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そして私は、救済の聖女になった。  作者: 五乃ふゆ
第二章

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焦燥

 翌日、日の出より少し遅く目を覚ました亜里沙。

 よく眠れた気がするも、昨日の反動なのか体のあちこちが微妙に痛い。

 ソフィーに見守られてのいつもの体操も、思ったようには動けなかった。


 ソフィーによると、あれからすぐに亜里沙は寝てしまい、それを確認したキーランもすぐに去ったという。


「とても心配しました! もうあんな事は起こりませんよね?」


 不安げなソフィーに、申し訳なくなる。


「あのね、ソフィー。私、来訪者としては力が足りてなくて、昨日はキーランに戦い方を教わってたの。特別な戦い方だから、反動があるみたい。でも心配はいらないよ」


 ソフィーの顔が曇る。


「……あの聖堂の奥の事は、見た事はございませんが存じております。もちろん、昨夜の事は口外いたしません。でも……あんなお姿を見てしまい……不安です、アリサ様。危ない事はなさらないで」


「大丈夫だよ。だって……私は、来訪者だから」


 語尾が弱くなったが、亜里沙はソフィーを安心させるように精一杯笑いかけた。


 ソフィーは軽く唇を噛んだが、それ以上何も言わなかった。



 翔は既に起きていて、亜里沙が訪ねるとソフィーが用意してくれた羊皮紙と本で勉強している所だった。


「おはよう、亜里沙ちゃん。今日は少し遅かったんだね」


「うん……実は」


 詳細は濁したが、キーランに力の使い方を教わった事を話す。


「もう始めたんだ」


 翔は心配そうに亜里沙を見つめた。


「体に異常は?」


「うん、ちょっと吐き気とか、脱力感とかあったけど大丈夫。めちゃくちゃ速度出してマラソンした後みたいな感じ……かな? 休めば治る」


 自分がキーランみたいな事を言っている事に気付く。

 この説明では翔を安心させる事は出来なかったが、亜里沙はソフィーにもしたように精一杯笑顔を見せた。


「……俺じゃ頼りないかも知れないけど、何でも言って欲しい。出来る限りの事はするから」


「ありがとう。もうすでに頼りにしてるよ」


 亜里沙の言葉を聞いて、深刻だった翔の表情が少しだけ和らいだ。



 亜里沙を待っていた翔とソフィーと共に、亜里沙の部屋で朝食を摂る。そのまま部屋で再び勉強会となって、翔とソフィーの顔も大分明るくなっていた。


 亜里沙はというと、本音を言えば、あの感覚を忘れないうちに力の使い方を練習したかった。だがあれだけ心配をかけておいて、言い出せない。


 そのうち昼になり、昼食を食べた後、宣言通りイザベラが亜里沙たちを訪ねて来た。


 勉強会をしていると分かると、イザベラもそれに参加して、亜里沙の部屋はとても賑やかになった。


 イザベラは慣れてくると、とても話しやすい人だった。

 時々言う冗談もそれと分かれば笑えるもので、しばらくすると亜里沙の焦燥感も薄くなって楽しく過ごせていた。



 夕方まで付き合ってくれたイザベラはロナンを警戒しつつ帰って行った。

 しかし結局ロナンは現れず、夜を迎える。

 ロナンと顔を合わせない日が初めてだと気付いて亜里沙は妙に寂しい気持ちになった。



「アリサ様は……旦那様がお好きですか?」


「へっ?」


 突然の質問に間抜けな声が出た。

 ソフィーは何やら含みのあるにこにこ顔だ。


「いやっ、その……ただ、こっちに来てから会わない日がなかったから……!」


 ソフィーは目を細めてずっとにこにこしている。


「旦那様は何故か縁談を全てお断りになるんですよ。色々それらしい理由を仰いますが、本当は心から愛せるお方が現れるのをお待ちなのです」


「……ロナンがそう言ったの?」


 いえ、とソフィーは笑った。


「私がそう感じているというだけの話です」


「な、なんだ……」


「でもきっと当たっています。そしてそのお相手はアリサ様になると思います!」


「や、やめてよ! 勝手な事言ったらロナンに失礼でしょ」


 そもそも亜里沙は帰るのだから、そんな相手になる訳にはいかない。


「失礼な事などございません。きっと旦那様のお気持ちはアリサ様に向かっている途中です」


 亜里沙の気も知らず、ソフィーは何故か自信満々に頷いている。


 亜里沙は言葉もなかった。ソフィーは確かに亜里沙よりしっかりしていて侍女として優れているのだろうと、事情に疎い亜里沙にでも分かるが、こういう部分は年相応というか、幼さを感じる。


