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そして私は、救済の聖女になった。  作者: 五乃ふゆ
第四章

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埋もれる真相、続く旅路の果て

 音によって目を覚ました亜里沙は、まだぼんやりした頭で、既に起き出してドアの外を確認するソフィーの背中を目で追った。


 イザベラの声がして、ソフィーが翔を呼ぶよう言われているのが聞こえた。

 ソフィーは亜里沙に「ここでお待ちください」と声をかけると、急いで部屋を出る。



 それから少しして、翔を連れたソフィーが戻って来た。


 完全に覚醒した亜里沙は急いでベッドから出る。


「さっきの音、何?」


 翔は不安げに首を横に振る。


「銃声みたいに聞こえたけど……分からない」


 イザベラが部屋に入って来た。


「先程の音は恐らく銃声です。すぐに知らせが来るはずなので、ここでお待ちください」


 にわかに部屋の外が騒がしくなり、否が応でも不安が高まる。

 それからすぐに亜里沙の部屋を訪ねる者がいた。


「アリサ!」


 キーランが部屋に入って来て、亜里沙の無事を確認すると安堵したように息を吐く。

 そのすぐ後にエドワードがやって来た。


「……無事だな。状況が把握出来るまで部屋から出ないでくれ」


 そう言ってエドワードは立ち去り、亜里沙たちは、慌ただしい部屋の外の音を聞きながらしばらく待つ事となった。



 どれくらいそうしていただろうか。まだロナンの無事が確認出来ていない事で亜里沙は不安を募らせた。


 そんな中、少しずつ部屋の中の明るさが増した頃、エドワードが入って来た。

 亜里沙と目が合うと、言いにくい事なのか顔を曇らせる。


「……オリバー・エイルセンが死んだ」


 亜里沙は目を見開いた。


「あの後、エイルセンの部屋を訪ねた事は聞いている。何か変わった事はなかったか?」


 亜里沙は頭が真っ白になってしまって、口を開いたがなかなか言葉が出て来なかった。するとキーランがエドワードに呼びかける。


「エイルセンは殺されたのか?」


 キーランの淡々とした問いにも、続くエドワードの「いいえ」という静かな答えにも、亜里沙は背筋に悪寒が走った。


「……何故? 武器は取り上げていたはずだろ」


「無論、そうです」


「じゃあ誰がエイルセンに銃を渡したんだ?」


「今それを調べているんですよ、兄上」


 そして、エドワードは若干語気を和らげて、亜里沙に再び質問した。


「思い出してくれ、些細な事でも構わない。何か気付いた事はないか?」


「え、と……あの時は……」


 少し早くなる鼓動に不快感を覚える。亜里沙は余計な感情を振り払って、あの後の事に集中した。


 イザベラと部屋の前に行った。騎士と兵士がふたりずつ居て、そこにロナンが──


 少しずつ自分の行動を頭の中で再現していると、ロナンが部屋を訪ねて来た。

 ドアが開いてロナンが入ってくる。外に騎士の姿が見えたので、付き添われるようにここへ来たようだ。


 現れたロナンをエドワードは訝しげに見やった。


「随分遅かったな。一体何をしていた?」


 エドワードの棘のある口調に眉を寄せると、ロナンは小さくため息を吐いた。


「何を疑っておいでなのか分かりませんが」


 そして、ロナンは一度亜里沙を見やった。


「銃声で起きましたが、昨夜から体調を崩しておりましたので、ここへ来るのに手間取りました」


 確かに昨日よりは良く見えるが、まだ疲労が残るような顔色だ。


「……では、昨日は?」


「昨日はオリバーが心配で様子を窺いに行ったところで、部屋の前でアリサさんと会いました。私も彼女も部屋には入れなかったので、その場を離れましたよ。それから私は部屋で休んでいました。アリサさんも同じでしょう」


 亜里沙は頷いてエドワードを見る。


「ロナンの言う通りです。……ロナンは具合が悪そうで、だからイザベラと一緒に部屋まで付き添いました。部屋に戻ってからは外に出ていません」


 話を聞いたエドワードは考え込んだ。そして、しばらくして口を開く。


「……分かった。指示があるまで待機してくれ」



 亜里沙たちは言われた通りに待機した。

 ロナンの体調を確認したり、翔とエイルセンの事を話したりして待つ間ずっと、重たいものが亜里沙にのしかかって纏わりつくようだった。


 どこかでうっすらと期待していたが、結局真相は明かされないまま、午前中には遠征が再開された。


 エドワードは後の事を砦の騎士に託すしかなかったらしく、亜里沙が見かけた時には険しい顔をしていた。

 亜里沙は藁にもすがる思いでニーズに尋ねてみたが、やはりニーズにも分からないようだった。

 ただ、妙な感じがする、とニーズが呟いた事が、いつまでも亜里沙の頭に残った。




 亜里沙は久しぶりに地に降りて歩いていた。

 隣にキーランがいて、反対側には少し遅れるように翔が歩いている。

 今グラに乗っているのはロナンだ。



 出発前、どうしてもロナンが心配だった亜里沙はグラにはキーランとロナンが乗るよう進言した。


 キーランは何故か嫌がって歩くと言い出したので、亜里沙も歩く事にしたのだ。

 ほとんど元気な自分をロナンに支えさせる訳にはいかないと思ったのが理由だ。


 ロナンは亜里沙が歩くと申し出ると、身を屈めて亜里沙の顔を覗き込んだ。

 傷跡の様子や顔色を見る為だとは分かるが、それにしては近い気がする。


「……もう心配なさそうですね」


 そう言ってロナンは、亜里沙が緊張して顔が赤く染まる前に離れてくれた。


「私もアリサさんを支えて差し上げたかったのですが。ご一緒出来ないのは残念です」


 冗談なのか本気なのか分からない微笑を浮かべてロナンが言った。




 その後、亜里沙たちの遠征は段々と過酷さが増した。

 砦の数が減って野営が多くなる。巣に遭遇する事も増え、どうしても犠牲者は避けられなかった。


 唯一救いだったのが、野営中に襲われなかった点だ。

 テントの中は安らげる空間になり、翔はその間も黙々と勉強を続けていた。

 日に日に疲れを感じやすくなる亜里沙と違って、翔のその集中力には凄まじいものがあった。

 翔を訪ねてテントに入ると、よくエドワードとふたりで羊皮紙に向かう姿が見られた。

 翔は主にエドワードと言葉を交わしているようだったが、この頃には積極的に騎士や兵士に話しかけ、手伝うようにもなっていった。


 こうして野営地で安心して過ごせたのも、野営が行われる場所が毎回良かったからだ。


 亜里沙には場所の良し悪しなど分からなかったが、キーランやロナン、もちろんエドワードも騎士たちも、この世界の人々はイドルの被害を上手く回避するのに長けているようだった。


 だが、いつもそれが上手くいく訳ではない。前触れもなしに、イドルの巣が予想だにしなかった場所に発生する事もある。


 この途上で唯一近くにあった小さな集落が壊滅しているのを目の当たりにした時は、亜里沙はもう無理だと思った。


 しかし、キーランに支えられて亜里沙は何とか持ち堪え、侵食で事切れた集落の人々を必死で浄化した。


 この時は流石に疲労困憊したが、それ以降は亜里沙も翔も随分体が慣れて来て、後半には思ったより早く進めているとイザベラが教えてくれた。




 そうして、遠征が始まって十五日目。

 この日、とうとうトランティアの目前へと亜里沙たちは到達した。

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