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サイコフットボール ~天才サッカー少年は心が読めるサイキッカーだった!~  作者: イーグル
第5章 東京代表との戦い

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初めての領域へ

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

 何がどうなっている。



 音村学院のキャプテンを務める島坂康夫の内心は、混乱に陥ってしまう。




 1970年代の高度なトータルフットボールを目指し、そのスタイルを音村は追求してきた。



 それで成績を伸ばし、いずれは東京代表で最も強い高校として輝く。それだけの力を自分達は持っていると自負している。



 相手は音村相手に一度も勝てていない立見。軽く勝って準決勝に備えるつもりだった。




 現にこの試合もボールを支配していて攻撃に向かうが、肝心のフィニッシュまで持っていけない。




 大事な所で大抵小さなDFにカットされているせいだ。




 そして途中から、攻撃チャンスが思うように回って来なくなってしまう。





「よーし、回してけ」



 成海が声掛けを行い、ボールを取った立見は1点取って以降、あまり積極的に攻めずパスを回していく。立見がこれによって長くキープして、攻撃に時間を費やすばかりだ。



 負けている音村の方は攻撃しなければならないので、積極的に取りに行こうと動く。



 武蔵が左コーナーまで行ってボールをキープし、それを音村が2人がかりで奪いに行く。タッチラインを割ると、武蔵はマイボールをアピールするも音村と審判が判定。




 再び人数をかけて攻撃へ動き出す音村の選手達。パスを回していき、エースの島坂に渡ると此処でまたしても個人技で突破を狙う。



 シザースから川田の股の間を通すパスでボールは通過し、音村FWがパスを受け取る。





「おっとー」



 事は無かった。



 FWに来ると分かってて、弥一はパスコースに飛び込むと左足で受け止めた後、すかさずマークの薄い影山へパス。成海には既に厳しいマークがついている事は分かっているので、そこには出さず確実に繋がる方へ送っていた。




「(くっそぉ! 何でだ!?)」



 時間が経つと島坂は徐々に苛立ちを見せてくる。自慢の攻撃力が発揮出来ず、此処まで1ゴールどころか枠内のシュートも無い。1本ロングシュートを撃つ事は出来たがコントロールが出来ず、ゴールマウスを捉える事無く落ち着いて大門が見送った。





 守備で活躍しているのは弥一だけではない。間宮、田村達が的確な守備を見せてクロスボールを簡単に上げさせなかったり、苦し紛れのクロスもヘディングで跳ね返す。



 セカンドボールを高い確率で影山が拾って繋いだり、クリアしてくれているのも非常に大きい。




 ボールを立見が持つと積極的な攻めは見せず、音村を焦らすようにパスを回す。積極的に追いかける音村から逃げる狙いが伺えた。




「(この、攻めて来ないのかよ!カウンター出来ないだろ!)」



 音村DFは焦らすような立見のサッカーに、リードされている事もあって苛立つ。業を煮やしたか、ゴール前から動くとボールを取りに向かう。




「うわ!?」



 成海が相手DFに倒され、審判の笛が鳴って音村のファールと判定。




 立見にとってはゴールから25m程の良い位置でのFK。ほぼゴール正面で音村は前半終了間際にピンチを迎えている。



 此処での追加点は大きく、音村の方は絶対に失点を避けたい所だろう。




 音村のキーパーが壁となる選手へ指示を飛ばすと、その前に立つのは成海、豪山、影山。3人の内の誰が撃つのか。



 迷わせる作戦か、音村の方は十中八九成海が撃つだろうと思ってる。コントロール、シュート力を思えば今回は彼だ。似た距離からのFKを決めた所も見ている。



 成海はボールの前に居て、影山と豪山が助走を取っていた。



 これは豪山のパワーシュートかと、新たな選択肢が音村の方に出てくる。成海が軽く蹴り出して、豪山の撃つ場面が頭に浮かぶ。




「隙間作るな、ピッタリ寄せろ!」



 隙間が出来てると音村キーパーから指摘があって、壁の隙間を修正。僅かな間を通されるのは避けたいと必死だ。




 審判の笛が吹かれると、立見のFKが開始。




 成海がボールを軽く右足で触り、豪山が走り込んで迫る。




「(豪山か!)」



 影山は走ってなくて、今走っているのは豪山。キーパーの視点から見て、彼が撃って来ると身構える。壁も威力のあるパワーシュートに覚悟を決めていた。




 そこに予想外の事が起きる。




 成海が助走せず、そのまま左足で撃ったのだ。



「!?」



 豪山は事前にストップし、彼の走りはただのフリ。本命は最初から成海、音村は豪山の動きに釣られ成海は意識から外れてしまっていた。



 左足の成海のキックは壁を超えて、巻くようにゴール右へ飛ぶ。助走が無い分、あまりシュートの勢いは無いものの意表を突かれる。反応の遅れたキーパーは飛びつき、左手をなんとか当ててゴールを阻止。



