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そして私は、救済の聖女になった。  作者: 五乃ふゆ
第一章

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10/21

アウルマルクに到着

 強く意識した言葉という事は。


(やっぱり、こうやって心の中で喋っても聞こえる?)


『ああ』


(そうなんだ……良かった、口に出してると独り言言ってるみたいだもんね)


 何となく眠そうな気配を感じたので、亜里沙は先程の疑問をもう一度言葉にした。


(イドルの巣ってどんななの?)


『イドルの巣は大きさは様々だが、どれも見た目は沼に似ている』


「沼?」


 つい声に出た。少し想像しづらい例えだ。


『そうだ。泥の沼だ。穢れが溜まった場所だから、自然の沼とはまるで違うがな』


(そんなものをどうやって潰すの?)


『潰す……?』


(さっきイドルが出て、キーランが倒したんだけど、その後ひとりで巣を潰しに行っちゃったんだ)


 言った後、一瞬、ニーズがどこまで把握しているのか気になった。普段はほぼ気配が無いが、亜里沙の同行者たちの事は認識しているだろうか?


『ああ……奴はアストラムが生んだ子だからな。と言っても、そのものと言えるほど濃く受け継いでいるようだが。アストラムの話は聞いたか?』


(うん、聞いたよ。ニーズはキーランを知ってる?)


『もちろん』


 てっきり不思議な種族同士で知り合いなのかと思ったが、返ってきた答えは意外なものだった。


『我は一番最初のアストラムだから、例えるなら奴は我にとって甥のようなものだからな』


「えっ!」


 また慌てて口を塞ぐ。


(ニーズってアストラムなの!? あれだけドラゴンドラゴン言ってたのに、ドラゴンじゃないの?)


『我はドラゴンでありアストラムだ。我がドラゴンでもあるのは、我が女神の子だからだ』


(それってどういう事……?)


 それではまるで女神がドラゴンかのようだが。


『女神イーリスは、その正体は白いドラゴンなのだ。我は比喩ではなく本当に女神から生まれた子で、他のアストラムとは厳密には違う』


(それって……ニーズも神様ってこと?)


『そうであれば良かったのだが。昔はまだ今より力はあったが、それでも女神には遠く及ばない』


 それに、とニーズがため息をこぼした。


『今の我に出来る事は世界を救ってくれる来訪者に縋って、連れてくる事だけだ』


 亜里沙はなんと言っていいか分からなかった。

 自分は間違われて連れて来られたのでは?

 いざそれを聞こうとすると、躊躇いを感じる。

 あんなに弱っていて、今も回復していないようなのに、本当にそんな事を聞いてしまってもいいのか?


 この沈黙を、何を勘違いしたのか、キーランはドラゴンではない、とニーズが言う。


(……じゃあ、他のアストラムはドラゴンにはなれないってこと?)


 話題が変わった事にほんの少しホッとしてしまう。

 もう少し、もう少しだけ確証が欲しい。それが分からなくてもせめてもう少しだけ時間が欲しかった。


 この世界にドラゴンは二体しかいない、とニーズ。


『我らは確かに女神の子だが、我と他のアストラムでは、生まれ方が違うのだ。アストラムの中でドラゴンに変化するのは我だけだ』


(そうなんだ……じゃあここは、ドラゴンが作った世界なんだね)


 今まで触れたファンタジー作品の中でも、ドラゴンは割とすごい生き物として描かれていた。

 だがまさか世界を作ってしまうほどのドラゴンが実際にいるなんて。



(……それにしてもキーランが甥っ子って)


 一番最初の、と言うのだからきっとニーズはとても長生きなのだろう。とするとキーランは甥っ子どころか子孫なのではないだろうか。


(あ、それじゃあ、キーランにはニーズの事話してもいいんじゃない?)


『駄目だ』


 即答。しかも、驚くほど冷たい声だった。


『我は忘れ去られた存在なのだ。もうこの世に我の存在を感知できるものは、お前の他には女神しかいない』


(それは……どういう……)


 説明が難しい、と言ってニーズは一方的にこの話を切った。そして本題に戻す。


『イドルの巣を浄化するには聖水を使うのが最も確実だ』


(聖水……)


『ああ。聖水は有限だから、使用は有事の際に限られる』


 有事の際とは。イドルの巣が出来た事こそ“有事”ではないのかと亜里沙は思った。サイズや出来た場所によって区別されるのだろうか?


『聖水を使えない巣は、来訪者がいない時は火を使う。ただ火を使う場合は時間がかかり、その分火災のリスクが増加し、深刻な被害が出る場合がある』


(じゃあ、キーランはどうやったの?)


『奴がイドルを倒したなら力を見たのではないか?』


(うん……青白い光が見えた。あの力を使うの?)


『そうだ。ただあれは使いすぎると消耗する。あまり無茶をしないようお前からも言ってやるといい……』


 亜里沙はすぐには答えられなかった。罪悪感に苛まれて。

 本当ならそれは自分の──もしかしたら、全く別人の、だったかも知れないが、とにかく来訪者の役目なのだろうから。

 もしイドルや巣に対して何も出来ないままだったら?

 存在するだけで、とも言われたが自分がこのままここにいても自然と収まらなかったら?

 王都に着けば答えが見つかるだろうか?



 しばらく考え込んだ後、亜里沙はため息を吐いた。


(私に一体何が出来るんだろう……)


 思わずニーズに問いかけたようになって慌てたが、また寝てしまったのかニーズからの答えはなかった。




 翌朝、あの体操で再び気合を入れ直した亜里沙は、一行と集落を後にした。

 出発前にルイとベンは宿の人に賃金を渡して駄馬を返すよう頼み、ロナンは再度駐屯している軍と話していた。

 キーランと馬の側で待機する間、亜里沙は他愛ない話をした。


 例えばお互いの好きな食べ物や、好きな季節、趣味は何か。


 亜里沙は本当はファストフードやスイーツの名前を言いたかったが、ここに来て初めて食べたシチューが思い出されて、シチューと答えた。

 キーランは特に好むものはなく、よく食べるものは串焼きだそうだ。


 亜里沙は春が好きで、キーランは冬が好き。


 趣味は、亜里沙は散歩で、キーランは剣の訓練。


 大した事は話していなかったが、キーランはどこか楽しそうで、亜里沙にはそれが嬉しかった。




 荷馬車は集落までの間よりも少し速度を上げ、昼にはアウルマルクに到着した。

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