逃げ切る戦い
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
『2点目ー!! 鳥羽の左からのFKが直接決まり、ドイツから日本が追加点を奪って2点差!』
『物凄いFKでしたね……! これは神明寺にも負けないキックで、ドイツも予測出来なかったかもしれません』
「鳥羽さん、真島の時よりレベルアップしてるじゃーん♪」
「高校から何も伸びてなかったらプロ行けねぇって」
カーブやスピードの両方が増した切れ味鋭いキック。
特等席で見ていた弥一が鳥羽を称賛すると、他のチームメイト達も駆け寄っていく。
「気の所為かスタンドが少し静かになってきてるかな」
試合開始の時と比べれば声が控えめになってきてる事に、スタンドを見回す光明は気づいた。
「2点差をつけられたから、向こうは死に物狂いで来るはずだよー」
弥一にはドイツチーム全体の心が見えている。
日本相手にホームで2点差にされたままでは終われない、絶対に追いついて試合をひっくり返そうと。
「まぁ、後は僕がハルトを止めれば──」
「弥一」
完封で試合終了だと弥一が言いかけた時、勝也が口を開く。
「ハルトのマークは俺に任せてくれるか? これ以上あいつを好きにさせねぇから」
真剣な表情で、自分が厄介な存在を止めると言い切る兄貴分に、弥一は少し間を置いてから口を開く。
「良いよ、頑張れ♪」
「おう!」
笑顔で勝也にマークを任せ、弥一はDFラインへ向かっていった。
兄貴分の顔を見た時、根拠は無いがやってくれそうに思えたので、可能性に賭けてようと。
「2点差なんて……俺達ドイツが日本に……こんな事あるのか……!?」
まさかの2点ビハインドに、モートンは信じられないという顔を浮かべる。
「新たに来た18番に、もっと警戒して当たるべきだった……!」
狼騎と同じサイドで止められなかった事に、クレイラは深く悔やむ。
「嘆いても失点が帳消しにはならないから。それより、まずは1点を返す事が大事」
「ああ、そうだな。より前に出て得点を狙いに行かないと」
攻めるしかないと静かに言うハルトに、ソニーザは同意して小さく首を縦に振る。
心を読んだ弥一の予想通り、ドイツは2点差をつけられて総攻撃に行くしかなかった。
「(人は見かけに寄らないと言うけど、タフな野郎だなこいつ!)」
自分からマークをすると言い出した勝也は、その言葉通りに中盤でハルトの徹底マークに走り回る。
後半も前半に続き、相当走り回ってるはずだが疲れる様子を見せず、相変わらずフィールドを縦横無尽に動いていた。
それに負けじと、勝也は持ち前の体力でハルトに食らいつく。
「──君、此処までついてくるんだね」
足を止めたハルトは勝也に向かって語りかける。
「叔父から聞いてるよ。君はとても執念深く、絶対諦めずに追い続けて来るってさ」
スレイダーから弥一と共に勝也の事も聞かされ、2点のリードがあろうと、必死に付き纏い続けていた。
「ヤイチ・シンメイジとは全然違うタイプだけど、面白いね」
「あー……(何か言ってるけど全然分かんねぇ……!)」
それがドイツ語の為、ハルトが何を言ってるのかは分からない。
ただ、笑みを浮かべているのが見えて褒められてるのではないかと、なんとなく予想はする。
「(とりあえず、何言われてもマークを緩める気はねぇからな!)」
ハルトの言葉を理解出来てないまま、勝也は相手との走り合いを続行。
「右来るよー! 春樹さんフォローしてー!」
ドイツがボールを持って攻めに来た時、弥一はソニーザを使ってくると読めば、春樹にコーチングで伝える。
「(中央またガラ空きになっても知らないぞ!)」
先程のようにハルトが空いた中央に来るのでは、と思いながらも春樹は明と2人がかりでソニーザを抑えに向かう。
「ボランチがサイドに寄ったぞ!!」
ドイツの監督が前に出てきて、相手のボランチが中央から移動した事を大声で選手達へ伝える。
チャンスと見たボールを持つズィーガンは、ハルトが走り込むだろうと中盤の空いたスペースにボールを蹴った。
予想通り、その位置へ勝也にマークで追われながらも、ハルトがパスに走り込む。
