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そして私は、救済の聖女になった。  作者: 五乃ふゆ
第三章

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大型イドル急襲、再び

 キーランに導かれて死体の側に屈む。


 一度大きく深呼吸して、あの音と、そしてニーズに祈るように意識を集中させる。


 一瞬で目の前が暗くなり、体が傾く。

 だが隣に屈んだキーランが肩を支えてくれた。そしてそれとは別の、押し戻されるような感覚があった。


 ──ニーズの気配がする。


『おい、二度目だぞ。我の意識に入ろうとするな』


 どこか苦しそうな、弱々しい声がする。


(ニーズ、力を貸して! イドルになりかけてるの!)


 亜里沙はニーズの苦言を無視して助けを求めた。


 ニーズは答えなかったが、眠った気配はない。すぐに耳の奥から、水のような澄んだ音が大きく鳴り始める。


 両手に弱々しい白い光が集まり、その手を死体にかざす。亜里沙は詰まりそうな喉を必死に空気を取り入れてこじ開けた。


 全身がカッと熱くなり、額に汗が滲む。

 キーランが亜里沙の右手に自分の右手を添えてくれて、小刻みな震えが止まる。


 亜里沙には果てしなく感じたが、実際にはすぐに効果が現れた。死体の皮膚の、侵食が止まった。


「……で、出来た……?」


 肩が大きく上下する。

 ニーズが手伝ってくれたのか、水を止めるイメージをしなくてもあの音は止んだ。


『ああ。この死体はもうイドルにはならない』


「ちゃんと出来たよ。よくやったね、アリサ」


 ニーズとキーランに認められて、安堵の息が漏れる。


「……なるほど、ようやく()()()様がお目見えしたという訳か」


 静かな声がして見上げると、曇った表情のエドワードと目が合う。


「アリサさん……さあ」


 ロナンが差し出した手を取る。反対側からはキーランに支えられて、亜里沙は立ち上がった。


「無茶はしないでくださいね」


 そう、耳元でロナンが囁いた。


「殿下、傭兵の皮膚、ご覧になりましたか?」


 イザベラが剣についた汚れを払いながら切り出した。


「ああ。侵食されているな」


 亜里沙は驚いてエドワードを見る。


「死体を投げるだけで打って出ず攻撃もして来ないのはそれが理由だろう。砦の兵たちの死因も見る限りイドルによる侵食で間違いない。だが、原因となったイドルがいるにしろ巣があるにしろ、なぜそれが見当たらない……?」


 考え込むエドワードに、亜里沙は怖々口を開いた。


「あの、助けられるかやってみていいですか?

私が、さっきみたいにやるので」


「馬鹿を言うな」


 言いかけた言葉は、亜里沙を鋭く睨んだエドワードに遮られた。

 口をつぐむ亜里沙に、キーランが説明してくれる。


「あの広がりようではもう助からない。侵食が体を破壊しないよう食い止めるのと、死体がイドルにならないように侵食を止めるのとでは全然違うんだよ」


「そんなの……」


 流石に、やってみなければ分からないとは言えなかった。キーランが力を尽くしても、あの少女は足を失う事になったのだ。


 エドワードはもう一度周囲を見た。


「ひとまず今外にいるイドルは片付いたようだな。瘴気が濃くなる前に砦の中を片付ける」


 そして、木造の建物の扉を顎で指した。


「兄上、せっかく来たんですからあれを壊してください」


 キーランが頷き、入口の扉の前に立って手をかける。見ているだけでも、鍵でもかかっているかのようにビクともしないのが伝わってくる。

 しかし、直後バキッとすごい音がしてキーランが扉を開けた。というより扉を外した。


「うっ、うわああああっ!!」


 中から飛び出して来た傭兵の男をキーランが横に飛び退いて避け、男が前のめりになったところで駆け寄ったイザベラが剣の柄で頭を殴って倒した。


「まだ殺すな」


「はい」


 当たり前のように交わされる言葉が亜里沙の耳に突き刺さる。


 エドワードの指示で四人の騎士と十人程の兵士が慎重に中に踏み入れる。エドワードはイザベラに「来訪者を守れ」と改めて命じると中へと入った。



「縛り上げておきませんとねえ」


 妙に間延びした嫌味な声が背後から言った。


 亜里沙が振り向くと、失礼、と言って横を過ぎる。

 ヒューゴは見事な手際で、傭兵が着ている鎧の上から体を縄で拘束した。

 よく見ると、確かにこの傭兵の皮膚も侵食されている。


「イドルの侵食は、それこそイドルになってしまわない限り他の人間には影響しない。だけどまるでこの砦の中は、イドルという名の流行病(はやりやまい)の温床のようではないですか」


