それぞれの高校の試合翌日
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
インターハイ東京予選も準々決勝まで進み、此処まで来ると強豪校の面々が順当に勝ち上がっていた。
桜王が8-0と大差で下し、先制されたが試合をひっくり返した真島が4-1と逆転勝利を収め、東京予選の優勝候補2校も磐石。
更に北村高校も強豪同士の接戦を1-0で競り勝ち、準々決勝に真島と試合をする事が決まる。
実力ある強豪校が勝ち残る中で、注目されるのは新鋭の立見高校。
守備では7試合連続無失点。攻撃では途中出場の優也による7試合連続ゴールと、攻守で目が離せない記録を作っていた。
去年の選手権予選では準々決勝で敗退している立見だが、今年は勢いが違う。今回は行けるのではないかと、期待を寄せる声も日に日に多くなる。
「鳥羽君、見事な逆転勝利! そしてハットトリックでしたねー」
「いや~、まぁ良いボール来て蹴りやすい態勢でしたんで。パス出してくれるチームメイトには感謝ですよ。そうじゃなきゃ逆転ゴールもハットトリックも無理でしたから」
真島高校。その校内の一室でエースの鳥羽へと取材が来て、彼はそれに応じていた。何度も経験しているせいか緊張もなく、取材に慣れてる感じだ。
「次は強豪北村との一戦となりますが意気込みの方は?」
「勿論しっかりと勝ってその先も勝利し、全国への切符を逃さず掴んで行きたいと思ってます」
次戦の北村、そして先の試合と全部勝ってインターハイに行くと鳥羽は言い切り、表情は強気そのもの。此処で取材は終わり、鳥羽は退出となった。
「(あ~あ、だり……取材する人が綺麗なお姉さんならまだ良かったけど冴えないおっさん相手じゃなぁ……)」
取材の前では猫を被り、解放されて歩きながら軽く溜息をつく。取材の相手は30代か40代ぐらいの中年腹が目立つ男性で、鳥羽の望むような相手ではなく内心乗り気じゃなかった。
仮病でも使ってやろうかとも考えたが、姿を見られていたので今更誤魔化しは出来ない。それで鳥羽は取材を受けたという訳だ。
「あ、あの? 鳥羽先輩、これから練習なんですけど……!」
真島のサッカー部員1年が鳥羽の姿を見つけて声をかける。部員がこれから練習を行うので練習着に対して、鳥羽は黒いブレザーの制服姿だった。
「あー、体調優れないから早退するっつっといて」
「え? え?」
それだけ言うと鳥羽は練習には行かず、早々に正門へ歩いて向かう。その姿に後輩は何も言えず見送るしかない。
「(試合翌日に練習なんぞ効率悪すぎだっての。疲れてんのにやってられるか。女の子と遊んで骨休めの方がよっぽど良い)」
この前日に真島は試合をしていて鳥羽はフル出場。これで翌日に練習はしたくないと拒み、適当に理由をつけて休む。
無論毎回は使えない手なので練習に出る時もあるが、その時は適当に流して早退する。
一度家に戻った鳥羽は制服から白い半袖シャツ、その上に長袖の黒い上着、それに合わせた同色のパンツの私服へ着替え、再び家を出れば地元の繁華街へと向かう。
「えー? その人もうちょっとお洒落してきてほしかったなぁー」
「だろぉ?」
喫茶店で派手な長い巻き髪の茶髪女子と、お茶を楽しむ鳥羽の姿。
相手の女子は半袖の水色シャツに赤いミニスカートと足を大胆に出しており、スタイルが良い。鳥羽と共に居る姿は付き合ってる恋人同士のようだ。
心地良いジャズの音楽が流れる、お洒落な喫茶店は評判の良い所で、SNSでも評価が高い。口コミで知った女子の勧めから、鳥羽は今居る喫茶店でコーヒーを飲む流れとなったのだ。
スマホに連絡が入り、その女子から遊びの誘いが来ると返事にすぐ答え、こうして試合の疲れを女子との遊びで癒す。
