力」は視界を真っ黒に塗りつぶすほどだった。
だが、リンドの脚は止まらない。
「【深層加速】――【金剛・神域二重展開】ッ!!」
ドバァァァァァンッ―――――ッ!!
リンドの身体から黒と金の幾重もの衝撃波が爆発的に弾け飛ぶ。
左手でシアンの一番槍となる触手を真っ向から【金剛力】で受け止め、肉薄する二本目、三本目の触手を深層剣で力任せに叩き落とす!
お互いの権能が激突するたびに、大聖堂の床が数百メートル単位で沈み込み、大平原へ届くほどの地鳴りがサングリア全域を揺さぶった。
「ガッ……ぐ……あぁぁぁぁぁッ!?」
触手を防ぐ刃から、ドス黒い毒のような怨念の魔力がリンドの腕を伝って侵入してくる。
【捕食】しようにも、その魔力があまりにも過密で、何百人分の死の記憶と絶望の感情が一気にリンドの脳内へ直接雪崩れ込んでくるのだ。
『ははははッ! どうしたリンド・アルターヤ! 私を喰うのではなかったのか!? 私の溜め込んできたこの怨嗟は、お前の脳を、魂を内側から破壊する毒だ! 奪えば奪うほどお前は正気を失うッ!!』
「……黙れ……ッ! これくらいの泥……お前達に人生を狂わされた奴らの痛みに比べたら……大したことねぇんだよッ!!」
脳が焼き切れるような苦痛の中、リンドの【神深眼】がさらに不気味な覚醒の輝きを増す。
取り込んだ怨念の毒を、根性だけで【深層】の虚無へと叩き落とし、精神を強引に研ぎ澄ます。
「【神深眼・改】――――『次元解体』!!」
スパァァァァァァンッ―――――ッ!!
リンドの指先から解き放たれた黒金の光線が、シアンの十本の触手だけでなく、シアンの周りの「次元そのもの」を立方体状に切り刻んだ。
『なに……ッ!? 次元そのものを切り取り、私の攻撃の伝播を遮断したというのか……!?』
「攻撃の密度がどれだけ上がろうが、それが存在する『空間』ごと切り離せば届かない……! 死線が見える以上、切り取り線を描くのは容易いんだよッ!!」
切り取られた空中領域が崩壊し、シアンの無数の魔法陣と攻撃の軌道が強制的に霧散する。
攻防の主導権を力ずくで引き戻したリンドは、切り拓かれた虚無の滑走路を跳躍した。
「【捕食】の限界を超えるだと……? 舐めるなよシアン……俺の底は、お前が思っているより遥かに『深い』んだ!!」
「あはッ……あははははッ!! 空間切り! 次元解体!! 見たかい教皇サマ、これが君の『完璧な計画』を破るイレギュラーの力だ! ああ、素晴らしい……僕の心臓が跳ね上がって壊れそうだッ!!」
瓦礫に埋もれながら、血みどろのシュウが狂気的な歓声で戦場を彩る。
シアンの【第三の神眼】が血の涙を流し、さらに禍々しい怨念の魔力を大聖堂の底から汲み上げようと蠢く。
『おのれ……おのれぇぇぇぇリンド・アルターヤァァァッ!! 【神域崩壊陣】――全てを呑み込めぇぇぇッ!!』
『神域』の天井が完全に破砕され、空には黒と金の巨大な渦が形成されていく。
偽神へと至ろうとするシアンの全開の権能と、次元を切り裂くリンドの【神深眼】。
極限の空中戦と権能の削り合いは、大聖堂を飛び出し、上空の「崩壊した空」へと舞台を移していく。