 誰に言ったのかは分からないが、ヒューゴはそう言って喉を鳴らす。


「確かに、おかしいな」


 ロナンが顎に手を当てて考え込んだ。


「……少し気になる事がありますので、私は」


 ロナンが言いかけた時、砦の外からズンっと、とてつもなく嫌な地響きがした。

 兵士たちの動揺した声が上がる。


『イドルの巣が発生したようだ。お前にはまだ荷が重い。近付くなよ』


「クソッ……巣が出来たか」


 剣を仕舞おうとしていたイザベラは剣を構え直した。


「翔くん!」


 少し離れた所に立っていた翔を呼び寄せ、守るように手を繋ぐ。


 地響きから間も無く、初めて見たイドルと同じくらいのサイズのイドルが門の外から入って来た。

 だが体高はあれの半分もいかない。それは子供の身長くらいで、角と骨の翼がなければイモリのようだ。


「おふたりとも私の後ろに!」


 キーランが動くより先に、イザベラが亜里沙と翔の前に躍り出た。


「歩廊に上がって巣を探せ」


 ヒューゴが緊張する兵士たちに指示を飛ばす。

 すぐに兵士たちが石段を登り上がって壁の上の歩廊に散らばる。


 入って来たイドルはキョロキョロと腐った頭を素早く動かしていたが、イザベラを標的と見定めると、とんでもない速さで地を這った。

 ガンっと鈍い金属音が響く。


「ぐぅっ……!!」


「イザベラ!!」


 亜里沙は悲鳴を上げた。イザベラが両腕でイドルの頭を抱えて頭突きを受け止めている。と同時に剣を顔面の横から突き刺していて、力の限り捻じ込むも、イドルは止まらず怒号を上げる。


 イザベラの踏ん張った足が地面にめり込む。


「下がって!」


 イザベラに言われて後ろを振り返ると、いつの間に入ったのか中からとても大きな剣を持ったロナンが出て来た。と、同時に歩廊から兵士がある方向を指して叫ぶ。


「巣を発見しました! 同形のイドルがもう二体、一体は砦の外、一体は巣から出て来ようとしています!」


 ヒューゴが場にそぐわないのんびりしたため息を吐いて、悠々と門の外へ向かう。


「キーラン様、我々が援護しますので巣の方をお願いしますよ」


「ここを頼む」


 ロナンにそう言って、キーランは亜里沙を見た。


「少し厄介そうだから僕が行くよ。アリサはロナンとイザベラの言う事をよく聞いて」


 亜里沙が必死に頷くと、キーランはイザベラの側を走り抜けた。


「イザベラ」


 キーランとヒューゴが去ると、ロナンは亜里沙と翔の前に出ながらイザベラに声をかけた。


 イザベラが振り向き、ロナンの意図を汲む。

 そして、イドルに向き直るとふんっと唸ってイドルの頭を押し始めた。


 すると、何とイドルが足をもつれさせながら後退し始めた。

 ロナンはイドルの方に一歩踏み出し、持っていた大きな剣を地に突き刺す。


「耳を塞いでいてください」


 そう言って、以前とは違う形の長身の銃を構えた。その銃身を支えるように剣の鍔の部分に乗せる。直後、耳をつんざくような轟音が鳴り、イドルが悲鳴を上げて怯んだ。更にイザベラに押されて、とうとう足を折って地に伏せる。


 イザベラがこちらに振り返ると同時にロナンが地から抜いた大きな剣を投げた。うまく剣の柄を両手でキャッチしたイザベラはそのままの姿勢から片足を大きく後ろに踏み込んで、体を回転させながらイドルの頭に向かって上から剣を振り下ろした。

 空を切る重い音、何かを砕くような鈍い音、そして再びイドルが悲鳴を上げる。


「やあああっ!!」


 振り下ろした剣を止めずに後ろに回転させ再び上から渾身の力で斬り下ろす。その連撃を五回、あの重そうな剣からは想像出来ないスピードで繰り出す。

 ロナンがイザベラとイドルの動きを見守りながら銃身の先から弾を込める。

 凄まじい音と悲鳴を響かせながら、五回目の連撃でイドルの動きが止まった。体が黒く変化し始める。



 だがそれで終わりではなかった。


 同じ形のイドルがもう二匹、死んだイドルの向こうからこちらを覗いていた。

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