それが鳥羽という男子の日課。
「ショウちゃんこの試合凄い活躍じゃん。逆転勝利だよ♪」
女子はスマホで真島の試合を見ていた。画面には鳥羽が味方からの低いクロスを得意のボレーで合わせ、ゴールに叩き込んで2点目の逆転ゴールを決めている映像が流れる。
「開始早々気が抜けてやがったのか、DFのミスで失点の尻拭いをしてやっただけよ。それさえなきゃ完封と完璧だったんだ」
取材では言わなかった、味方DFに対する愚痴を鳥羽はこぼしていた。攻撃力は高いが守備でやや難がある。それを補う攻撃で真島は数々の勝利を収め、昨年は桜王の要が怪我で欠場してた事もあったが、彼らを倒して選手権の東京代表となった。
「ま、逆転ゴールはそれはそれで見てる側にとっては楽しいだろうし。普段のゴールよりも美しい華となって楽しませられたかな」
「あたしも見てたけど最初負けるんじゃないかって、ちょっとハラハラしてたよー」
「ほら、楽しめてる」
鳥羽と女子は互いに笑い合い、手元のコーヒーやジュースに手を伸ばし飲む。
「でも練習サボって良いの? 大変じゃない?」
「あー、大丈夫大丈夫。むしろ試合後に練習の方が頭おかしいぐらいだからさ。あんな時代遅れのスパルタ、今時流行らねぇっての」
強豪校は大体が厳しい練習の日々で真島も例外ではなく、試合後の翌日も休みは入れず練習となっていた。
そのスタイルに鳥羽は時代遅れだと否定し、真島の一員に居ながら自由奔放を貫き通している。
「ねえショウちゃんカラオケ行こうよカラオケー♪また聴かせてよー!」
「オーケーオーケー、そう焦るなって」
喫茶店を出た二人。鳥羽は女子に引っ張られるとカラオケへ誘われ、これを断らず向かう事が決まると、店を目指して互いに寄り添いながら歩き始める。
「北村ファイ・オー! 北村ファイ・オー!」
そこに男子達の掛け声が聞こえて来て、街中を歩く人々の目はそちらへ注目した。
鳥羽や女子の耳にも届いて二人も見れば、強豪北村高校の面々がランニングをしている姿が見えた。
「あらまぁ、よくやるねぇ」
北村も真島と同じように、前日試合をこなしたばかりのはずだ。それに関係なく、翌日に休養へ入らずに練習を行っている。
鳥羽の呟きが聞こえたのか、北村の一人が鳥羽の姿に気付くと視線を真っ直ぐ向けていた。
「お前、鳥羽……余裕だな。デートかよ?」
「まあご名答。そっちは熱心だねぇ? わざわざ試合翌日に此処まで走り込みとは。そちらの努力には脱帽するよ」
鳥羽はデート中とアピールするかのように、女子の肩を抱き寄せる。
「ちっ! お前、その鼻っ柱を今に叩き折ってやるからな。せいぜい遊んでだらけてりゃいいさ」
「心外だなぁ、別に四六時中遊んでるって訳じゃねぇから。俺は俺で効率的にトレーニングやってるし、休める時は休む方が良いさ。あ、別にあんたらのスタイルや努力否定してる訳じゃないんで。そこ誤解しないようにな」
二人の寄り添う姿に男として嫉妬が入り混じってか、吐き捨てるように言って北村の一人は鳥羽を睨んだ。それに対して涼しい顔で受け流し、自らのスタイルを鳥羽は崩さない。
これが俺の美学だとばかりに。
「行かなくていいの? アレあんた待ちじゃね?」
「……」
鳥羽が指差す先には、こちらを見ている他の北村サッカー部のメンバー達。それぞれが足を止めており、彼を待っているように見える。
彼は走ってメンバーの方へ合流し、再び走り込みを再開する。
「なにあれ? 感じ悪いの」
「気にすんな、たまたま虫の居所が悪かったんだろ。案外、本当は休みたいのに休めない。そのストレスもあったりしてな」
女子は北村高校の態度に怒っている様子で、鳥羽は落ち着くよう言うと再びカラオケ店を目指す。
