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東京の王者

※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。

「完全休養だっていうのに、休んでなくていいのかよ」



「だからただの息抜きで外出てるんだってー、家でグーグー寝るだけが休みじゃないよー」



 弥一と摩央は今見知らぬ駅で降りて、見覚えの無い道を歩く。途中で買ったあんぱんを食べながら歩く弥一の横で、スマホ片手にいちご牛乳をストローで飲みつつ目的地を調べ、検索してルート通りに進む。




 何故こんな事になってるのかと言えば、他校の有力校が立見の試合の翌日行われるという事なので、摩央は主務として休みの期間を利用しての偵察。そこに弥一が面白そうと食いつき、昨日グルチャで急遽自分も行くと言い出したのだ。



 立見の制服やジャージでは目立ちそうなので二人とも私服。摩央は無地の長袖黒シャツに白いズボン。弥一は紫の半袖シャツの上にグレーのパーカー。下は黒のズボン、そして弥一の方は更に黒キャップを被っている。



 最近スタメンで弥一は目立ちつつあるので、他校からそろそろ存在が知れ渡っているかもしれない。4試合連続無失点で来てる新設チームの事を、そのまま無視してくる可能性は低い。


 去年は選手権ベスト8まで行った事もあり、立見への注目は上がってきてるはずだ。




 目的地へ到着すると、そこはサッカー場。一般の観客に混じり、弥一と摩央も観客席へと歩いていく。



「!何でお前まで……」



「よお、お前ら」



 観客席へと歩いている途中で、黒いジャージの格好をした男子が居て摩央が先にその存在に気付く。それは優也だった。



 彼も此処に来ていたようで優也は軽く手を上げると、弥一も驚く摩央の横でマイペースに手を振った。



「歳児も暇つぶしに見に来たのー?」



「……お前と同じだ、中よりも外から見た方が気付く事がある。それに動画より直に見た方が分かり易いだろ」




 何時だったか弥一がフィールドの中より外から見た方が色々見えて気付ける。その言葉を聞いた優也も今日外から見ようと、この休養期間を利用し他校の試合を見に来たのだ。




 二人がわざわざ興味持って見に行く程の試合。午前10時にキックオフとなる。





 両選手がフィールドに出て来ると歓声が湧いた。主にそのチームに対しての物だ。



 歩いているだけで伝わって来る強者の雰囲気。それはあの高校サッカー界の王者八重葉学園を見て以来となる。



 紅色のジャージの下に同色のユニフォームが見える。




 東京No.1チームと呼び声高い。東京予選の優勝候補筆頭、桜王学園。




 支部予選を免除され、この1次トーナメントから初登場で桜王にとってはこれが初戦となる。



 初戦の彼らに対するのは亀岩高校。支部予選を勝ち上がり、東京王者を食ってやろうと張り切っている。



 亀岩高校の支部予選の結果は1-1(PK3-1)、3-0、5-0と初戦こそ失点し危うい所だったが、そこから調子を上げて大差で相手を下して勝利していた。



「やるなぁ、亀岩も。これ桜王も簡単には行かないんじゃないか?」



 亀岩の支部予選結果をスマホで見ていた摩央。調子を上げてこの試合を迎えているのなら、場合によっては桜王に勝つ番狂わせがあるのかもしれない。




「……あれ?あの人なんかこっち見てない?」



 その時弥一が桜王のジャージを着る一人の人物が、観客席の3人へと視線を向けているような気がした。



 桜王の男子のようで身長は170ぐらい、やや長めの青髪のおかげで目立って分かり易い。





「おい、お前来てたのかよ優也ー!」



「!?」



 その青髪の男子が発した言葉、弥一や摩央に向けられた言葉ではない。二人の隣に居る優也へと向けられた物だ。




「試合見とけよな、俺が華麗に活躍する姿を!」



 カッコつけてビシっと右手人差し指を指してから、彼はベンチの方へと戻って行った。





「誰だあれ?あんなの桜王に居たか?」



 スマホで摩央は調べて見るが中々検索で出てこない。そもそも名前が誰なのか分からない。



「歳児の事知ってたみたいだけど、友達?」



「……陸上やってた頃の同級生で幼馴染だ。名前は広西冬夜ひろせ とうや



 弥一の問いに優也は答え、青髪で優也を知る幼馴染と判明。まさか優也の幼馴染が同じサッカー、それも東京の王者である桜王の一員になっているとは、優也も思っていなかった事だろう。




