ゲルマン魂を揺さぶるサイキッカーDF
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「(相当、ドイツのフィジカルに苦しめられているようだな)」
ベンチで席に座り、腕を組んで静観に徹する康友は試合の状況を分析していく。
「(ソニーザ、クレイラが積極的に上がっているならカウンターでサイドが狙い目だが……向こうのプレスで足止めをされ、思うように攻め込めん)」
視線の先には、カウンターを狙う勝也が光明にパスを送る姿が見えた。
チャンスになりかけるが、前に出てきたアイゼルにボールを弾かれた後、ハルトがキープして再びドイツに守られる。
「(特に10番のハルト……彼が勝也のようにフィールドを縦横無尽に動き回り、攻撃でも守備でも顔を出してくる……)」
両サイドの選手達より、何処にでも現れるハルトが康友には日本の勝利を阻む、大きな壁にしか見えない。
一番に願うのは、動き回る彼のスタミナが空になってくれる事だ。
「(こんな動き回ってんのに、まだ元気じゃねぇか!)」
序盤から動き回って鈍る様子の無いハルトに、勝也は追いかけながらも内心で文句を叫ぶ。
彼をなんとか止められる者が居るとすれば、先程のデュエルでシュートを阻止した弥一ぐらいだろう。
「(あいつ頼りの守備になってたまるか! 今度は俺が止めてやる!)」
この試合の勝利を目指すのは勿論だが、本番の五輪代表を目指してのアピールもあって、何より弟分に頼ってばかりではいられない。
世界にハルトぐらいにレベルの高い選手は何人もいるはず。
此処で何も出来ず、ただ抜かれるだけの引き立て役で終わっては、マイナスアピールになってしまう。
「勝兄貴! 声出して声ー!」
「あ……!」
先走って自分で止める事ばかり考え、弥一に指摘されて気づく。
よく伝わる大声が自慢なのに、黙ってしまっては意味が無いだろうと。
「左! 影山フォローに行け!!」
5万人の大観衆が声を出しても、それに負けじと勝也は大声で指示を出し始めた。
「クレイラのサイド、もう通り難くなったと思う」
ボールがタッチラインを割ってスローインとなった時、ハルトはドイツのチームメイト達へ、右サイドの多用は止めた方がいい事を告げる。
「しかし、向こうの17番には競り勝てて穴だと思うんだけどな……」
「14番も忍び寄って右を固めてきたから」
「え、14番……!?」
ハルトに言われるまで皆が日本の14番こと、影山の存在に気づいていなかった。
「駄目だよ。そんな調子じゃ、僕が頑張っても日本に負けちゃうから」
「分かってるって」
守備陣に気をつけろと伝えてから、ハルトはポジションに戻る。
「(ちっ……急に出て代表に入ったガキが偉そうに……)」
言われた一部の選手は心に不満を抱えながらも、試合へ臨む。
「(おや〜? ゲルマン魂にまさかの綻び発見〜♪)」
彼らの心の乱れが弥一には見えて、日本の流れが来たと密かに怪しく微笑んだ。
『ドイツ、中央からの攻め! 再びハルトが来ている!』
『彼を止めないと不味いですよ日本!』
「ぐっ!?」
ドリブルで進むハルトに勝也は体をぶつけて止めようとするが、急に減速してきてターンで躱されてしまう。
そこに影山は忍び寄っていた。
ヒュッ
「(え……!?)」
気づいた時にはハルトの右足のパスが左側を通過し、全く反応出来ず。
彼にとって影山は光る道筋の一部でしかなく、ボールは光に乗って前線へ運ばれる。
ワントップのFWへ渡ろうとしていた時──。
「おーっと!」
「!?」
パスを受けようとしていたザリッドの前に弥一が飛び込み、インターセプトで光の道を断ち切る。
『神明寺インターセプトぉ! ハルトの速いパスを奪い取った!』
『あのボールを完璧にトラップしてみせるなんて、どんな感覚してるんですか!?』
「(さて、ターゲットは──)」
