↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
亡霊剣士と、忘れられた殺人  作者: 平ミノル


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
6/12

第6話 妖技・蛇髪牢


宙吊りにされた俺の四肢に、柔道の帯のようなものが、ぎりぎりと食い込んできた。霊体である俺の体を、この帯は謎の力を使って縛り上げている。その力は強烈で、俺がどんなに藻掻こうとも振りほどけなかった。


「ひかり……っ!」


すぐそばで、ひかりもまた、帯にぐるぐると巻かれながら、芋虫のように身をよじっていた。俺が呼びかけると、眉根を寄せて俺を見た。


「お父さんっ……!」


「暴れるんじゃないよ、ネズミが」


福禄寿のような老婆が、黄色い歯を剥いて、ゆっくりと近づいてくる。キラキラした布地の、白いワンピースの裾を引きずりながら歩いてくる。サングラスの奥で、落ちくぼんだ目が、ぬらりと光っていた。


俺はゾッとした。この老婆には、霊体の俺が、はっきりと見えているのだ。


「あんた、一体何者なんだ……!」


老婆は、俺の問いには答えず、床に転がるひかりの前にしゃがみ込んだ。そして口元をニヤリとさせながら、鋭く尖った人差し指の爪で、ひかりの頬を、つうっと撫でた。


爪の跡が、極細の赤い筋となる。


老婆はそれを指の腹ですくってペロリと舐めた。そして目を細める。


「ああ、いい血だ。こんなに濃いのは、何十年ぶりかねえ」


「血……?」


「お前にゃ、関係ないことさ」


老婆の目が、うっとりと細められる。


「この娘はね、ただの売り物じゃないんだよ。長いこと、ずうっと探してたのさ。やっと捕まえた」


その言葉を聞いた俺は、背筋を凍らせた。人身売買だと思っていたが、こいつらはそれ以上にヤバい奴みたいだ。


「お前……最初からひかりを狙っていたのか!」


俺は、ありったけの力で帯に抗った。だが、締め付けは緩むどころか、きつくなる一方だ。俺の体がギリギリと軋んだ。


老婆は吊るされている俺を見上げて嗤った。


「父親気取りかい? 死んだ亡霊のくせに、いい気なもんだ」


「何がおかしいんだよ!」


俺は身を揺すりながら叫んだ。だが、老婆は俺に興味などないとばかりに背中を向けた。


「ヒヒヒ、バカは放っておいて。と……」


その手が、ひかりの首元へと、伸びていく。


「間に合わないっ」


そう思った、その瞬間だった。


足元の床が、ばっと弾けるように——下から、白刃が突き出してきたのだ。


「死ね! クソババア!」


「むおっ!」


福禄寿の白髪頭が、老婆とは思えない動きをみせながらバック転する。すると、床からぬうっと源蔵さんが顔を出して来て、横一閃に刃を振るった。


「源蔵さん!」


「でえええいっ!」


源蔵さんが大振りに刀を振ると、老婆はさらにバック転しなががら逃げ続ける。源蔵さんも刀を振りながら老婆を追うが、彼女は驚くべき足さばきでそれを躱した。


「きえええ!」


奇声を発しながら、老婆が霊力を込めた帯を振りまわす。その帯が源蔵さんの刃とぶつかると、黄色い火花がバチバチと跳んだ。


「この老いぼれめ!!」


源蔵さんは何度も刀を振り下ろしながら老婆を追い詰めていく。


「お前こそジジイの亡霊のクセに、粋がってるんじゃないよ!」


老婆は信じられない動きで源蔵さんの刃を躱していく。


源蔵さんが刀を振り回したせいで、俺たちを縛っていた帯がブツブツと断ち切れた。源蔵さんの本当の狙いは、実はこれだったのだ。


俺はひかりの元へ急いで、帯を取り除いた。


「ひかり! 友達2人に声をかけてくれ! 逃げるぞ!」


「わかった!」


ひかりは立ち上がって、部屋の片隅で頭を抱えて震えていた少女2人の腕を引くと、力強く声をかけた。


「カスミ! マリ! 逃げるわよ!」


ひかりは2人の腕を強引に引くと、鉄格子の入口を潜ってフロアに飛び出た。そして、階段へと走った。それを見た老婆はサングラスの奥で目を剥いて睨んだ。


「あーっ! 娘ども! 逃げるんじゃないよ!」


老婆がひかりたちに気を取られた瞬間、源蔵さんがひとっ飛びに接近した。


「あっ!」


老婆が振り返ったその時、源蔵さんの刀が、横薙ぎに一閃、老婆の頭を真横に斬り飛ばしたのだ。


「嫌ああああ……!」


老婆は絶叫した。


その叫び声を聞いて、俺は一瞬、振り返った。


「やったのか!」


だが、宙を舞ったのは頭の上半分。それは、束ねられた白い髪の毛だけなのだった。福禄寿のように見えていたあの盛り上がった頭頂は——大量の髪を、結い上げていただけだったのだ。


バサリ、と。


斬り落とされた髪が床へ散らばる。老婆の頭に残った髪の毛はまとまりを失ってバラバラとなり、老婆の怒りに満ちた顔を隠した。


「おのれ、よくも私の髪を!」 


「頭じゃねえのかよ!」


「うるさいっ!」


老婆が髪をかき上げると、サングラスが外れ飛んだ。老婆は目を皿のように見開いて睨んだ。


「このクソジジイ!髪は女の命だってこと、知らないのかいっ!」


「知るかババア! 髪が命なんだったら、さっさと死ね!」


「言ったなこの、クソジジイ!」


老婆は源蔵さんを憎しみのこもった目で睨みつけると、妙な形に両手のひらを組んで印を結んだ。


その異様な姿に源蔵さんは刀を構えた。老婆は叫んだ。


「出よ白蛇たち! 妖技・蛇髪牢《じゃはつろう》!」


すると、床に散らばった白い髪が、ぴくり、ぴくりと蠢き始めたのだ。キリキリという音をさせながら、髪が集まり始める。そしてそれは編み合わさり、蛇のような形状となっていったのだ。老婆にはありえない毛髪量……その蛇の数も40匹ほどとなった。


源蔵さんは片眉を上げた。


「な……なんだこりゃ?」


「ヒッヒッヒ…… 髪は女の命だと言ったろう?」


「だからと言って、蛇に命を与えるとは聞いてねえぜ……」


その髪たちは紐状になりながら、うねうねと動き出す。そしてそれは、いつの間にか

源蔵さんを取り囲むようにうねっていた。


「数が多すぎるぜ……」


源蔵さんは刀を構えたまま動けなかった。


「ヒッヒッヒ……お前が逃げる隙間は毛ほどもないよ」


老婆はそう言うとニヤリと笑った。


蛇たちは鎌首をもたげてウロウロしている。とぐろを巻き、キリキリと音をたてながら重なり合い、蠢いていた。


「ヒヒヒ……いい子だよ、お前たち」


老婆が、乱れ髪をかき上げて嗤った。


「さあ、行くんだ! あのジジイの薄汚い霊体を、喰い千切っておやり!」


白蛇の群れが、一斉に源蔵さんへと躍りかかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。