マイペースな天才は貪欲
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
「真島高校ベスト4、エース鳥羽君も見事な2ゴールおめでとうございます」
「ありがとうございます」
真島の校内にある来客室で鳥羽は取材を受けていた。今日はこの前と違い、女性の記者が来ていると聞いたので、鳥羽は今回乗り気で応じている。
表面はクールを装っているが、内心では大人の女性の取材で喜んでおり、表に出ないように務める。
「此処まで東京を代表する2強として、順当な勝ち上がりですが今年の真島は良い仕上がりですね?」
「まあそうですね。頼れる先輩達が卒業した後に真島弱くなったな、とは言われたくないですから。そこはもう皆一生懸命練習して磨き上げてますよ」
「昨日の強豪北村との試合運びも見事でしたね。やはりその一生懸命の練習による賜物でしょうか?」
「後は実戦経験で身につけたって所ですかね。練習量と試合の場数が真島をより強く成長させて、北村さん相手にも競り勝つ事が出来たんだなと思ってます。向こうの粘りある守備でチャンスが中々無くて苦労しましたよ」
女性記者の質問に鳥羽は上機嫌で答えていく。準決勝に上がり、ゴールを決めた喜びと思われそうだが、彼は女性との会話が楽しいだけだ。
本当は北村の選手達がオーバーワークの練習をしてくれて、動きが鈍めだったからと思っているが、それを此処で言わずに鳥羽は北村の健闘についても言葉にする。
「それで準決勝の相手……インターハイの全国を懸けた試合は、新鋭と噂される立見となりますが相手の印象は?」
「立見さん凄いですよね。創部から数年ぐらいで全国に迫るって、ドラマや漫画みたいでビックリしてます。しかも支部予選から8試合連続無失点なんて、激戦の東京予選で中々無いですよ。それに1年の歳児君も8試合連続ゴールで、昨日はハットトリック。いやー……同じストライカーの身としては羨ましい活躍で、あやかりたいぐらいかな」
鳥羽は笑って立見が凄いというのを語ると、笑みを消して真顔になっていた。
「でも、勝たせません。全国に行くのは真島で立見を倒し、彼らの快進撃と無失点記録を此処で終わらせます」
勝つのは真島だと、ハッキリ言い切る。全国が目前なのは立見だけではない。真島も同じで当然、間近にして負ける気など全く無い。
鳥羽だけでなく真島のチーム全員がその気持ちで、チームを代表して彼は勝利を宣言する。
「準決勝。ご自身のゴールで立見に勝つ、という事でしょうか?」
「出来ればそうですね。無失点記録を持つ程、守りが自慢のチームからゴールを決めるの大好きで、そういう相手から奪ったゴールで咲く華って綺麗なんですよね」
室内にある花瓶に入った赤い花を見つめながら、鳥羽は不敵に笑うのだった。
◇ ◇ ◇
「あ~授業終わった~」
放課後を迎えた立見。教室の席でうーん、と身体を伸ばす弥一。彼はまた寝そうになっていたが、これをなんとか凌ぐ。何やら赤点を取りそうな雰囲気はあるが、彼はギリギリで回避出来ていた。
それも何処まで持つのかと、後ろの席で見てた摩央は弥一へ声をかける。
「今日取材だろ放課後、のんびりしてていいのか?」
「ん? ……あ、そうだった。行かないとー」
摩央に言われて少し間が空いた後に、弥一は今日何があるのかをようやく思い出す。昼食で購買の目玉の絶品メロンパンを買って食べられた幸せで、取材の予定という記憶が消えかかっていた。
その記憶を呼び覚ますと、弥一は取材が行われる場所へ向かう。
「(あいつ、ちゃんと答えられるのかよ……能天気にとんでもない事言わなきゃいいけど)」
弥一の背を何処か不安そうに摩央は見送ると、スマホで報告を送信した。
「あれ? 優也もいるー」
立見の来客室を用意され、そこで取材を行うという事になっている。弥一は室内をノックして開けると、そこに優也が記者と向かい合う形で席に座っている姿が見えた。
「……俺と弥一、二人に取材だっていうの聞いただろ」
「え? あ、忘れてた~」
呆れたように優也は溜息をつきながら、改めて説明すれば弥一はそうだったと思い出す。
「えーと、それでは神明寺弥一君。歳児優也君。取材を始めて大丈夫ですか?」
「はーい」
「はい」
記者は女性記者、真島の方で鳥羽に取材した人物だ。午前は真島、午後は立見とそれぞれ2校への取材となっていた。
「まず支部予選から参加にも関わらず、此処まで8試合連続無失点。今大会No.1のインターセプト率を誇る神明寺弥一君。立見の守備は絶好調ですね」
「僕だけじゃなく間宮先輩や田村先輩達と、頼れるDF陣が上手く守ってくれてますからー。僕はたまたま読みが当たりまくりなだけですよー」