「自分で華麗な活躍とか言っちゃってるの思うと、彼も何か自信ありそうだよねー?」



「ああ。それはハッタリなんかじゃないと思う」



 優也も入部の時に足の速さは誰にも負けないと、静かながら自信ある発言をしていたが、冬夜という人物もかなりの自信家のように弥一から見て思えた。



「俺は陸上の後でサッカーを始めてたけどあいつの場合は違う、元々サッカーをやってて陸上はそのプラスの為にやっていたんだ」



「つまりサッカー結構長くやってるのか。絶対上手いだろうよ、桜王に居る程だし」



 優也の話を聞きながら、摩央はウォーミングアップする桜王の面々を眺めていた。この東京トップクラスの精鋭が集う中に冬夜も居る。優也と同級生となると彼は1年。



 強豪校で1年目から本大会のフィールドに居られる、ただ者ではない可能性は高いだろう。





 試合開始の時間が近づき、両チームユニフォーム姿となり試合開始の時を待つ。




 そこに摩央はある事に気付く。




「冬夜って奴、ああ言っておいてスタメンじゃなくベンチじゃないか」



「起用方法は歳児と同じって事じゃない?ねえ、彼も陸上やってたんなら足の速さ自信あるんだよね?」



「俺と互角ぐらいだな、相当速いぞ」



 冬夜の姿がスタメンの桜王イレブンの中にいない。彼はベンチからのスタートのようで、弥一は優也から冬夜について聞き出せば、冬夜も足が速いようで優也と互角に張り合える程らしい。



 当時の話とはいえ優也の速さと互角となると、相当なスピードが予想され、快足自慢のFWでスーパーサブとしての起用なのかもしれない。




「蛍坂はスタメンだけど、原木はベンチだ。温存かな」



 フィールドにはUー16日本代表経験を持つMF。くせっ毛ある黒髪で先程の冬夜と同じぐらいな背丈の蛍坂竜一ほたるざか りゅういちがエースナンバーの10を背中につけている。



 もう一人の中盤の要、お洒落にセットした茶髪のショートヘア。その前髪が気になるのか直している姿が見える原木弘明はらき ひろあき。冬夜と共にベンチに座っていた。




 キャプテンマークを巻くのはヘアバンドを身に付けている紫の短髪、身長185cmと長身のCDF榊佳祐さかき けいすけ。彼が桜王を支える守備の要だ。



 更にその後ろを守るのは赤髪短髪で榊を超える190cmの長身、東京でベスト3に入る実力を持つGK高山重人たかやま しげと




 前のDMFも背が高く、セットプレーやCKの時などに長身選手を揃え、空中戦が全体的に強そうだ。




 桜王のフォーメーションは4-4-2。





 ピィーーー





 試合が始まり、亀岩がボールを持って攻めて行く。



 そこに蛍坂がいきなりボールへとスライディング。かなり激しく行っており、ボールをキープしていた選手は溢す。ボールに行っていたと判定されたか、激しいスライディングに対してはノーファール。



 華麗なテクニックを持つとされる蛍坂だが、こういった激しいプレーも行う度胸も兼ね備えていた。



 このセカンドに対して桜王の方がフォローが速く、ボールを取って行く。




 速いパス回し、相手を翻弄して蛍坂にボールが渡ると、彼は振り向きざまにシュート。



 距離がややあるが、右足のミドルは正確にゴール右へと勢い良く飛んで行き、キーパーが飛ぶも届かない。




 ゴールネットが揺らされ、桜王に早くも得点が入り1-0。




「成海キャプテンみたいだなぁ、ゲーム作れるだけでなくエリア外から充分狙えてゴール奪えたりと」



「その上守備が激しいと来る。その点はあの人と違う」



 蛍坂のプレーを弥一が見た感想は成海に近いプレースタイルという印象。そして優也の言うように成海はクリーン(ファールをしない)な守備をしていて、先程の蛍坂のような激しさは無い。




「引くなよー!ガンガン攻めてけ攻めてけ!」



 かなり大きな声が弥一達の居る観客席からもハッキリ聞こえて来る。



 桜王のGK高山が声を出して味方を鼓舞しているのだ。




 枯れないのかと思う程の音量であり、声の大きさだけで言えば同じGKの大門や岡田を超えるだろう。




 亀岩がサイドからチャンスを作り低いクロスを上げる。高さが揃う桜王相手に真っ向から空中戦では勝てないと亀岩も分かっていて、低く速いクロスをイメージして蹴った。




 だが低いボールも簡単には通さないとばかりに、榊が蹴り出してクリア。




 クリアされたボールを桜王が上手く繋ぎ、此処は蛍坂の攻撃無しで攻めて、桜王の右サイドバックが攻め上がり高いクロス。そこに合わせる180cmの長身FW。教科書のお手本のようなヘディングが見事に決まりカウンターで追加点。2-0とする。




 蛍坂がいなくても点が取れる。皆へとそう教えているかのようで層が厚い。



 これが強豪チームの強みだ。




 此処から更に桜王の攻撃は加速。中盤で蛍坂が一人二人と、華麗なフェイントで躱す超高校級のテクニックを此処で披露。観客から驚きの歓声が湧いてくる中、DFラインの足元を通すスルーパスが左足から出され、追いついた前線のFWがキーパーとの1対1をきっちり決めて3-0。