ボールを春樹に託した後、弥一はドイツの選手達を眺める。
密かな悪巧みが動いているとは知らないまま、日本はパスを繋いでドイツ陣内へ攻め込んでいた。
「(行かせるかアキラ!)」
「っ……!」
右サイドでパスを受けた明に、ソニーザが左から肩で当たりに行き、互いの肩同士が強く激突。
ハードマークに苦しめられ、明はライン際まで追い詰められていく。
やがてボールがタッチラインを割ると、主審はドイツボールと判定を下す。
「ねぇ、ねぇ?」
スローインになってドイツの選手達が準備をしている所へ、弥一が自分のポジションを離れ、シュテルンに近づいた。
小さな選手に気づき、彼がそちらへ向いた時。
「あんなぽっと出の新人に依存しなきゃ勝てないぐらい、ゲルマン魂は堕ちたんだね」
「!?」
弥一の言葉を受けたシュテルンの表情が厳しくなっていく。
「ま、それで勝てるんならプライドをかなぐり捨てて、どうぞ続けてくれて良いよー♪ハルトいないと勝てないからねドイツって?」
「……!」
笑顔で次々と言葉を浴びせた後、弥一は素早くポジションへと走って戻る。
一方、シュテルンはプルプルと体を震わせて憤怒の顔を浮かべた。
「(好き放題に言いやがってクソガキが……!!)」
挑発の言葉を弥一に浴びせられ、このままでは終わらないとDFラインから動き出す。
『ドイツ、マイボールにしてからのスローイン! ソニーザが受けて左サイドを抜く!』
ズィーガンの投げた球を受けると、ソニーザはハルトへパスを送って直後に左サイドをダッシュで駆け上がる。
その前にボールが送られ、ハルトとのワンツーが成立。
「ソニー!!」
「!(何でシュテルンがこのタイミングで……)」
声がすると共に、中央から猛然とシュテルンがオーバーラップしていく姿が見えて、ゴール前へ迫っていた。
味方であるソニーザも予想外だったのか、見かけた時は内心驚いてしまう。
ただ、良い位置に来ていてチャンスだ。
「! おい、中央3番──」
龍尾がコーチングする前に、ソニーザから左足でゴール前のシュテルンにパスが出される。
地を這う速いボールが向かっていた。
「ナイスパース♪」
「!?」
最初から来ると読んでいたかのように、弥一はグラウンダーのパスをカットし、再びドイツの攻撃を断ち切る。
「! ゴール前、気をつけて!」
ハルトが弥一の姿を見ると、彼の顔が悪巧みをしていると感じ取り、この試合で初めて叫ぶ。
それでも弥一を止めるには一歩遅く、既に左足を振り抜いてボールを飛ばした後だ。
この時、ハルトの目は弥一のパスが光る光線のように見えた。
「おおおおっ!?」
スタンドからは、ドイツのゴール前へ一直線に向かうレーザービームに驚きの声が上がる。
『神明寺のロングスルーパス! レーザービームがドイツのゴール前に強襲!!』
『照皇取った!』
シュテルンが上がったままで、照皇は空いた穴へ走ると弥一の蹴ったパスが彼の前に転がっていた。
「オフサイド……!?」
アイゼルがオフサイドだと右手を上げて主張するが、線審の旗は上がらない。
「う……おおおっ!!」
シュートコースを狭めようと、モートンは雄叫びを上げながら前に出てくる。
照皇は飛び出してくるGKに慌てず、右足でシュートを狙い、相手の右を通過して無人のゴールに向かう。
アイゼルのカバーも間に合わず、ドイツのゴールネットが大きく揺れ動く。
先制点に喜ぶ日本選手と想定外の失点に驚くドイツ選手やサポーター。
いずれも弥一の悪巧みによって、生まれた物だった。
弥一「はーい、先制点ナイスー♪さっすが照さん♪」
勝也「しかし……何かお前、色々言ってたよな。何言ってんのかさっぱり分かんなかったけどよ」
弥一「ただの世間話だよー」
光明「明らかに相手怒ってたぞ」
龍尾「100%何か言ったよな」
弥一「ま、相手の虫の居所が悪かったって事で〜♪」