偶然のインターセプトと謙遜する弥一だが大嘘である。本当は全部、前もって心を読んで分かっての結果だ。
かと言って心が読める、超能力のおかげ、などと言っても信じられる訳が無い。弥一もそれを分かって、取材では先輩達のおかげと語っておく。
「まだ1年、しかも小柄な身長。そのハンデを感じさせない見事な活躍。神明寺君の強さの秘訣はなんでしょうか?」
「うーん……あえて言うなら、中学時代の3年間イタリアで過ごした経験ですかね。向こうで本場のカルチョを速い段階で味わってそれが強く成長させた、かな?」
「なるほど、イタリアに3年間。中学3年間という事は小学校を卒業後すぐイタリア?」
「そうですよー」
これに女性記者は興味深そうにメモを取った。強さの秘訣を問われれば色々あるが、弥一はイタリアの3年間の経験と答える。
実際に向こうで多くの色々なプレーヤーと渡り歩き、知り合う事が出来た。国内では経験出来ない海外でのサッカーが、間違いなく弥一を大きくスキルアップさせてくれた事だろう。
「歳児優也君。脅威の8試合連続ゴールに、昨日は音村学院戦でハットトリックの大活躍。次に対戦する真島高校の鳥羽君を抑えて東京予選の得点王も見え、此処までのご自身の活躍をどう評価します?」
「周囲の良いサポートのおかげで良い仕事が出来てると思ってます」
「次の鳥羽君とはストライカー対決と注目されていますが、それについては?」
「特に意識はしてないです」
「えー、と……9試合連続ゴールにも拘りは無いという事で?」
「自分のゴールよりチームの勝利が最優先ですから。チャンスあったら勿論ゴールは狙います」
取材に対しても優也は冷静で言葉少なめに答えて行き、少し取材泣かせな所がある。
8試合連続ゴール中の優也だが、自身の得点や得点王は特に意識はしていない。それよりも立見の勝利が最優先と、そう自分では考えていた。
途中出場の後半10分程で彼は縦横無尽に攻撃だけでなく、献身的に守備も行って動き回り、立見の無失点は彼の前線での働きもあって支えられている。
「神明寺君の方は次で9試合連続無失点がかかりますが、それについては?」
「そうですねー。まあ相手に得点与えなければ負ける事は無いと思ってますし、それに……」
「10試合連続の完封勝利も狙ってますから」
呑気に笑いながら弥一は大胆にも、真島の先に居る相手に対しても勝つつもりでいる。東京代表を勝ち取るだけでは満足しない。
更にその先にある東京予選の優勝。10試合連続無失点を達成して、立見が新たな東京の王者として君臨する。
これが記事となり、真島は鳥羽による「立見の無失点記録に終止符を打ち、フィールドに華麗なゴールの華を咲かせる」
それに対して立見は弥一による「真島より先の10試合連続無失点も狙い、東京王者を目指す」
優也については冷静にゴールを狙うクールなスナイパー、と紹介されている。
「お前、勝手にああいうの言って大丈夫か?」
「何がー?」
取材が終わり、学校の長い廊下を二人で歩いていると、優也は先程の取材について弥一へ言おうとしていた。
「……いや、やっぱいい。お前が言うのは今に始まった事じゃないと今気付いた」
「そう? というか優也あんま喋らなかったねー。記者のお姉さん困った顔してたよー」
「そう言われても他に喋るような事が特に見つからなかった。ああいう取材は初めてだったし」
優也は弥一に勝手に真島の先を見据えた事について、言おうとしていたが言葉は引っ込める。
既に全国を見据えている弥一だ。彼のああいう所は何時もの事だと、優也もこの数ヶ月の付き合いで分かってきた。
思えば彼とはサッカー部で初のミニゲーム、共に1年チームとして先輩のチームに連勝して、強烈なインパクトを残す。
あの時も弥一が守り、優也が決めるという形で、それは今の予選の立見と似ている。
「お前が言った事、記事になるぞ。10試合連続無失点、達成出来なきゃハッタリのビッグマウスで終わる」
「そうだねー」
弥一は優也の言葉に対して呑気に返す。
「けど達成すれば誰も文句無いよね。真島も、その先の相手も全部叩き潰せば」
まるでプロの勝負師のような不敵な笑みを見せる弥一。時々見せるこういう面は決まってサッカーの真剣勝負が関わる時だ。
彼は先の相手も全部と言う、言葉の意味に優也は気付く。
東京王者だけではなく、更にその先。
全国大会優勝、高校サッカー界の王者。その椅子も狙っているという事に。
弥一は何処までも貪欲だった。
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