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サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~  作者: イーグル
始まりの彼が存在する物語 五輪 始動編

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822/823

消極的な展開の果てに

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

 グループリーグからアジアの強豪同士が激突。



 韓国とサウジアラビアが同じ組となった事には、周囲も驚いてしまう。


 いずれもアジアでトップを争う2カ国で、今大会の決勝の組み合わせとなっても不思議ではない。



「くぅっ!?」



 赤いユニフォームを纏うキム・ユンジェイがドリブルで1人躱すも、直後に相手DFの足に捕まってボールを弾かれる。



『韓国、ユンジェイの個人技もサウジアラビアの分厚い守備が阻む!』



 サウジアラビアが2連勝でグループ首位を行くのに対して、韓国は1勝1分の勝ち点4で現在2位。



 もう一つの試合の結果次第で、韓国が負ければ予選敗退となってしまう。



 それだけは絶対に避けようと、韓国のエースであるユンジェイは奮闘していた。



「(くそっ! ガチガチに固めてきてるな……!)」



 試合巧者で知られるサウジは、無理に勝ち点3を狙わず守備を固めるだけでなく、マイボールになってのリスタートもゆっくり動いて時間を使う。



 この2チームの結果次第で同時刻、3戦目を戦う日本の相手が変わってくる。




「韓国とサウジのスコア、まだ動いてません」



 日本ベンチで、ライバルチームの試合をチェックするスタッフ達。


 目の前の試合に集中している選手達と監督の陰で、忙しく動き回っていた。



 その日本はグループ最終戦、此処まで同じ2連勝で来ているUAEと試合中。




「焦らず、じっくり行こうー!」



 ボールを持って攻め込む日本選手達へ、弥一は無理せず急がなくて良いと声を掛ける。



 此処までマレーシア、タイを相手に日本は攻撃的なサッカーを見せてきたが、UAEとの試合ではボールを回す時間を長く使う。



 相手のUAEも自軍の守備を固める事を重視して、そこまで日本選手を追いかけ回そうとはしない。



 既にグループ突破が日本と共に確定しているので、決勝トーナメントに向けて消耗を抑える狙いだ。



「ちゃんと攻めろー!」



「守ってばかりじゃないかー!」



 積極的な攻め合いのサッカーを見たい観客達から、攻めろとブーイングが飛び始める。




「(まぁ、こんな消極的な試合になれば見ている側からしたらつまんないよね)」



 観客達の声が表だけでなく、心の声としても飛び出して弥一にだけ届く。



 日本だけでなくUAEもオリンピックへ出る為、先を見据えていた。


 消耗せず、大事な決勝トーナメントの戦いに備える事こそが重要で、体力の消耗や怪我を避ける為のやり方を選ぶ。



「(向こうは予選突破出来るなら、2位でも構わないみたいだし)」



 UAEの選手達の心を探れば、このグループを突破すれば良いと考えている。



 その為なら1位か2位、彼らにとっては重要ではないので、どちらでもよかった。



『前半、両チームに決定的なチャンスは生まれず。シュートの数では日本が3本にUAEが0本と、少ないですね』



『韓国とサウジアラビアの試合もスコアレスが続いていますので、このまま行けばサウジが首位で韓国が2位と、決勝トーナメントはいきなり日韓戦から始まりますね』



 前半は0ー0と試合は動かず、ハーフタイムに入る。




「多少荒っぽく来るかと思ったけど、全然来ないな」



 軽くタオルで汗を拭く大城は、想定していた激しさが全く来ない事に拍子抜けしていた。



「そりゃそうだろ。無駄なカードを貰って出場停止を食らいたくないはずだし、リスクを背負う意味が向こうには無いと思うぞ」



 この試合スタメン出場の鳥羽も、UAEが積極的には行かずに安全策で行っていると勘付く。



「馬鹿正直に行って、勝ったとしても結果は1位突破と変わりませんし。向こうも来ないから展開としては楽で助かりますけどね」



 向こうに徹底して自軍を固められ、得意の俊足を活かせないままの月城はUAEが引き分けで良いなら、それに甘えて楽しようと考えている。



 チームとしては首位で行ける事に変わらないので、今のままで良いという雰囲気が漂い始めた時。




「0ー0でも日本の首位突破は行けるけど──スッキリしねぇな」



 黙っていたキャプテンが口を開く。



 今の状況でも決勝トーナメントに進めて何の問題も無いが、勝也の中で納得が行っていなかった。



「どうせ予選突破するなら、綺麗に3連勝で全部勝って決勝トーナメントに進みてぇよ」



「──確かに、今の守りを固めてる相手を避けて世界一を取れるのかとなったら疑問だ」



