東京No.1ストライカーからの挑戦状
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
2回戦へ勝ち上がった立見高校。6試合連続無失点。更に優也の6試合連続ゴールと、他校からのマークも受けるようになる。
その影響か、練習中の立見サッカー部をわざわざ見に来る他校の者も珍しくない。
「今日も来てますね~」
「あれは去年の夏予選ベスト4の北村高校か。この先当たるかもしれないから、わざわざ偵察に来たんだな」
遠くから彩夏が見覚えの無い他校の制服を着た生徒達が、立見サッカー部を見学しているのを発見。スマホで調べれば摩央は彼らが何者なのか分かった。
強くなって上に登る者の宿命と言うべきか、調べられて分析や対策をされる。此処までそんなマークを受けては来なかったが、もう立見も激戦の東京予選において、要注意の1つとして数えられているのだろう。
何より彼らの築き上げた記録がインパクトあって、無視が出来ないのだから。
強豪北村高校の前でも、立見サッカー部は何時も通りの練習を行う。サッカーマシンはこの日はあえて使わない。
「……あれか? 噂のチビDFってのは」
「本当に小せぇな」
北村高校が偵察をすると、その目は軽くボールを蹴る弥一に向けられた。
「騙されんなよ。あれで信じられないぐらいのインターセプト率を誇るんだ。桜王の榊ですらそこまで行ってないってのに」
彼らの間で名前を出したのは、弥一と同じDFで東京王者。桜王の守備の要と言われる榊。
東京随一と言われる榊でも、そこまでのインターセプトが出来るのか分からない。それほどの回数を弥一は重ねている。
相手の巧いドリブルも、鋭い矢のようなパスも弥一の前で沈黙している。1回だけならまぐれだろうとなるが、支部予選の1回戦を除く全試合となれば、流石に相手の油断や奇跡では片付けられなくなってきた。
小柄な見た目で信じられないが、弥一は間違いなく東京で上位に入る巧いDF。そう認識せざるを得ない。
「ねえ君、今日この後って暇? 予定無いなら遊びに行けないかな?」
その時、偵察する彼らの耳にナンパするような声が聞こえてきた。声がする方向を向けばお洒落にセットされたような金髪のショートで、身長は175ぐらいといった所。こちらも他校の制服を着ているが彼は北村の一員ではない。
「えー? それ皆に声かけてない?」
「そんな誰彼構わず声なんかかけたりしないって。君が特別可愛いから、つい声かけちゃってさぁ。芸能界とかに居ても違和感無い女の子がいれば、声かけるのが男としての礼儀ってもんだよ」
「何だ? あの野郎、こっちが真剣に偵察してる時に女をナンパしやがって」
金髪の他校の男子はまんざらじゃない様子の女子から、連絡先をスマホで教えてもらっている。イケメンでナンパ成功してる所を見ると、嫉妬からか北村の偵察の一人がチッと舌打ちして苛立ちを見せていた。
「って、あいつ……!」
「え?」
偵察のもう一人が気付く。あのナンパしていた男が何者なのか。
「あ、あの金髪の人!」
「ん? どした大門?」
弥一が大門の背中を押して柔軟を手伝っていると、前方に映る女子と共に居た金髪の男子の姿に気付く。リアクションを見る限り大門は驚いているが、彼が何者なのか弥一は知らない。
「神明寺君、あの人だよ。真島のエースでUー16日本代表FWに選ばれてる。東京No.1ストライカーの鳥羽尚弥だ」
「へえ~、東京の……」
北村の偵察も当然その存在を知っており、彼の存在が分かると皆が驚く。
鳥羽尚弥。
全国大会にも出ている有名人で、名の知れ渡った名ストライカーだ。
皆が驚く中で弥一は特に驚かず、鳥羽の姿を見ている。
「おーっと聞こえたぜ。そこのでっかいキーパー君よ?」
「え!?」
鳥羽が噂をする方へ歩いていくと弥一、大門の二人は柔軟を中断して、その場から立ち上がる。
「東京No.1じゃない、全国No.1ストライカーだ。そこ間違えんなよ?」
「あ、は……はぁ。すみません」
得意げに鳥羽が大門へ、右手人差し指を向けながら言い切った。
自分こそが日本一のストライカーと、そう言い切る彼の自信は底知れない。だが、それだけの実力を持つ事を大門はテレビで見て知っている。