 亜里沙が顔を真っ赤にして黙ると、ソフィーはハッとして亜里沙に謝った。そしてすぐに話をやめてくれたので、ソフィーの口元がほんの少しにやついていたのはきっと気のせいだろう。



 寝る準備を整えた頃、昨夜のようにキーランが訪ねて来た。

 ソフィーは若干顔を強張らせたが、亜里沙の意思に従ってくれる。


「キーラン、もしかして練習を見に来てくれたの?」


「ああ。今日は聖堂に行かなくても大丈夫だと思う」


 亜里沙はキーランを部屋に招き入れ、振り返って、キーランの顔色が悪い事に気が付いた。


「……まさか、力を使った?」


「近くにイドルの巣が出来て、消してきた」


 表情を見るに、ソフィーには心当たりがあったようだ。だが亜里沙はそんな事とは全く知らなかった。


 落ち着いていた焦りが一瞬で強くなって、鼓動が速くなる。亜里沙は思わず胸元を掴んだ。


「アリサ、大きい巣じゃなかったし、大丈夫だ」


「でも、その顔色……」


「移動で無理をしたからだよ……今日もアリサに会いたかったから」


 亜里沙はゆっくり目を見開いた。

 キーランの視線とぶつかって、そのまま見つめ合う。


「それ……心配させないために言った?」


 キーランは若干バツが悪そうに目を逸らした。


「……でも、嘘じゃないよ」


 言って、亜里沙の顔色を窺う。

 亜里沙はため息を吐いて、キーランをソファに促した。


「ソフィーが入れるお茶が美味しいの。疲れが取れるんだよ。飲む?」


「うーん……お茶よりエールがいいな」


「え!? それお酒だよね。ダメだよ、まだ成人してないんだから」


「え? 成人の儀は終わったよ? それにエールは子供でも薄めて飲んでる」


 亜里沙はカルチャーショックで口を開けた。この世界は16歳が成人なのか。

 いやそんな事より子供でも飲むとは。

 では今まで亜里沙の目の前で木製のジョッキのような器で涼しい顔をして飲んでいたのは全部水じゃなくて酒だったのか。


「ソフィー、お茶をお願いします」


 キーランは何か言いたげだったが、亜里沙に譲ってくれた。




 しばらくしてソフィーの茶を美味しく頂いた亜里沙とキーランは、ソファに隣り合って座り、亜里沙の力の練習を始めた。


「そんなに肩に力を入れない。もう少し楽に構えて」


「う、うん……」


 昨夜よりもずっと弱々しい光が手のひらに纏わりつく。こんな小さなものでは役に立たない。

 更にあの音に集中しようと目を固く瞑る。


「駄目だ、アリサ」


 手のひらを押さえられて、亜里沙は目を開ける。

 集中が途切れて光が消えた。


「あ……」


 ひどく残念な声が出てしまった。キーランが気遣うように亜里沙の右手を優しく握る。


「アリサ、焦らないで。昨夜みたいな状態を最初から何度も繰り返すべきじゃない。力の大きさよりも、まずはちゃんと操れるようにならないと」


「分かってる、けど……」


 実際は分かってなんかいなかった。多少無茶をしてでも、早く何とかしないと、という気持ちが募るばかりだ。

 この焦りは、ずっと亜里沙の心の奥底で燻ってきたものだった。


 しばらく無言で俯いていたが、キーランに手を引かれて亜里沙は立ち上がった。


「キーラン?」


「明日は早いから、もう寝よう」


 そう言われてみれば、そうだった。明日から遠征が始まる。


 キーランは亜里沙の手を引いてベッドに向かう。そして毛布をめくって亜里沙を振り向いた。


「横になって」


「うん……」


 言われた通りにすると上から毛布をかけられる。


「ちゃんと寝て」


「キーランもね。変な所で寝ないでね」


「ああ」

 

 キーランは微笑むと、おやすみ、と言って去った。

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