 更に攻める桜王に対し亀岩DFが相手を倒してしまい、ゴール前でFKのチャンスを与える。




 これを蹴るのは蛍坂。壁を超えて鋭く曲がり、直接狙ったシュートはキーパーの飛びつく指先を掠め、ゴールへと吸い込まれた。



 4-0、蛍坂は前半で早くも2得点だ。




 此処で前半は終了。この時点で早くも4-0と圧倒的な大差がついている。



 後半、蛍坂がベンチに下がった後もこの優勢は動かない。



 守りでは榊を中心とした長身の守備陣が攻撃を止めており、亀岩に決定的チャンスを作らせず。この試合まだGKの高山にボールを触れさせてはいない。




「(あー、流石だよなぁホタル先輩。俺も試合出られねぇかな、優也にああ言ったのにこれじゃカッコつかねぇ)」



 フィールドの回りを軽くランニングしつつ、試合を見ていた冬夜。刺激されて自らも試合に出たい、その欲は上がるばかりだ。



「冬夜ー!出番だとよー!」



「!ういっスー!」






「あ、幼馴染君出て来たー」



 弥一がユニフォーム姿となり、フィールドへと入って行く冬夜の姿を見つける。



 やはり予想通り後半からの出場、そしてFWの位置となってDFの背後をついていくのだろう。




「え……あれ?」



 だが摩央は冬夜の位置におかしいと感じた。前線へ行くと思われた冬夜は後ろ。DFの位置まで来たのだ。



「左サイドバック?あいつ、当時はFWだったはずだぞ」



 これには冷静ながら優也も驚いている。この中で唯一冬夜の当時を知っており、彼は優也と同じタイプのFWだったと記憶していた。



「高校からDFになったのかな、武蔵みたいに」



 立見でも元々FWだった武蔵がMFへ転向している。弥一の言うように冬夜もまた高校からポジションを変えたのかもしれない。





 試合途中から冬夜が左サイドバックに入り、その冬夜へと亀岩はサイドから攻めて行く。



 その冬夜をワンツーを使って抜き去る。これでこのままサイドからチャンスとなる。




 かと思ったら抜かれたはずの冬夜が、すぐ反転して快足を飛ばす。そのスピードは速く、まるで優也を思わせるかのよう。



 彼はボールを奪い返し、中央にパスをすれば左サイドを駆け上がる。



 サイドを独走する冬夜。左サイドの拾いスペースへ中央からパスが出され、冬夜はそこへとめがけて走る。




 詰めるDFよりも早く追いつくと、冬夜はエリアが薄いと速い判断を下し、エリア内に素早く切れ込んだ。



 これに残ったDFが出て来るも、彼はそれをターンで躱し、右足でシュート。



 キーパーの股下を通ったボールはゴールへと入り、代わった冬夜が追加点を決めた。




「速いだけじゃなく巧い、抜かれた後のリカバリーも速いし」



「やるなぁー、幼馴染君。これ、負けられないんじゃないー?」



「……」



 速く巧い冬夜のプレーに摩央は驚いていて、優也は弥一の言葉に答えず無言で、フィールドの仲間と共にゴールを喜ぶ冬夜を見ていた。




 8-0



 最終的なスコアはこうなって大方の予想を裏切り、桜王が亀岩を圧倒するワンサイドゲームとなる。





「お、おい?幼馴染会ってかなくていいのか?」



 優也はそのまま席を立ち去ろうとしていた。それに摩央は呼び止め冬夜に会わないのかと問う。




「……どうせフィールドで会う事になるだろ。まだ先が長いんだ」



 優也としては彼に言葉をかける必要は無い。互いに勝ち進めば立見と桜王が試合する可能性があり、優也と冬夜がそこで会う事になるかもしれない。




「(刺激されたみたいだねー、あの冬夜っていうのに)」



 心で弥一だけは分かった。何も言わず会場を後にする優也。



 あいつに負けられない。ライバル心を刺激された事が。




「ライバルとして負けられないねー、優也♪」



 その彼の背を追いかけて軽く肩を叩き、陽気に笑う弥一は冬夜を真似てか、始めて名前で優也を呼ぶ。



「フン……」



 初めて名前で呼ばれた優也、それは悪い気がしなかった。




「それじゃ、お昼として此処の名物である天丼でも食べて行こうかー♪」



「お前、まさか最初からそれ目当てでわざわざ俺と一緒に行くとか言い出したんじゃないだろうな?」



「当たりー、ドラマでやってたサラリーマンっぽいおじさんが美味しそうに天丼食べてたの昨日見ちゃったからさぁ」



 東京王者のサッカーを見る事が目的の摩央と違い、弥一は天丼の方が目当てで試合会場の近くに、名物の天丼が出される店があるのを知って同行を申し出たのだ。




 この後空腹に勝てず、3人で店自慢の特製天丼を美味しくいただいたのは言うまでも無い。

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