華麗なテクニックに力強いシュート。更にスピードも速く、選手としての能力は間違いなく東京トップクラスだ。
「全国No.1、て事は鳥羽さんって八重葉学園の照皇誠より強いのー?」
そこにマイペースな弥一の声が鳥羽へ問いかける。全国1を語るなら避けては通れない存在、高校No.1ストライカー照皇より上なのかと。
「当たり前、あの坊主に負けやしねぇよ。照皇を抑えてるから俺も抑えられると思ってんなら、アテが外れたなチビ君」
「あれ? 知ってるの僕の事?」
鳥羽が弥一に対して照皇を抑えたと言うのが聞こえ、あの練習試合の事を知っている様子。特にテレビカメラ等、そういった物は入ってない練習試合だったにも関わらずだ。
「知ってるかい少年達? 女の子の情報網ってのは侮れないもんだ。チビ君が前半だらしねぇ立見イレブンに怒って怒鳴ったのだって聞いてるし」
「あー、あの若気の至りな所まで。お恥ずかしいね~」
情報を知り合いの女子から鳥羽は聞いているようで、彼自身があの場に居なくても練習試合の事は女子を通じて把握する。
「まさかそんな、東京……あ、全国No.1ストライカーの方がわざわざ見に来てくれるなんて」
「そんな驚く事でもないだろ? あの通り北村とか来たり、この前の立見の試合の時とか桜王の奴らもわざわざ見てたらしいし。もう俺らと同じ、お前らもマークされる立場になってんだよ」
恐縮そうな大門の肩を軽く叩いて鳥羽は笑うが、その後に真顔で二人に対して伝える。立見も真島や桜王のように、マークされる存在へ変わっているのだと。
もう彼らはただの新設サッカー部ではない。強豪の一角として数えられている。
「ま、出来る事なら立見には準決勝まで無失点で来てくれる事を願うわ」
「準決勝……と言うと」
「その方が俺ら真島がゴールを奪う時、より凄さが際立ってくれるんでね」
準決勝まで立見が来る事を鳥羽は願っている。順当に勝ち上がれば準決勝の相手は真島。夏のインターハイ東京代表の1校を決める重要な一戦で、東京を代表する強豪と当たる事になる。
そして鳥羽は挑戦状を突きつけていた。
立見の無失点記録を破るのは俺だと、心からもそんな強い想いが弥一には感じ取れる。
「それは……」
「やれるもんならどうぞー? 勝つのはこっちですけど♪」
「!?」
大門が言いかけた時、弥一が遮るかのように明るい声で、鳥羽への返事を返す。
「ほお……言うね。照皇を抑えた上に、此処までの試合を勝って天狗になってるって言うなら、そろそろ此処で鼻へし折られた方が良いんじゃないかチビ君よ?」
「折られる程の長い鼻無いから大丈夫ですよー」
鳥羽に見下ろされる弥一は相変わらずマイペースに笑っていて、その姿勢を崩さない。
そこにボールが流れ、鳥羽の後ろにまで転がって来た。
「あ、すみません。ボールー……」
立見の1年部員が取るようにお願いしようとすると。
トン
鳥羽は後ろを向いたまま踵でボールを蹴り上げると、頭で更に上げた。
落下するタイミングで振り向きざまに、右足でボレーシュートを撃つ。勢いよくシュートはゴールマウスへ正確に向かい、ゴールネットを大きく揺らす。
急に来たボールに対して高度なテクニック。更に華麗で正確無比なコントロールボレーを決めて、鳥羽が力を見せつける一方、ボールを要求した1年は呆然としていた。
東京No.1ストライカーは伊達ではなく、豪山や優也とはまた違ったタイプのFWだ。
「じゃ、これから女の子と遊ぶ予定なんで。またな少年達」
ゴールを決めて何もなかったかのように鳥羽は手を振り、歩き去って行く。
鳥羽がそのまま北村の偵察隊の近くまで歩いて来ると。
「あんたらもきっちりへし折ってやるよ。立見の前にな」
「!」
同じ東京の強豪、北村にも鳥羽は宣戦布告していた。
北村の視線を背に受けながらも、彼は正門へと歩きスマホをいじっている。この後おそらく先程ナンパした女子と遊ぶのだろう。
北村のみならず真島、それもエースでUー16の日本代表FWからマークされている。その鳥羽からの挑戦状。
無失点記録を破らんとする牙に対して、弥一は静かに口元に笑みを浮かべるのだった。
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