タマの背伸び
『瑠璃姫さまは、九尾なの?』
タマの横にトンと飛び降りながら、僕は尋ねる。
「そうニャん。妖怪は成長する。
お前もいつか、瑠璃姫さまのような九尾になれるかも知れないニャん」
言いながら、ゴロゴロと喉を鳴らし、再び僕のしっぽを追う。
『……』
僕はそれを、ぴょんぴょんと上手く躱しながら、タマに尋ねた。
『僕でもなれるの? その、九尾って……』
「……うーん。よくは分からニャいニャん。
でも多分なれるニャ。同じキツネだし。
……でも今は無理ニャん。お前は まだまだ妖力が弱いニャん。そんなんじゃ何にもなれないニャん。
……ひとまず今より、妖力がついたらニャん」
言いながら、待て待てと僕のしっぽを追う。
『ねぇ、どうやって妖力をつけるの?』
しっぽを巧みに操りながら、僕は尋ねる。
僕には興味があった。
自分とそっくりな妖怪と過ごすことが出来たら、どんなに幸せだろう?
でも相手は《九尾》。
同じ《妖狐》だとしても、『一』と『九』じゃ、全然数が違う。お話にすりゃならない。
その、たった『一』を、どうやったら『二』にするのかすら僕は分からないんだ。
対等に関わるのには、僕も九尾にならなくっちゃ。
『……』
僕は心の底から、本気でそう思った。
だから知りたかった。強くなれる方法。
「……」
僕がそう尋ねた瞬間、タマはくるっと廻り、ポンっと小さな音を立てて、三毛猫になった。
『!』
驚く僕を尻目に、猫のタマがくすりと笑った。
『まずは、変化が出来なくちゃ話にならないニャん』
言って、驚く僕のしっぽをパタっと捕まえると、そのままパクっと噛みついた。
『ひっ……!』
しっぽを捕まえられ、しかも噛みつかれて、僕はぞわわっと身を震わせる。
『も、もう! 噛みつかないでよっ。
さっきから何なの? ケンカ売ってるの!?』
ぐわっと僕は牙をむき出した。
僕に威嚇されて、タマはビクッと体を揺すると、耳を垂れその場にひれ伏した。その姿があまりにも健気で僕はさらに驚く。
なにそれ? さっきの威勢の良さは、どこにいったの……?
『ご、ごめんニャ?』
タマは謝る。
『あんまりにもフカフカだったから、つい……』
『今度から気をつけてよね!』
厳しく叫んでみたけれど、僕はちょっぴり可笑しくなる。
偉そうな口ぶりのタマだったけれど、本当は必死になっているんだって事に気づいた。
僕はここでは新参者だし、明らかにチビだもん。だからタマは、僕に舐められたくなくって、大人っぽく見えるように背伸びしているんだなって。それが逆に、子どもみたいだって僕は思った。
僕は笑いをこらえて、タマに向き直る。
『ねぇねぇ、それより、その変化……なんだけど……』
今度は、僕が一歩下がってみる。耳を垂れてみせて、甘えるような声を出してみた。
するとタマの顔がパッと明るくなる。
ふふ。分かりやすい。
『んニャん?』
タマが小首を傾げた。
なんでもないって顔しているけれど、本当は嬉しいに違いない。うずうずと しっぽが微かに動いている。
『……』
僕は笑いたいのを必死に堪えて……でも、堪えきれなくて、遂に──!
『その変化のやり方……教えてくださいっ!!』
一気に頭を下げて頼むことで、顔を見らることを何とか防いだ!
うん、僕がんばった。後は声を殺して笑うだけだ。ぷぷぷぷぷ。
僕に頭を下げられて、タマは一瞬驚いたようだったけれど、すぐに胸を張って答える。
『ふふん。タマに任せるニャん! これでも変化は得意ニャん!』
エッヘンとのけ反り、タマは言いきった。
僕は今度は普通に微笑んだ。
嬉しかった。
心の底から、嬉しかったんだ。
タマとも仲良くやっていける。……そう思った。
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正直なところ、キツネとタヌキの変化の力には、どの妖怪も勝てやしない。
だってそもそも《変化》って、キツネとタヌキのお家芸と言っても過言じゃないからね。
だからそのキツネであるこの僕が、『変化を教えてくれ』とタマに、頭を下げる……なんてこと、しなくても良かったんだ。
でも、この時の僕は、そんな事知りもしなかったし、お姉ちゃんぶりたかったタマは『こんな珍しいことは、もう二度と起こらない』と思っていたはずだ。その事実を、タマは 教えてはくれなかったけれど。
きっと、《妖狐相手に変化の先生役》っていう立場に絆されたんだと思う。
だからこの時、タマはニヤリと笑った。
いつの日にかタマは、僕に追い越される日が来る。そんな事は分かりきっていたけれど、でもそれは、まだ先の話で、それまでは先輩風を吹かしておこう……なんて、タマは思っていたに違いない。
だって あの時のタマの微笑みは、紛れもなく本物だったから。
× × × つづく× × ×
┈┈••✤••┈┈┈┈••✤ あとがき ✤••┈┈┈┈••✤••┈┈
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