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難敵と奇襲の一撃

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

 インターハイ東京予選も準々決勝まで来て、立見は去年の選手権に並ぶベスト8を確定させていた。



 新設校として強豪校に混じり、勝ち上がれたのはまさに快進撃。激戦の東京予選に旋風を巻き起こしたと言っていいだろう。




 だがそれに満足など決してしない。かつて勝也が作り上げた立見サッカーはそこがゴールではない。



 これからの立見は壁を乗り越える戦いとなってくる。立ちはだかる相手も益々強敵となって楽な試合など一つも無いはず、激戦区と言われる東京予選はそこまで甘くは無い。




「そこ!チェック甘いぞ!展開もっと速く!」



 試合の2日前、選手の動きを見ていた成海は指摘を次々としていく。何処かピリッとした感じになっていた。



「らぁ!」



 それはフィールドで競り合ってる豪山も同じだった。マークを蹴散らしてヘディングで合わせるも、タイミング合わずボールは枠に行かない。




「キャプテン達、何かピリピリしてるな」



「やっぱ相手が相手だからなぁ」



 2年の部員二人はキャプテンと副キャプテンの両者が、次の相手を意識しているせいか何時もと雰囲気が違う。その事をヒソヒソと話していた。



「先輩達、次の相手キャプテン達と因縁でもあるんですかー?」



「うお!?何時の間に!」



 2年部員の前に何時の間にか弥一が立っていた。フィールドといい何処までも神出鬼没なチビだなと、ビックリしつつ弥一を見下ろす。



「知らないのか?立見の次の相手、音村学院ってのは過去に2度立見が負けてる相手だ」




 音村学院



 此処数年で急速に力を付けてきた新鋭校で、今年はシード校に昇格して支部予選を免除されている。



 全員攻撃、全員守備のサッカースタイルでオランダのトータルフットボールを思わせるスタイルだ。




 2次トーナメント1回戦、2回戦を戦い8-1、6-0と大差で相手を下して優勝候補の桜王、真島を止めるのではと噂される。立見は過去に彼らの前に敗れていて、新たな領域まで行くには、この壁を超えなければならない。




「へえ~」



 弥一はスマホで音村学院の試合を見ていた。



 全員が走り、ポジションに縛られないフリーランニングを展開する。積極的にボールを持つ相手へ数人でプレスに行き、奪った途端に全員上がり攻撃へと出る。



 相手からすれば人数をかけての攻撃と守備、前もって分かっていようが実際に見て体感では全く違うだろう。




 彼らのサッカーの前に立見は二度の敗北を味わい壁を破れずにいる。



 過去の成海、豪山、そして勝也が越えられなかった壁。そこに今回は弥一達が挑もうとしていた。






「おい、智春。音村を意識し過ぎて力入ってるぞ」



「ああ、でもお前も今日ピリピリしてるけどな」



「……」



 互いに指摘し合う成海と豪山。休憩時間に給水する二人の間に沈黙が支配。明後日の相手は立見が敗れ続けた音村学院。


 意識するなという方が無理なのかもしれない。




 誰も入れない二人の空間、だがそこに平然と入ってくる存在があった。




「大丈夫ですよキャプテン達ー」




 何時ものマイペースな笑みで弥一は成海、豪山へと話しかけて行く。




「明後日で音村の連勝は消えますから」




「!」




 マイペースな口調から、ハッキリとした言葉で弥一は言い切る。音村の連勝が消える。つまり立見の勝ちだと。




「ね、だから何時も通り行きましょうよー。全体の士気に関わりますしー」



 大事な準々決勝を前に成海や豪山と違い、弥一は何時も通りだ。難敵である音村に対して勝つと言い切る何時ものビッグマウスを聞くと、成海と豪山は落ち着きを取り戻す。




「……ふう、悪い。お前の言う通りピリついてたな、変に相手を意識し過ぎたのは俺の方か」



「何時も通りが一番だな結局。っし、仕切り直しだ。休憩終わり、行くぞー!」




 弥一を見ていたら、彼の言葉を聞いたら安心してリラックス出来る。音村の連勝が止まるというのも、大半の者が聞けばただのハッタリに聞こえるかもしれない。



 だが不思議とそうは聞こえなかった。ひょっとしたら本当に止めるのではと。言葉に魔法でもかけたかのように、そう思えてしまう。








「トータルフットボールは1970年代に生まれてオランダが使っていた。ポジションに縛られず全員で攻撃、守備と動き回って高い技術とスタミナと戦術眼が求められる。そんな昔流行ったのを今、音村学院が使ってるのか」



 何時も通りスマホで情報をチェックする摩央。隣で弥一も同じようにスマホを操作している。トータルフットボールとは何かについて摩央は調べており、とりあえず主な特徴は理解出来た。



