表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そして私は、救済の聖女になった。  作者: 五乃ふゆ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/24

ロナンとの出会い

 野営地へと向かう道すがら、亜里沙は周囲を見回してみた。

 先程居た場所と比べると木々が生い茂ってはいるが、木漏れ日のお陰で周囲は明るく、踏みしめる少し湿った土も、歩きやすい広い道を作り出している。

 川に沿って移動しながら、ふたりの男はそれぞれ名乗ると、自分たちがギルド所属の商人である事を教えてくれた。

 ふたりともとても長い名前で何とか覚えようとしていた亜里沙は、話の半分ほどしか聞けていなかったが。




「マスター」


 木々が無く開けた場所に出てすぐ、想像したより大きな、しかも三つもあるテントが目に入って驚く。


 マスター、と呼びかけながら男たちが向かった先を追うと、テントから出てきた人物と思いがけずばっちり目が合った亜里沙は再び硬直した。

 他に人がいるなんて聞いてない!


「おや」


 その穏やかな声と表情に、亜里沙の警戒がゆっくり解けていく。


 亜里沙を見て驚いた様子のその人物は、栗色の長髪を後ろで結い、緑色の瞳が優しそうな青年だった。

 確かマスターとか呼ばれていたが、男たちより随分若い。


「これはこれは……まさかこんな所で来訪者様にお目にかかる事になるとは」


 そう言って微笑むと、青年は優雅に会釈した。


「ロナン・マクベルドと申します。ナイグラードのギルドを預かる商人です」


「商人と言っても伯爵様ですけどね……」


 確かルイ、何とかいう人がそっと亜里沙に耳打ちする。


 聞かれなかったからとは言え名乗っていなかった事を思い出した亜里沙は、ここではちゃんと名乗ろうと姿勢を正した。


「鈴木、亜里沙です、よろしくお願いします」


 伯爵と言えば貴族だろう。貴族なんて、そんな偉い人とは接した事がない。

 亜里沙は緊張から勢いよく頭を下げると、おずおずと上げた。


「えと……は、初めまして」


 こんな挨拶でいいのかと不安を感じるが、ロナンと名乗った青年は「初めまして」と返してくれた。



 男たちから事情を聞いたロナンは、先ほど彼が出てきたテントに亜里沙を通した。

 テントに入った瞬間、独特の、ハーブのような匂いに包まれる。壁が布だったり足元が土である以外は、質素だがまるで部屋だ。

 足元も一部、ベッドの周辺などは床のように木の板のようなものが敷かれており──テントにベッド?

 亜里沙は床よりも何よりもベッドを二度見する勢いで見つめた。キャンピングベッドのようなもの、にしては豪華すぎる。


「化膿するといけませんから、傷の手当てをさせてください」


 意識を引き戻された亜里沙を促し、柔らかい木目の簡素な組み立て式のテーブルの側に、同じ材質の椅子へと導く。

 促されるまま座ると、ロナンは救急箱と言っても差し支えなさそうな木の箱を持ち出し、お湯を持って来て何か混ぜると、亜里沙の前に跪いた。


「足に触れますね」


 とても丁寧に扱ってくれているのが分かり、途端に亜里沙は恥ずかしくなった。


 見ればいつの間にか思ったより広範囲に血が滲んでいる膝を、何かを混ぜたお湯で洗い、清潔な布で優しく拭うと、軟膏を塗ってくれる。仕上げに包帯まで巻いてくれて、しかもその処置が両膝だったので居た堪れなかった。


 膝を洗うので脱がされていた靴と靴下まで履かせて貰った亜里沙は、左手まで診ようとするロナンを慌てて止めた。


「もうっ、大丈夫です! 赤くなってるだけで、血は出てませんから!」


 そうですか、とあっさり引き下がってくれたのでホッとする。


 ロナンは亜里沙の向かいの椅子に腰掛ける。

 亜里沙は両膝の包帯が見知った質感とは全然違うので少しの間まじまじと眺めた。

 視線を感じて顔を上げると、亜里沙と目が合ったロナンは話を切り出した。


「来訪者様は」


「あ、あの、様とか、ガラじゃないんで……!

亜里沙、でいいですよ」


「……では、アリサさん。アリサさんはご自分が置かれた状況をどこまで把握されていますか?」


「え……状況、ですか……」


 帰れない。何か役目があって、それが何なのかも知らないが──それを果たさない限り、帰れないと、あのドラゴンは言っていた。


「ここが私のいた世界じゃなくて……突然連れて来られて……私には役目があって、それをやらないと帰れない、っていう事はわかってます」


 少し棘のある口調だったかも知れない。

 自分がここに連れて来られたのはロナンのせいではない。優しく気遣ってくれた人に当たりたくはなかったが、亜里沙には余裕が無かった。


「そうですか……それは恐らく間違ってはいませんが……貴女には少し、私たちの世界のこと、異界からの来訪者との関係を知って頂く必要がありそうですね」


 それはそうだろうが、何か言い方が引っかかる。

 訝しげな顔になっていたのだろうか、ロナンは少し困ったように、微笑んだ。


「アリサさんの前にいらっしゃった来訪者様ですが、私は救世の旅のお供をさせて頂いておりました」


 今から十年ほど前です、と付け加えて、ロナンは続けた。


「その時の経験がありますから、私ならアリサさんのお手伝いも出来るでしょう。ですので、貴女の気持ちが落ち着いたら貴女が知るべき事をお話ししましょう。

それ以外でも、知りたい事があれば何でも聞いてください。いつでもお答えしますよ」


 今日は疲れたでしょうから、とロナンは話を切り上げた。



 来訪者というものは、最初に降り立つ場所に違いはあれど、皆必ず王都に招かれるのだそうだ。

 亜里沙も例に漏れず王都へ行かなければならない。

 ロナンたち一行が送り届けてくれる事になり、出発は明日の朝だと言うので、亜里沙は黙って受け入れた。


 テントから出ると、日が陰り始めていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