また戦争だ
毒蛾がイライザの茨(差し木から大木というか生け垣になりそうなぐらい横に広がった)に産卵しに来ていた。
門を閉じていても、結界も物理的な門もすり抜けてくる。
ただ、そこから人間界には行こうとしない。
1000の卵を産み付け、そのうち、2匹だけ、育てて貰う。
他は幼虫の時に、レティシア(雌兎)に食べられてしまう。
まあ、全部大きくなったら、茨を食い尽くして餓死するだけなので、この案配が一番良い。
それもこれも、旦那様ジョーンが「雌雄一匹ずつぐらいは、残してやれないか」と、慈悲深いことを言ってくれたからである。たまに面倒くさい人だな、と領民は思うが、その面倒くささで助けられていることが多々ある。
ご主人であるカイγーンは、無用に残虐ではないが、わりあい無慈悲なので。
成虫となった毒蛾がぷちんっと殺処分されないのも、ジョーンのおかげである。
今回はなぜか、網でばっさりと捕まえられて。
「麻痺の鱗粉、ちょっとよこして」
と、箱に入れられたので、毒蛾はバタバタ羽を動かして鱗粉を落とした。
いつもは、ジョーンに迷惑をかけないために、毒の粉が落ちないように気を付けている。
あ、また戦争だね?
解放されたあと、しょうがないなと、茨の陰で、待機することにした。
数百万の卵を産んでも、毒の森では成虫になるのは、5匹もいないのに、ここで我が子が50も成虫にしてもらっている。
この茨がなくなってはこまる。
まあ、茨しか守る気はないけれど、領地がなくなったら同じ事なので、劣勢なら参加はする。
そういう、消極的な遊撃隊が、ジョーンのおかげでちらほらいる。
使者が来たのは、保護期間が明けて、魔界時間で一ヶ月目だった。
見た目は30歳ぐらい、背は170㎝代半ば。角が茶色の柔らかな髪から半分見えている(ランク2)。
門が開くのを待っていて、丁寧に自己紹介をした。
「傲慢なる公爵ラオグラフィアに仕える色欲の大孔雀にございます。子爵を賜っております。どうか、ご領主様にお取り次ぎ願います」
あ、だから尾が光沢ある緑なんだな、と今日は門に居た暴食のリュカは思った。
さて。
まったく面識のない、交流もない他の領主の眷属を中に入れるのは危険。
門の側に、簡単な小屋を組み立て、毒気を除去する。
本来は、上位の爵位(伯爵以上)であれば、入り口に人を住まわせるもの、なのだという。
カイγーンはやらない。
人間界の方の門は家の中で、支配地の村にあるから、そちらはたしかに上位者らしいのだろう。あれも事故みたいに手に入った村だった。
とはいえ、他の悪魔に見つかりたくなかった上、毒の森に門の防衛村を置くのは、現実的でない。平の悪魔は毒気に負けてしまうし、門をほとんど閉じて、人間界につないでいる。
それでも、出入り口の安全確保のための改善の余地はあるんだろう。
さて、孔雀の子爵に茶を出して話を聞くことにした。
最近は、門が大きくなったので、毒気が入るので、魔界とつなぐ日はジョーンは人間界の、屋敷か村に居ることが多い。
なので、まあ安心して、敵と相対できた。
カイγーンとリュカと書記官として暴食のモグラ(かつてはダリアの秘書で、今も娼館の副支配人)が、出張った。
落ち着いて対面すると、服を見る余裕が出る。
魔王もそうだったが、公爵からの使者である彼も、一枚布の服である。(作者・ギリシャ神話なんかで着てる無地の、巻き付けるタイプ)
自分みたいに、魔王も休もうとしたところ連れてこられたからあの格好だったのかと思ったが。
魔界の服飾技術が、2000年ぐらい停滞している。
一応、言い訳をするなら、獣性に戻るときに、脱ぎやすいため、服が進歩する必要がなかったのだ。もう、獣の姿に戻ることが恥ずかしいという認識になっていても。
あとは悪魔の存続システムがおかしいため、文化が発展しない。300年でほぼ平・野良悪魔たちがリセットしてしまう。
「20日後、そちらに攻め込みます」
直球をカイγーンは打ち返した。
「20日後は都合が悪いので、22日後ではいかがか?」
孔雀は一拍置いた。考えている。
使者の黒い髪に緑の光沢があっておもしろい。光の当たり方によっては、ピンクがかっても見える。
「では、22日後に」
カイγーンが思ったより、即答に近い。かなりの決定権を与えられているのだろうと察した。
実のところ、大孔雀はラオグラフィアの実父であるので、知能低下気味の公爵より決定権がある。
本来の色欲は、わりと相手の話を聞くし、察する。二度の戦いが色欲とだったせいで、頭のおかしい連中に思えていたが、あれらは本当に魔力過多や爵位が合わずおかしくなっていたのかもしれない。
「攻め込まれる側なので、卑怯なマネをするつもりでいますが」
カイγーンは相手の反応見たさにそう伝える。
孔雀は微笑んだ。
「どうぞ、あがいてください。こちらも全力でいきます。どうかどうか、つまらない戦などなさいませんように。殺し合いましょう。最後の一人まで」
「えっと、貴方、色欲で。主人、傲慢だよね? 憤怒とかじゃなくて」
「我が子の一人に憤怒もおりますよ」
「攻め込んでくる人数を教えてもらっても?」
「1200人です」
「色欲の爵位持ちって貴方の他にいますか?」
「妻も色欲の子爵です。あとは伯爵に一人、色欲がおります」
聞きたいことは聞いた。
お帰りいただいた。
とりあえず、手ぶらで帰すのもなんだかな、と綿のロングシャツを10枚ほど土産に渡した。
襟ぐりが開いているので、獣になったときに、抜け出やすいようになっている。孔雀が抜けられるのかはわからないけれど。
さて、作戦会議である。
「交渉の余地あって、話ができるんだ」
と、カイγーンは唸った。
彼は嘘はつかなかった。少なくても、戦力も、開戦日も、言ったとおりだと当人は信じている。2日伸ばしたのは、感覚的に1割増しならいけるかと、思ったからだ。これを値切ってきたら、面倒くさかったが、あちら様は寛容とさえいえる即答許可。
「20日後に攻めてくるなら皆殺しで。22日後にくるなら、約束守れるタイプだから、なるだけ殺さず捕獲する。色欲の爵位持ち、一人は欲しい。とはいえ、仲間を殺されては、従わないだろうから」
ということで。
毒蛾の麻痺鱗粉、確保っと。
私「カイγーンのばっさり判定」
無夜「都合悪いっていった日を、避ける約束したのにそれを破ったら皆殺しだよ★」
私「自分が負ける心配皆無だね」
無夜「だって魔王が告げたじゃない。現時点で、カイγーンが魔界の爵位持ちの中で魔力最高値、って」
私「でも、あいつ魔力を出力(魔法)出来ないじゃん」
無夜「関係ないんだ。だって、ジョーンの発案で、魔法無効、肉弾戦ないし武器使用戦闘領だから」