 だが、跳ね返ったボールがDFに当たって、一度は弾いた球が再びゴールへ向かう。




 DFが掻き出そうとするも既に遅かった。ゴールマウスへ吸い込まれていき、立見は相手の跳ね返った球によって追加点が入る。キャプテンの成海に立見イレブンが集まれば共に喜び、立見応援団は大盛り上がりだ。



 記録は成海のゴールではなく音村のオウンゴールとなるが、どちらにしろ大きな1点に変わりは無い。



 此処で前半終了の笛が吹かれ2-0。







 試合前から立見は決めていた事がある。




 振り返る事試合前のロッカールーム。




「改めて確認するぞ、この試合は前半攻めない」



 成海はホワイトボードに作戦内容を書いていく。難敵に向けて此処は何時も通りではなく、彼らへの対策を今回実行するつもりで、彼らに敗れた時から考えられた物だ。



「音村のトータルフットボールは強力。全員攻撃に全員守備を彼らなりに現代風へアレンジし、実行している。それがスコアにもハッキリ出ているのは事実」



 京子は淡々と音村のサッカーについて語り、スマホでこれまでの音村のスコアを確認。相手を大差で下して、この準々決勝まで勝ち上がって来ている彼らの攻撃サッカー。それが躍動した結果だ。





「向こうは攻撃的に出て来る。そして守備も全員。それぞれがフリーランニングで走り回る。だったらそれを利用させてもらうまで」




 作戦は決まり、守備でも弥一はDF陣を呼んで話していた。




「音村って実は言う程、複雑なサッカーしてないんですよねー」



「どういう事だよ?」



「ほら、これ」



 弥一はスマホで間宮達へ画像を見せた。そこには攻め上がる音村の選手達。知らない者からすれば人数をかけた迫力ある攻撃だ。




「中盤の巧い人がボールに触る機会が多く、その人を中心に2、3人でパス回し。後は大半がデコイ(囮)、フィールドの中じゃ相手多くて人数に惑わされてますけど」



 動画では音村のキャプテン島坂と、他の巧い有力選手二人の3人でボールを回して、他は動きで相手をかく乱させている。人数をかけた攻撃も実はボールに触る人物、人数は前もって決まっていた。後は囮として翻弄する役だ。



「しかしなぁ、動画通りにうちではやってくれないんじゃね?」



 動画の試合がそうでも、当日の立見も来るのかと田村は疑う。この試合だけ行われ、そのプランが立見戦ではガラリと変える可能性も当然あるはずだ。




「やって来ると思いますよ。この島坂って人、見る限りかなり目立ちだかりなんで」



 弥一が見ているスマホには、ゴールを決めてポーズを決める島坂の姿が映る。










「くっそが!」



 相手のロッカールームで、そんな対策が前もってされていたとは知らない、島坂は苛立ったまま座った。



「落ち着け島坂! キャプテンのお前が動揺してどうする」



「……すみません」



 音村の監督から態度を注意され、島坂は小さく謝罪する。そして自分を落ち着かせようと深呼吸。




「相手のペースに飲まれるな。立見は堅い守りだが、右サイドからの攻撃に弱い所がある。後半はそこを徹底して突いていくんだ。音村のサッカーは強い! 自信を持て!」



「はい!」



 監督の言葉、指示に音村イレブンは揃って返事をすれば後半戦で逆転を目指す。












 作戦通り、後半開始から音村は右サイドから攻めに行く。左には田村、更に近い位置に間宮も居るので守備は右の方が甘い。その狙いで右のサイドアタックを中心に攻撃を切り替えた。