「キミがあの弥一君なんてね~、おばさんキミのファンだからコロッケ一個サービスしちゃう!」
「わー♪ありがとうございますー♡」
「(んん?)」
鳥羽の耳に聞き覚えのある名が聞こえて思わず立ち止まる。北村高校の面々の傍にある肉屋にて、コロッケを買う見覚えある小柄な少年の姿。私服ではあるが弥一の姿を見間違いはしない。
彼の方も視線に気付き、鳥羽と目が合う。
「あ、鳥羽さん偶然~」
「これは驚きだなチビ君。北村に続いて他校の君とまで此処で会うとはなぁ」
「北村の人達は凄いねー。試合翌日も走り込みなんて、僕とか休みたいから真似出来ないや」
弥一は鳥羽と共に背中が遠くなっていく北村高校を見ながら、買ったコロッケを一つ食べる。揚げたてでサクサクの衣に中身はホクホクのじゃがいも。これが美味しくない訳が無い。
美味そうに食うなぁと、鳥羽はコロッケを食す弥一を見ていた。
「この子あれでしょ? 今評判の立見でちっちゃいDF君。実物の方が結構可愛いじゃーん♪」
女子は高校サッカーを結構見てるようで、立見の弥一を知っている。コロッケを食べる姿が、彼女からすれば可愛くて母性をくすぐるようだ。
「立見さんは休養かい?」
弥一の他に特に部員の姿は見えない。彼が私服という事は、そうなんだろうなと思いながら鳥羽は尋ねる。
「そだよ。うちは試合前日と翌日は練習入れないで完全休養スタイルだから」
「なんだ最高じゃないかそれ。真島も見習ってほしいもんだ」
「真島は違うのー?」
「試合終わった翌日も練習と時代遅れを突き進んでるよ。残念ながらな」
熱そうにコロッケを食しつつ弥一は立見が休養である事を教え、鳥羽は今だけ真島じゃなく、立見の一員になりたくて羨ましいと思った。
「それでチビ君は今日オフで此処に来たって訳か?」
「オフじゃなきゃこういう所来れないからね。此処が美味しいコロッケあるって評判だから食べたかったんだよー♪」
「なるほど、花より団子ってタイプだな」
鳥羽が女子と楽しむ時間をオフで過ごすのに対して、弥一は美味しい食べ物の食べ歩きでオフを楽しむ。同じ休みでも二人の過ごし方は異なっていた。
「じゃ、鳥羽さん。お姉さんとデート中みたいだからお邪魔虫は此処で退散しとくねー♪」
「そんな気使わなくていいのに。ああ、チビ君」
「ん?」
二人がデート中なのは弥一にも見て分かり、早々に退散しようとしている弥一に鳥羽は呼び止める。
「あと一つ、勝って来いよ。個人的に立見との試合は結構楽しみなんだ」
次の準々決勝、これを立見が勝てば準決勝。代表をかけて試合する相手は、このまま行けば鳥羽の居る真島だ。
「僕らは勝つよ勿論。鳥羽さんは大丈夫? 北村高校の皆さん、すっごいやる気で闘争心ギラギラな感じだったし」
弥一は準々決勝を何の迷いも無しで勝つと言い切り、負けるとは微塵も思っていない。それより鳥羽の真島が準々決勝の相手は北村高校となって、勝ち上がれるのかと逆に問う。
弥一が見た限り北村高校は真島を、鳥羽を倒そうという闘志が満ち溢れていた。
「んなもん全国や世界で嫌って程味わってきたよ。今更あれぐらいの気迫に気後れなんざするか」
それだけ言うと鳥羽はじゃな、と後ろを向きながら軽く片手を振る。女子は弥一へ向けて小さく投げキッスを送ってから、鳥羽の元へ合流してカラオケ店を目指す。
試合後の翌日。練習する者や遊ぶ者それぞれで、彼らはこの日に偶然集い、交差していった。
学校によって過ごし方が色々あると知った弥一は、若干冷めてきたコロッケを食べながら街中を歩き、見知らぬ街を楽しむ。
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