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第103話:相食む天害と神禍の咆哮


【サングリア領内・大聖堂最深部『神域』】


「【吸収】と【捕食】……神域と深層……どこまで行っても俺とお前は対極の存在ってワケか、シアン……ッ!」


二重の魔法陣が黒と金の光彩を放つ【神深眼】をギラつかせ、リンドは大聖堂の崩落した瓦礫を蹴って音速を遥かに超える加速で肉薄した。

その手に握られているのは、亜空間から引き抜いた漆黒の深層剣。刃には【金剛力】と【概念破壊】の魔力がドス黒い炎のように渦巻いている。


『そうだ、リンド・アルターヤ。私は貴方という存在に出会った時、全身の細胞が歓喜で打ち震えるのを感じたのだ。私の持つ【吸収】は世界中のスキルや概念を吸い上げることができるが、その根本にある入れ物自体は【神域】の理に縛られている。』


教皇シアンは悠然と佇みながら、不気味に開いた額の【第三の神眼】を怪しく発光させる。

その背後から、無数の金と黒が交ざり合った触手が生き物のように蠢き、リンドの突進を押し潰さんと一斉に解き放たれた。


『私がどれほど転生者を屠り、スキルを貯め込もうとも、神域の限界を超えれば器は割れて死に至る。……だがお前の【捕食】は【深層】という無限の虚無に繋がっている! お前という無制限の『容れ物』さえ手に入れば、私は世界の理すら塗り替える真の神となれるのだッ!!』


ズババババババババッ――――ッ!!


シアンから放たれた【吸収】の触手群が、空間そのものを削り取りながらリンドへ襲いかかる。

触手が触れた大聖堂の巨大な石柱は、崩壊する間すら与えられず、質量や概念ごとシアンの魔力へと変換されて消滅していく。接触すれば最後、防御スキルの防御力すら奪われ、存在ごと喰い尽くされる死の領域。


「能書きはそれくらいにしておけ……ッ!! 『全て視える』と言ったはずだぞ!!」


だが、リンドの【神深眼】の前にその絶望的な網目状の攻撃は通用しなかった。

【神深眼】は【神域】の絶対権限と【深層】の概念破壊を統合した最高峰の魔眼。攻撃の軌道、魔力の流れる構造、そして「それを無効化・破壊するための絶対的な死線」が、まるで描かれた線のように明瞭に視界へ浮かび上がっていた。


「【神深極・瞬閃】――ッ!!」


スパァァァァァァンッ―――――ッ!!


リンドが深層剣を縦横無尽に一閃させた瞬間、空間に黒金色の断層が走り、襲い来る数百の【吸収】の触手が同時に千切り飛ばされた。

切断された触手は漆黒の炎に包まれ、シアンの元へ戻ることすら許されず、リンドの【神深眼】の力によってその場で【捕食】され、リンドの活力へと変換されていく!


『……グッ……私の【吸収】の触手を、逆に【捕食】で削り取るというのか……!?』


「お前のスキルの仕組みは理解した。確かに広範囲の概念を奪うには最適だろう。だがな……『奪うこと』に特化しすぎたせいでお前の攻撃には『密度のムラ』がある! お前自身の肉体は、ただの脆弱な人間に過ぎないんだよッ!!」


切り開いた死線の隙間を縫い、リンドは一瞬でシアンの鼻先へと潜り込んだ。

【神深眼】の輝きがピークに達し、その左拳に深層の渦と神域の威光が超圧縮されて収束する。


「これで終わりだ……シアンッ!! 【神深衝(しんしんしょう)】――――ッ!!」


ドォォォォォォォォンッ―――――ッ!!


直撃。音を置き去りにした超重力の一撃が、シアンの腹部へと直撃した。

幾重にも張り巡らされていた教皇の障壁が硝子のように粉々に砕け散り、シアンの華奢な肉体が背後の神域の壁を何重にも突き破りながら弾き飛ばされる。


「ガッ……ハ……ッ!? ぐぁぁぁぁぁぁッ!?」


凄まじい衝撃波が大聖堂全体を揺らし、壁に深くめり込んだシアンの口から大量の滑血が吹き出した。

複層音で覆われていたシアンの威厳あふれる声が崩れ、苦悶に満ちた生身の悲鳴が空間に響き渡る。


「あはっ……! あははははッ!! 凄い! 凄すぎるよ山城クンッ!! 教皇サマの【神域】と最高峰の障壁を、純粋な拳の威力と眼の権能だけでブチ抜いちゃったよ!!」


片腕を失い、自分の血の海に倒れ伏しているシュウが、狂ったように拍手を送る。

顔半分を血で染めながらも、その瞳には観測者としての異常な歓喜が宿っていた。


「やっぱり君は最高だ……! 桐原クンを保険として育てておいたけど、君の域には到底届かない! 君こそが僕の観測したかった『完璧なイレギュラー』だッ!!」


「黙っていろシュウ。お前も後で叩き潰してやる……」


リンドはシュウを一瞥することもなく、冷徹な殺意を孕んだ瞳でゆっくりと歩を進める。

壁の窪みから血を流しながら這い出てきたシアンは、額の【第三の神眼】を痛々しく痙攣させていた。


『ハァ……ハァ……見事だ、リンド・アルターヤ……。だが、忘れてはいないか……? 私は単なる転生者ではない。このサングリアの地に眠る……数百年の『歴史と命』そのものを吸い上げてきたのだということを……!』


「なに……!?」


シアンが叫ぶと同時に、大聖堂の地下深く――サングリアの広大な領地全体から、ドス黒い黄金の光の柱が無数に立ち昇った。

それはかつてシアンが【吸収】のスキルを使って間引いてきた無数の転生者、そして大聖堂に捧げられた信徒たちの「命の残滓」と「怨念の膨大な魔力」だった。


『我が肉体を器とし、集めし英霊と無念の魂よ……全て私の中に集え! 【全霊吸収(オムニ・アブゾーブ)】――ッ!!』


ゴオオオオオオオオオッ―――――ッ!!


地脈から溢れ出す天大な魔力の奔流がシアンの肉体へと雪崩れ込んでいく。

折れた骨が急激に再構成され、シアンの背後には翼のように広がる十本の【神壊の触手】と、何十重もの魔法陣が展開された。

その身から放たれる魔力の圧力は、先ほどの教皇の領域を遥かに超え、世界の次元そのものをミシミシと歪ませていく。


『さあ……第二ラウンドと行こうじゃないか、リンド・アルターヤ! 私が貴方を喰らうか、貴方が私の蓄えてきた歴史ごと私を喰らうか……真の『神』を決める勝負だッ!!』


「望むところだ……! お前が吸い上げてきた奴らの無念ごと……俺が綺麗さっぱり喰い尽くしてやる.....ッ!!」


肉体を再構成し暴走的な進化を遂げたシアンと、全てを見通す【神深眼】を静かに燃やすリンド。

二人の『天害』による、世界の存亡を懸けた最終決戦の火蓋が切って落とされた。

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