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そして私は、救済の聖女になった。  作者: 五乃ふゆ
第二章

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この世界の衣服はファンタジー

 答えに困った亜里沙は隣の翔を見た。


「何を言われたの?」


 声を潜める翔に、同じく声を潜めて手短に話す。


「どう考えているのか、か……ニーズの存在は言えないから……本来の来訪者ではないけど異界から来た事に変わりはないから、少しは女神の加護がある、っていうのはどうかな?」


 亜里沙は頷いて、翔が言ったように、ロナンに伝えた。だがロナンは何かに気付いたようだった。


「なるほど……それがおふたりの考えですか?

どうやら、私には言えない事情が沢山あるようですね」


 言えない事情はただ一つ、ニーズの存在だけなのだが。


「ごめん……」


 ロナンがふうと息を吐く。


「いいんですよ。それよりも今後の事ですね。私に相談してくださったという事は、私が言った通りにしてくださるという事ですよね?」


「あ……、う、うん、そうなるね」


 そうだろうか?

 ロナンに気圧されてつい彼に従うような流れになったが、いいのだろうか。

 だが、流石に今翔に聞くのは憚られた。


「まずは一番明確に分かっている事、ですね」


 ロナンはそう前置きして、若干声を落とした。


「おふたりが“来訪者”ではないという事は、絶対に、私以外の誰にも明かしてはいけません」


「う、うん、分かった……」


「今日貴女に付けたソフィーとは、すぐに打ち解けて何でも話せる仲になるでしょう。ですが、そうなったとしても絶対に話してはいけません。もちろんキーランにもです」


 キーランの名前が出ると、ほんの少し心苦しい。


「うん……」


「それから第二王子殿下にはお気を付けください。貴女に話す意思が無くとも、暴かれる危険があるので」


 最後には黙ったまま頷く亜里沙を見つめて、ロナンは優しい口調になった。


「来訪者ではないという事なら、これが一番心配なのですが……元の世界に帰る当てはあるのですか?」


 亜里沙は目を丸くしてロナンを見た。


「これまでの来訪者様の記録から、来訪者は役目が終わると自然と帰る道が開けるというのが我々が知る全てです。実際キョウコさんもそうして帰って行かれた。なので、アリサさんとカケルくんが帰る方法を教えて差し上げる事が出来ません」


 そんな事を気にしてくれるなんて思ってもみなかった。

 心配そうなロナンの眼差しに、ほんのり胸が温かくなる。


「当ては、多分あるよ」


 亜里沙はなるべく心配をかけないように笑みを浮かべた。


「私の回復力に関係する事なんだけど、訓練すれば少しはイドルと戦えるようになると思うの。そしたらこの世界の穢れを少しは取り除けるし、そうすれば、多分帰れる」


 だがロナンは顔を曇らせる。


「それは、貴女に危険が及ぶという事では?」


「でも、他に方法がないよ」


 亜里沙の決意が伝わったのか、ロナンはしばらく何やら考え込んだ。

 亜里沙は翔に今の状況を伝える。

 亜里沙が話し終わってロナンを振り向くと、真剣な表情のロナンと目が合った。


「アリサさんがもしイドルとの戦いに出る事があれば、私が同行しましょう」


「えっ」


「こう見えても元騎士ですし、キョウコさんの旅にも付いていきましたから」


「それは、もちろん嬉しいけど、でもロナンは忙しいんじゃないの?」


「ええ、忙しいですよ。でも貴女の安全以上に大切な事はありませんから」


「あ……ありがとう」


 もちろん純粋に心配からそう言ってくれたのだろうが、亜里沙は落ち着かない。


「私の事は心配いりません」


 ロナンは微笑んだ。


「では明日、国王陛下に謁見した際、おふたりがこれまでの来訪者と違う点について、穢れが蔓延したせいで女神の加護が弱まっていると話してください。ふたり来た事については力不足を補う為……とでも」


