↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
うつりぎ  作者: 西季幽司
新作~鎌倉時代編
83/84

承久の乱③

「おう。気がつきましたか」

 忠光が目を覚ました。

「て、敵は?」

「ご安心めされよ。お味方の大勝利です」

「左様ですか・・・わたしは・・・」

「落馬なされた様子。それに、肩に矢を受けておりました」

 肩が痛む。平九郎だろうか、手当をした跡があった。

「まことにかたじけない」

「此度(こたび)は見事なお働き、平九郎、感心いたしました」

「わたしが⁉」

「うぬ。朝日判官が家来、宇野次郎守清と申すものを見事、討ち取ったではありませぬか」

「宇野次郎守清・・・殿」

「はは。お忘れかな? 落馬の際に頭でも打ったのでしょう」

「然れども・・・」

「首は狩野介殿にお届けしておきました。後々、恩賞に預かることができましょう」

「恩賞などと・・・」

 忠光には宇野某(なにがし)を倒した記憶など無かった。平九郎が討った武将を忠光の手柄として届け出たのだろう。

「ところで忠光殿・・・いや、そなた、女子(おなご)の身でありながら、何故、戦に加わっておられる?」

「!」忠光が胸元を押さえた。

 忠光は女だった。いや、忠光に成りすました女だった。

「矢傷を治療した際に、気がつきました」と平九郎が言う。

 傷の治療で直垂(ひたれ)を脱がせた際に、胸の膨らみに気がついたのだ。「心配無用。誰にも見られてはおりませぬ」と言うが、平九郎は見たはずだ。

「訳あって・・・」

「その訳とは?」

 女は清子と名乗った。忠光の姉であると言う。忠光は幼少より体が弱く、武士として将来が危ぶまれていたが、忠光以外に男子が生まれなかった。姉弟の父、深津信忠が急死し、忠光が後を継いで間もなく、陣触れがあった。戦だ。ご恩と奉公が武家の習いだ。何をおいても戦に駆けつけなければならない。だが、病弱な忠光は戦を聞いて気負い過ぎたようで熱を発して寝込んでしまった。他に男手はない。ここで奉公が出来ないようだと、領地を取り上げられてしまうかもしれない。

 そこで清子が男装をして戦に加わったという訳だ。幸い、忠光は家督を継いだばかりで、狩野勢に顔を知るものなどいなかったらしい。

「事情は分かりましたが、女子が戦場に赴くとは感心しませぬな」

「生きて行く為です」と清子に言われてしまうと、それ以上、何も言えなかった。平九郎も下級武士の暮らしがどんなものか、分かり過ぎるほど分かっていた。

「いずれにしろ、武功は立てたことですし、御身に傷を負われております。女子(おなご)の身でこれ以上の殺生は無用でしょう。ここで軍旅を終えて所領にお戻りなさい」

 平九郎の言葉に、「はい」と清子が頷いた時、「おおっ! ここにいたのか」と一人の武者が二人のもとにやって来た。

 狩野宗茂だった。「これは」と清子が起き上がろうとするのを、「そのまま、そのまま」と宗茂が制する。

「何用でしょうか?」

「三郎殿。宇野次郎ほどの豪のものを討ち取るなど、此度のお働き、見事でしたぞ。我が軍はこのまま京を目指して進軍することになりました。手勢の内、百騎ほど、お預けいたします。是非、三郎殿に指揮をとってもらいたいのです」

 清子が慌てて、「軍勢の指揮など、私には荷が重く存じます」と言うと、「ははは」と宗茂は大笑して、「ご謙遜なさるな」と取り合ってくれなかった。

 結局、軍勢の指揮を押し付けられてしまった。

「いかがいたしましょう?」

 清子は泣きそうな顔だ。

「私が傍におります。私に相談する振りをなされよ。下知は全て、私が代わって出しましょう。決して傍から離れないように」

「分かりました」と清子はほっとした様子だった。

 鎌倉方は京に向かって進軍を始めた。

 上皇方は残る全兵力をもって宇治、瀬田に布陣し、橋を落とし、宇治川で幕府軍を防ぐべく防衛線を張った。

 宇治川を挟んで、鎌倉方と上皇方が対峙した。

「忠光殿の御指示だ」と平九郎は十騎ほどを連れ、偵察に出かけると、付近の農夫を捕まえると「この辺りに浅瀬はないか?」と尋ねた。

「この辺りは川幅も広く、今時は水嵩も高く、迂闊に渡ろうとすると、深みにはまり溺れてしまいます。ただ――」

「ただ、なんだ?」

「一里ばかり川下に行けば、浅瀬の続く場所があります。ひょっとすると渡れるかもしれません」

「うむ。そこに案内しろ」

 こうして平九郎は農夫を連れて宇治川を見て回った。

 翌朝、卯の刻には、平九郎は清子と共に、宗茂より預かった百騎を引き連れ、陣を離れた。

「忠光殿の御指示だ。我が軍は宇治川を渡り、敵の側面をつく!」

 百騎を浅瀬まで駆けさせ、宇治川の渡河を決行した。

 平九郎たちが宇治川を迂回している間に戦が始まった。上皇方は鎌倉方に雨あられと矢を射かけた。鎌倉方は雨による増水のために川を渡れずに攻めあぐねた。佐々木信綱を先頭に強引に敵前渡河を強行したが、多数の溺死者を出す始末だった。

 何とか渡河に成功した時、奇襲部隊が上皇方の側面より襲い掛かった。

 平九郎たちだ。

「敵襲だ~!」

「迎え討て~! こら、何処へ行く。相手は小勢、殲滅するのだ」

「逃げるな。逃げるものは斬る!」

 突然、湧いて来た騎馬武者に上皇方は大混乱に陥った。

「それ、あのものたちを見殺しにするな!」

 鎌倉方は次々と川を渡った。

 鎌倉方の猛攻に、上皇方は敗走を始めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。