痛みのように鮮明な
領地は広がり、伯爵への陞爵時の毒の毒気問題は、解消された。
魔界の毒の森への入り口から遠いところに、役所兼カイγーンとジョーンの住まいを置いたので、毒気はさすがにそこまで漂わない。道具や魔法で絶えず、浄化もしている。
今回はいらいらせずに、ジョーンに会いに行けそうである。
ちゃんと『真の黒』の紳士服を纏い、公爵杖を手に持った。
杖は艶やかな巨大猫目石が握りのところについている。そばにいると、常に視線が向けられているような気のする目だった。
帽子もかぶり、完全なる正装。
ラオグラフィアたちとはとりあえず、50年の停戦確約なので、毒の森入り口2のところの杖に領地を連結させてあちらにいかせた。領民はとりあえず、50人帰した。
一気に帰すと、死にかけが多いので治療が間に合わないし、カイγーンがいないときに、1000人も他勢力が跋扈したら危ないので。
まあそのときは、ボルタ・シルヴァーが仲間に支援を受けながらしばらく押さえるだろうけれども。
公爵に上がって、カイγーンはすこぶる調子がよい。燻っていた魔力が身体に滞らずに巡るようになった、のだろう。
魔界が爵位が上がるとともに与える知識も、魔力の制御に役立っている。
正しく見合う地位を手に入れた彼を、
誰も侮らなかった。
奈落の底が、世に溢れ出たような。
そういう何か。
黒い瞳は濡れたような色合いなのに、光を返さない。
黒髪は光沢はなく、ただ暗い艶を帯びていた。
肌の白さは、禍々しい。
カイγーンは浮かれるように、人間界の、実家と呼んでいる家の入り口に向かう。
通路に、入り口に、控えていた悪魔達は慇懃に頭を下げた。
ジョーンは今回は実家の、領地の入り口の前で待っていた。
前回と違い、今回は通信ができた。以前、人間界の各施設と領地を結んだ音声と映像の魔法である。
軽く汗を流し、『鬱蒼なる青』の儀礼用のスーツを着て、猫目石の握りのついた杖を渡された。カイγーンとおそろいである。
「終わったよ、ジョーン」
ジョーンの悪魔が、人間界ににじみ出した。
可愛かった黒猫が45日ほど見なかった間に、
可愛い黒猫から
美しい何かに化けていた。
身長も顔つきも変わらない。
可愛いことは可愛い。
だが。
ジョーンは薪割りをしていて、鋭い木のささくれが手に刺さったときのような、意識がざっと起きるような、現在地をはっと確信したような感覚で
ああ、綺麗だな
と感じた。
世界がめくれ返って、今までは灰色がかっていたのた、と。
ジョーンは気が付いた。
愛し合っていた
けれど
恋はしてなかった。
家族の延長をそう思っていた。
すごく今更に。
妻で契約者で、雇い主のようなカイγーンに、ジョーンは強い恋慕を生じた。
無夜「ひゃっはー、3章完結」
私「よく書ききったなぁ。ジョーンは感情と動作が『静』気味だから、情熱表現が難しいだろうな、と思ってた」
無夜「ほんとだよっ。完全両思いになるのに、何百年かける気・・・。3章始まったときから、不安だったよ。なんかもう、LIKEとLOVEの違いみたいな」
私「伯爵になってから、カイγーンはLOVEに移行していたけれど、ジョーンはジョーンで伯爵の横にいるのにふさわしい人間になろうとしてわりといっぱいいっぱいだったかな」