「別に珍しくないよね。トータルフットボールに憧れて各校がそのスタイルを追求してるみたいで実戦で使う強豪校も居るみたいだし」



 ドリンクを飲み、喉の渇きを潤す武蔵。6月ともなれば蒸し暑さを感じ、暑さも敵となる。こまめな水分補給は非常に重要であり立見サッカー部は積極的に行っていた。




「うわ、この試合音村5、6人ぐらい相手のエリア内入り込んでる。これ凄ぇなぁ」



 音村の試合をスマホで見た摩央。前の試合ので音村は相手エリアへ人数かけて攻め込んでおり、相手守備陣を揺さぶってFWが最終的に右足一閃でゴールネットを揺らしていた。



 まさに全員サッカーで音村はそれを実行している。




「キャプテンの3年OMFの島坂康夫しまさか やすおが中心で去年は桜王相手に1ゴールを決めてる……」



 更に調べると黒髪の真ん中分け、身長172cmの攻撃的MFに位置する背番号14島坂が音村の要で攻守を支え、東京王者の桜王から得点を決めている強者だと分かった。







 この日の練習は終わり、スタメンが発表。翌日は何時も通り完全休養をとって試合に備える。





 準々決勝の日を迎え、両選手が会場へと集結。ベスト8まで来れば応援の規模は大きくなり、特に立見は創立から初のベスト4がかかっているので応援にも熱が入る。




 フィールドには成海、島坂と両キャプテンがコイントスを行い先攻は立見が取った。



「此処まで快進撃ご苦労さん、立見はまた此処で終わりだ」



「……!」



 成海の耳元で島坂が囁いた。



 島坂は過去に立見と対戦した時いずれも試合に出場。彼自身ゴールを決めており、今回も立見に負けるとは微塵も思っていないようだ。



 此処は通過点に過ぎない、先に居るであろう真島と桜王しか眼中に無い。立見はその為の踏み台だと言わんばかりである。




「3度目の正直って言うだろ」



「2度ある事は3度ある、ていうの知ってるよなぁ?」



 成海が言い返すのに対して島坂は見下すように笑う。明らかに彼は立見を下に見ている。2度負かしたという実績か元々の性格か知らないが。



 成海が先に引き返すと島坂も鼻で笑って引き返す。







「立見が此処まで無失点なのはまぐれとラッキーだ、速攻で失点させて化けの皮剥いで慌てさせ、かく乱させるぞ。歳児って野郎が出て来る前に大量得点で勝負つける」



 円陣を組んだ音村。キャプテンの島坂が声をかけていき、最後に全員で声を揃えてフィールドへとそれぞれ位置につく。






「勝つぞ!立見GO!」



「「イエー!!」」



 立見の方も円陣を組み、何時もの儀式を済ませてからフィールドにそれぞれが散る。








 ピィーーー




 準決勝の切符を賭けた試合が今開始され、キックオフから成海を中心に速いパス回しで展開する立見。



 そこに音村の選手数人がプレスに向かい、成海はすかさず左へパス。



 鈴木が受けるとドリブルで上がろうとするが、鈴木にも二人がかりの音村の守備。鈴木はこれをキープ出来ずボールを奪われる。




 その瞬間に音村は一斉に攻撃へと転じて攻め上がり、立見のゴールへ向かう。得意の全員守備からの全員攻撃、ポジションに縛られないフリーランニングだ。




「おーし攻めろ攻めろ!」



 島坂の掛け声と共に音村のパス回し。島坂の巧みなボールさばきを織り交ぜ、立見を翻弄する。攻めていた立見からボールを奪い、カウンターで一気に攻めてゴールを奪いに音村は動き出す。




 音村が人数をかけてエリア内へ侵入しようとしている。




「ヤバい!」



 これに摩央は思わず立ち上がり声を発した。




 そして再びボールを島坂へと折り返して行く。










「ナイスパース♪」



「!?」



 だが、音村のパスは通らず。此処で島坂に来ると読んでいたのか、弥一は島坂に渡る前にエリア内へ侵入される前にボールをインターセプト。



 予想外の事に音村の面々は驚いたのか、一瞬足が止まる。今のをまさか読まれるのかと。




 弥一はその隙を見逃さず、密集地帯をドリブルで抜け出して行く。




「あのチビ!寄せろ!」



 今から島坂では距離としては追いつかない。味方にプレスの指示を送る。




 すると弥一は素早く成海へとパス。その弥一に音村の一人がそのまま寄せに行く。






 フッ




「(え!?き、消えた!?)」



 弥一へと寄せに行っていた選手。彼から見て弥一がいきなり姿を消した、そう見えてしまい驚く。



 だが実際は消えていない。小柄な身体を生かし、他の選手をブラインドにして死角を作っただけだ。




「(成海!?)豪山マークだ!」



 DFの一人が成海のボールに対して豪山に来ると読んで、コーチングにより豪山を見失わないようにする。成海から左足によるパスが出され、豪山が走りDFも追う。




 パスが長く豪山は追いつけない、DFはミスかと思った。




 しかし豪山の走りはDFを引き付けるただの囮、成海の本命は違う。




 リベロの弥一が前線まで上がり、DFの裏スペースを走っていた。




「っ!?」



 これに音村キーパーが飛び出すも、弥一はその瞬間にチップキック。ゴールバーを超えるのではないかと思う程の絶妙なループで、キーパーは反転して追いかけるも到底間に合わず。



 ゴールへとループは吸い込まれるように入り、先制点が決まった瞬間に歓声が沸き起こる。




「イエー!やったーー♪」



 DFの弥一はこれが今大会初ゴール。それも難敵の音村相手に先制という、かなり価値の大きなゴールだ。




「うおおー!神明寺決めたー!」



「コールコール!あ、でも神明寺は長くて言いづらいな」



「じゃあ弥一っしょ!」






「弥一!弥一!弥一!」




 応援席からの弥一コール。仲間に祝福されながら弥一はダブルピースで応える。




 音村が開始から立見のボールを奪いカウンターに出たが、更に弥一がそれを奪いカウンター返し、奇襲をかけた音村から先制点。



 序盤から音村のトータルフットボールの出鼻をくじかせていた。

宜しければ、下にあるブックマークや☆☆☆☆☆による応援をくれると更なるモチベになって嬉しいです。


サイコフットボールの応援、ご贔屓宜しくお願いします。

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