 亜里沙は頷いた。


「くれぐれも“来訪者”ではない事と、アリサさんの回復力には触れずに。もし追及されたら世界の理を持ち出して誤魔化して」


 ふっ、と小さく笑われて、亜里沙は恥ずかしくなった。

 あれはニーズが言った事で亜里沙が考えた言い訳ではないのに。


「陛下は優しいばかりの方ではありませんが、それでも情け深い方です。そこまで身構えなくても大丈夫ですよ」


「う、うん」




 話が終わるとロナンは今度こそ帰って行った。

 待ってましたと言わんばかりにやって来たソフィーは早速着替えの準備を再開する。


「本当ならもっと時間をかけて準備してくるべきでしたが、旦那様も心配なさっていましたし、私も早くお側に付いて差し上げたくて」


 ひとまずこちらを、と取り出した衣服に、ソフィーが感動している。


「まあ、よく見たら何て素敵! 丈が短いのはアリサ様のお召し物と似ていますね」


 ソフィーは「素敵」とはしゃぎながら亜里沙の分と翔の分で分けていく。


「カケルさまはお手伝いが必要でしょうか? 恐らく元のお召し物と似ていると思うのですが」


 聞けば洗濯された翔の制服は既にソフィーが受け取って管理しているという。

 亜里沙から伝え聞いた翔は手伝いを断った。


 一旦翔と別れて隣の部屋へ移動する。


 隣の部屋も翔の部屋と同じような内装になっていた。


「ここだけの話ですが、お客様用の寝室の内装にかかった費用は王都のマクベルド邸の方が高いのだそうです」


 内緒話が好きなのだろうか、ソフィーの目はとてもキラキラしている。


「へえ……ロナンは王都に住んでるんだね」


「旦那様は王都にもお屋敷をお持ちですが、ナイグラードに本邸があるのですよ」


 亜里沙は慣れない人の前で服を脱ぐ事に若干の抵抗を覚えたが、ソフィーの朗らかな雰囲気に、女同士だ、と腹を括った。


 ソフィーの手際は見事で、あっという間に亜里沙は新しい衣服に身を包んでいた。


 立襟で長袖の上品なグレーのシャツは肩から肘上までのバルーン袖。膝上丈の黒のスカートは、背中が編み上げになっていて、コルセットスカートに非常によく似ている。

 膝上にくるソックスは膝下で細い茶のベルトで留める。ソフィーが「まあ、ウール」と感嘆の声を漏らしていた。

 靴は恐らく亜里沙が履いていたローファーの方が丈夫だろう、と、汚れた部分をソフィーが丁寧に拭き取ってくれた。


「アリサ様、お美しいです!」


「えっ、そんな」


 みるみる頬が熱を帯びる。顔を上げると暖炉の上に鏡が備え付けてあり、確かにそこに映っている部分だけ見れば、この服は亜里沙に似合って見えた。


 ソフィーは亜里沙の様子を見てふふっと笑った。


「夕食はお部屋にお持ちしますね。入浴も許可されていますよ」


「あの、良ければ、翔くんも一緒に食べたいんだ。あと、ソフィーも一緒に」


 ソフィーはくりくりの目を一際輝かせた。


「旦那様には内緒ですよ」



 ソフィーが夕食を準備し、翔が亜里沙の部屋に招かれる。


 おずおずと入って来た翔と目が合い、お互い目を丸くする。


 翔は亜里沙のものよりずっとシンプルだった。

 黒に近いグレーの立襟のシャツに、濃紺のオーバーチュニックに似たベストのようなものを着て黒のズボンを履いている。

 よく見るとベストには繊細な装飾が施され、腰に細い紐のベルトを巻いて、ベストが体に沿うようにしてあるようだ。


「似合ってるね、翔くん」


「亜里沙ちゃんも……えっと、可愛いよ」


 照れ臭そうに翔が呟く。亜里沙が照れると翔は焦った様子で「それにしても」と口にした。


「やっぱりこの世界の服は特にファンタジーだね」

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