「(僕がカバーするから大丈夫だよ!)」
春樹が心の中で思っていた事に返答しながら、弥一はスペースを狙ったパスをカット。
『神明寺またしてもパスを通さない! ドイツは思うように攻められなくなってきたか!?』
『そろそろ前後半を合わせて80分近くになりますから、両サイドのソニーザとクレイラの動きも落ちてきてますね』
2点目が日本に入って以降、ドイツがボールを持って攻勢に出る回数が多くなっている。
流れがドイツにあるものの、日本は勝也がしつこくハルトを追いかけ回し、弥一が指示を出して守備を崩させない。
「ハルトには10番がしつこくマークしてるけど、別にパスを出しても良いんじゃないか?」
「いや、けど振り切れてないしな……」
ドイツの選手達の間で、ハルトにパスを送るかどうかで話し合われる。
「相手は此処までハルトに振り回され続けてるし、あいつなら好きに料理出来るだろ。日本の10番になら勝てる」
結果、勝也が相手なら確実に抜けると見て、マークに構わずパスを出す決断を下す。
『ランドルフからハルト! 前には神山がいる!』
中盤でドイツはショートパスで繋ぎ、ハルトがボールを持って正面の勝也と向き合う。
「これでも、変わらず食らいつける!?」
後半になっても衰えない動きで足元のボールを転がし、ハルトが数々の異なるフェイントで揺さぶりをかけていく。
ガッ
「っ!?」
隙を突いて右に抜けようとしていたハルトに、勝也は肩からぶつかって相手の動きを止める。
『抜かせない神山! 中央突破を阻止だ!』
弥一と散々デュエルを重ねてきた。
ディーンと世界大会の決勝戦で争ってきた。
プロになって様々な相手と戦い続け、確実にサッカープレーヤーとしての力は増している。
それが大きな力となり、ハルトと渡り合う。
「(滅茶苦茶上手いけど、ついて行けない程じゃねぇよ!)」
どんなに上手い相手だろうが泥臭く、執念深く相手を追い続ける。
これが勝也の真骨頂で相手へ肉薄していた。
「はぁっ……!」
此処まで長時間の出場に加え、長く走り続けているハルトの息が乱れ始めると、その瞬間に勝也はボールを奪取。
『奪い取った神山ー!』
ドイツに攻撃を許さず、決定的なチャンスを作らせない。
その後、猛攻を仕掛け続けてきたが、日本のゴールネットは最後まで揺らされる事は無かった。
そして試合終了のホイッスルが鳴り響く。
『試合終了ー! 日本、サッカー大国ドイツを相手に2ー0! 先の五輪アジア予選、本戦へと弾みをつける勝利です!』
「皆お疲れ〜♪」
試合が終わって、ドイツサポーター達がどよめく中、日本選手は勝利を喜び合う。
弥一は皆へ笑顔で労いの言葉をかける。
「……日本サッカーの近年のレベルアップについては聞いてるけど、想定を超えていた」
そこにハルトが近づくと、弥一はドイツ語で応じる。
「こっちも世界の頂点を欧州や南米みたいにガチで狙ってるからねー。これぐらいやれなきゃ金は取れないでしょ♪」
「五輪の優勝か。確か大昔に日本は銅を1個だけ取ってるって聞いてるよ。それ以降は予選敗退やトーナメントの惜しい所で負け続けたりと」
ハルトは弥一と会話を重ねる中、調べて知ったのか日本の過去の五輪について話す。
日本男子サッカーのレベルは上がっているが、五輪でのメダルは過去に一度3位を獲得したのみだ。
「取れてないけど、その歴史もそろそろ終わらせに行かないとね」
長らく日本男子サッカーで、五輪のメダルと縁が無いのは事実。
同じく歴史を知る弥一は自分達の代で終止符を打つと、ハルトの顔を見上げたまま不敵に笑った。
ミランでの世界一と五輪で日本男子サッカーの金メダル。
それが今の弥一が目指す目標だ。
日本2-0ドイツ
照皇
鳥羽
マン・オブ・ザ・マッチ
鳥羽尚弥
弥一「ドイツといえばソーセージとビール、だけど僕お酒は飲めないからなぁ〜」
勝也「20になっても飲まない方か」
弥一「というかまず、お前大人か? って疑われるから〜」
勝也「確かに、弥一の見た目じゃ……信じられねぇよな。免許証とか必須だ」
弥一「これでも20の子持ちですから〜!」