「7番囲んで囲んでー!」



 弥一のコーチングで立見は二人がかりで音村の7番を囲み、これにパスのターゲットを探す選手の足が止まる。



 そこを逃さず影山が死角から詰めて、ボールを奪えば蹴り出してクリア。




 更にしつこく右から攻め、立見のゴール前へ高いクロスが上がる。これを大門が「任せろ!」と味方へ伝えてから飛び出すとクロスボールをキャッチ。



 彼の長い手と跳躍力が逃さなかった。





「くっ……!」



 島坂は息が乱れていた。彼だけではなく、他の選手もスタミナを消耗している。





「(フリーランニングのツケがやっと来たね。足重そうだ)」



 後ろから見ていた弥一は動きが全体的に重そうな音村の面々に、前半から行ってきた事がやっと効いてきたなと分かった。




 音村のトータルフットボールやフリーランニングによる全員攻撃、全員守備は強力だが、その分スタミナの消耗も激しい物となる。



 更にこの試合に関しては攻撃が前半から決まらず、得点が動かなくてリードも許している。その精神的な負荷もあって、通常よりも凄まじい疲労が音村の選手達に襲いかかっている事だろう。




 彼らのサッカーを打ち崩す為に立見がやってきたのはロンド、またの名を鳥かごだ。



 ボールを複数人で回し、相手の守備を動かし走らせる。途中で取られても守り、再び攻撃の時にしつこく実行。徹底してフリーランニングの音村を走らせ、前半からスタミナを使わせる攻めないサッカーを続けた。



 開始早々は巧い具合にカウンターのチャンスが転がり込み、これに弥一が動き出して、先制点が取れたのは正直立見にとって嬉しい誤算だ。




 後半25分に彼らの動きに鈍りが見えてきた所に、音村が動き出すと同時に立見も動く。



 音村は疲労した二人を一気に変えたのに対し、立見は此処で優也を投入。




 そして彼はいきなり仕事をする。



 攻勢に此処で出る立見は影山、武蔵とボールを素早く繋ぐと武蔵は音村DFの空いたスペースを見つけて、相手の頭上を越すように左足でパス。



 ボールが切れそうなスピードで厳しいパスだが、彼には丁度良かった。



 優也がトップスピードに乗って追いかけ、音村DFも後を追う。




 先に追いついた優也は此処で左からエリア内へ侵入し、キーパーは飛び出しが遅れていた。




 優也は右足を一閃。




 音村キーパーの右肩を抜け、ボールはゴールネットを揺らす。





 3-0



 交代から僅か1分で優也は武蔵からのアシストを決めて、連続ゴール記録をまたしても更新。




 スタンドからは「優也! 優也! 優也!」と彼の名前がコールされる。




 弥一と違って優也は派手には喜ばず、右手を握り締めて確かな手応えを彼は掴む。






 8分後、交代した音村の選手だが、チーム全体に特に影響は与えられず劣勢は続く。



 田村がゴール前に低いクロスを上げて、そこに優也が飛び込んで足を伸ばす。



 伸ばした足がボールへ当たり、コースは変わってゴールへ転がると追加点が生まれた。




 4-0で優也はこの日2点目と益々上がる立見応援団のボルテージ。対する音村はほぼ勝ち目が無くなってしまう。




 そして後半終了間際。




 ピィーーー



 武蔵のクロスを阻止したDFだが、手に当たってハンドの反則を取られる。



 そして阻止した位置がエリア内と、PKのチャンスが立見に与えられた。




 キッカーは今日2点の優也にそのまま任される。これを決めれば3点目、ハットトリックだ。




 それに対する拘りは無いのか、優也は冷静そのもの。プレッシャーのあるPKも落ち着いて蹴り、厳しいコースに蹴り込まれた音村キーパーは一歩も動けない。




 このPKを決めて5-0。




 優也は後半途中出場で3点のハットトリック。立見にとって難敵と言われる音村にダメ押しの得点が決まり、これで完全決着となる。






 主審の笛が鳴って試合は終了。



 立見はこれで8試合連続無失点、優也は8試合連続ゴール。更にこの試合ハットトリックと大活躍だ。






「畜生……!」



 完敗した音村の島坂。毎回味わっている立見の気持ちを今度は自分が味わう番となってしまう。



 格下と侮ったのもあるかもしれないが、それ以上に今年の立見は強かった。此処まで大差で負けるなど桜王相手でも無かったはずだ。



「お前まだ終わりじゃないだろ。3年最後の大会……選手権でリベンジだ」



「……うっす」



 音村の監督にポンと頭を叩かれ、涙をぬぐい立ち上がる島坂。此処からすぐ選手権への戦いが彼らの中では始まる。今まで立見が追いかけていたが、今度は音村が追いかける番となった。






 初のベスト4進出に喜ぶ立見イレブン。次の準決勝、東京代表決定戦に勝てればインターハイと、全国への道が開かれる。




 今は部が設立されてから初めて足を踏み入れる事が出来た領域。その勝利をもう少し味わっても罰は当たらないだろう。




 立見5-0音村



 神明寺1


 オウンゴール1


 歳児3

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