 勝也が自分の気持ちを選手達へ伝えている所へ、見守っていた康友が静かに口を開く。



「これがもし、1点をどうしても取らなければ負けるという状況になれば、その時も逃げるのか? そうじゃないだろう」



 このまま先へ進むべきなのか、康友の中でも勝也と同じ事を考えている。



「隙があったら狙え。何も遠慮する必要などない」



 監督から1点を取ってこいと、背中を押されて選手達は後半に臨む。




「とは言ったものの、あっちスペースを空けてねぇからなぁ……」



 後半のフィールドへ入った勝也は相手の守備をどう破るか、その事に頭を悩ませる。



 日本の選手達が円陣を組むと、弥一は何かを思いついたような笑みを見せた。



「勝兄貴、皆、良い事考えたよ〜♪」



 サイキッカーDFの悪巧みが皆へと伝えられ、UAEとの後半戦がキックオフ。




『後半、日本はボールを持つものの攻め込む様子がありません』



『UAEが引き分け狙いと知って、日本もこのまま試合終了を待てば得失点差の関係で首位通過は間違いありませんからね。あまり褒められたやり方ではありませんが……』



 相変わらずの消極的なサッカーに、サポーターからのブーイングは鳴り止まず。



「はい攻めない攻めないー!」



 ボールを回す選手達に向かって、弥一は敵陣深く行くなと伝える。



 四方八方からのブーイングに、全くのお構い無しで消極的サッカーをやるよう、強く背中を押していた。



 後半の時間は経過するばかりで、終了が迫る時。




「こっち頂戴ー!」



 ボールを持つ明に弥一が要求してくると、右足で正確なパスを蹴る。



 本来なら弥一は要注意なプレーヤーで知られるが、此処まで消極的な日本のプレーを見たUAEは、向こうに攻める気が無くて引き分け狙いだろうと思っていた。




「(んな訳──ないでしょ!)」



 自分に対して警戒が無い事に弥一はニヤリと笑えば、ドリブルを開始。


 相手が寄ってくるよりも速く、UAEゴールへ向かう。



 実況やサポーター、全てが攻めないだろうと思って油断していた所へ、弥一による奇襲が始まると皆がその姿に注目。



 完全に気を抜いていた相手の不意を突き、弥一の右足が振り抜かれる。



『あっと!? 此処まで大人しくしていた神明寺がドリブルでUAEゴールへ突っ込む!』



 放たれたボールは、相手DFの隙間を抜ける正確性に加え、シュートのようなスピードが出ていた。



「自分で決めてスッキリしなよ! 勝兄貴!」



 パスを受けた勝也に弥一は託せば、決めてこいと叫ぶ。



「(本当、エグいパスを出すよなお前は!!)」



 相手ゴールに背を向けた状態でボールを貰うと、反転して右足でシュートを狙った。



 突然の攻撃にDFは寄せ切れなくてGKも反応が遅れ、勝也のシュートがUAEのゴール左隅に突き刺さる。




『決まったぁー! このまま引き分け狙いかと思えば、まさかの奇襲で神明寺のパスから神山がネットを揺らし、日本が土壇場で先制点!!』



『本当に攻めずに終わるのかと思えば、完全に騙されて油断しましたね……! こんなに消極的になる必要あるのかとずっと思ってましたが、こういう事でしたか!』




 UAEの方は完全に攻めないなと騙され、弥一と勝也に寄せ切れずに失点して呆然となる。



「おおっし!!」



「作戦成功だねー!」



 消極的な試合が続いたかと思えば電光石火の先制点に、サポーター達にどよめきが起こる中、ガッツポーズをする勝也へ弥一が後ろから抱きつく。




 円陣の時、どうせ攻めないなら時間ギリギリまで攻めず、油断させようと弥一は伝えていた。


 これによって相手に攻める気が無いと思わせ、奇襲に成功する。



 失敗しても結果に大きな変化は無いので、そこまでのリスクは背負っていない。



「(周囲の環境など、お構いなしで自由なサッカーをする。それが彼の強みか……)」



 康友は喜び合う弥一の姿を見て、彼の強みと怖さを改めて目の当たりにする。



 敵には回したくないタイプだなと。




 そして試合はこのまま終了を迎え、1ー0で日本がグループ3連勝で決勝トーナメントへ進出。



 同時刻、韓国とサウジアラビアの試合は土壇場でユンジェイが相手のエリア内で倒れ、自らPKを決めた1点が決勝点となる。



 韓国が1ー0で勝利し、韓国が1位でサウジアラビアが2位通過を果たした結果、日本の相手は2位のサウジに決まった。



 日本1ー0UAE


 神山



 マン・オブ・ザ・マッチ

 神明寺弥一

弥一「退屈な試合展開が続いた所へ、油断してる所にドカン! だねー」


勝也「思いっきり奇襲だけどな。ブーイングがもう凄まじかったし」


弥一「正々堂々、じゃなく思いっきり不意を突いた攻撃で、とりあえず勝ってもSNSの批判が凄そうだけど〜」


龍尾「そういうのは見ないに限るだろ。嫌いな奴はとことん嫌いだろうからな」


照皇「結果で黙らせれば良い」


弥一「照さんは1個ずつ真面目に返そうだから、特に見ないで〜!」

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