人から見たサイキッカーDF
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
1次トーナメント決勝、これに勝てば2次へと進出が出来る大事な試合。
この日に立見と試合するのは、1次から登場となったシード校の岩城高校。前の試合6-0で勝ち上がって来た強豪の一角で、今年こそ真島や桜王の東京を代表する2校を倒す事を虎視眈々と狙っている。
「おーし、今日の試合もしっかり勝って2次に進んで行くぞ。守りは成海と豪山の動きから目離すなよ」
岩城を率いる人物、黒髪短髪で後ろを刈り上げている。身長176cmのキャプテンでエースFWの森岡康は、守備陣に立見の要注意とされている二人を試合前日にも伝えたが、改めて気をつけるように此処でも伝える。
彼らも返事に応え、チームの雰囲気は前の試合で大勝しているのもあって上々だ。
「今年は立見の守りも侮れないよな。此処まであいつら支部予選を戦って、まだ失点0だぞ」
「その記録も今日までだ。俺らでぶち破ってやろうや」
立見の守備を破れなければ次には進めないなら、立見からゴールを奪って無失点記録を止める。
それをやるしかなく、自分達ならば可能だと森岡は確信している。真島や桜王の壁を破ろうとしている自分達が、新設校の守備ぐらい破れなくてどうすると。
天候に恵まれて空は快晴。午後の2時からキックオフとなり、コイントスを終えて先攻を勝ち取った森岡はセンターサークルへボールをセット。開始を2トップを組むチームメイトと共に待つ。
「(しかし小さいDFだよな。ああいうのが居て、何で連続無失点が出来るんだ? この過酷な東京予選で)」
森岡の視線の先にはチームメイトと談笑でもしてるのか、マイペースに笑う小さなDF弥一の姿があった。
身長が致命的なまでに低く、150にも届いているのか怪しいぐらい。小柄なDFは身体も細く、その分の筋肉があるとは思えず、どう見ても小学生と大差ない程だ。
軽いショルダーチャージであっさり吹き飛んでしまうだろう。
「(まあいい、どんなDFだろうがブチ破る。これぐらい奴らを倒す為の練習だ)」
負けるとは全く思ってない森岡。立見の守りをこの先に居る真島や桜王の守りを破る練習と思って、利用させてもらおうと試合に臨む。
中盤、成海はパスを多用して攻めに出る。此処数試合そのパターンが多かったと岩城の面々は把握済みで、成海がボールを持つとパスを警戒し、豪山へのマークを外さないようにする。
だが、この日の成海は違った。
パスを出そうと左足で蹴ると見せかけ、軽く蹴っての柔らかいタッチからドリブルを開始。意表を突かれ、岩城の選手がボールを奪おうと向かって行く。
正面から来る姿が見えた成海はボールをまたぐ。シザースと呼ばれるフェイントの一つだ。これを高速で続けて行い、相手は構えていたが重心が崩れてくる。
隙を見逃さず、成海はスピードに乗ったドリブルで相手の左を抜けていった。
追っていたDFが成海を地面に倒して突破を阻止するが、審判の笛が鳴ってファールを取られる。
幸いPKではないものの、ゴールから25m前後、ほぼ正面からFKのチャンスだ。
キーパーの指示で壁が作られれば、右に寄り過ぎだと言われて位置を修正。
ボールには成海、更に影山の姿がある。どちらも直接狙える力を持っていて、どっちで来るか壁やキーパーを迷わせるつもりだろう。
やがて審判の笛が吹かれ、FKは開始される。
影山は動かず、そのまま成海が短いステップから左足で蹴る。ボールは壁を超えてゴール右隅へと曲がって行く。
岩城キーパーは飛びついて触れるも弾ききれず、ボールはゴールマウスへ入り、まずは立見が直接FKで1点を決めてみせた。
先制点が決まり、ゴールを決めた成海に立見の選手数人が駆け寄り、成海は中心で抱き合って喜ぶ。
「(くそぉ……先制点向こうかよ! 2点最低でも取らなきゃならないじゃないか!)」
最悪でも1点取らなければ負ける。そうでもしなければPK戦にも持ち込めず、岩城の負けが決まってしまう。
だが、森岡はPKに苦手意識があるので、出来る事ならPKは避けたいと思ってる。最低1点ではなく2点を取りに行かなければならない。
キャプテンの森岡を中心に岩城が攻勢へと出る。早めに追いつきたいので当然の判断だった。
「うぉわ!」
岩城の左サイドバックが上がって行き、チャンスを作ろうとするが、そこに田村の守備が阻んで来る。ボールを受けた瞬間を田村は狙って、ボールを奪取。
「上がって来るぞ左!」
田村はスピードある立見のサイドバックと岩城は分かっていた。彼のスピードで此処は駆け上がると予想して警戒する。
それを裏切るかのように、田村は大きくロングパス。
反応していた豪山はDFラインの裏を抜け出して走る。岩城DFは手を上げてオフサイドをアピールするが、旗は上がらない。
大胆にもGKがエリアを飛び出して頭で処理しようとするが、豪山が競り勝った事でボールはゴールに転がっていき、そのままゴールマウス内のラインを割って得点となった。
2-0、前半で2点差がついて岩城は3点取らなければならなくなってしまう。
前半終わる前に1点返しておきたい岩城は早々キックオフ。急いで攻めようと立見ゴールへ果敢に攻めて行く。
「(ん? あのチビ何処に消えた……!? 振り切ったか?)」
森岡が弥一の姿を探すも何処にもいない。マークを振り切れたのかと思い、邪魔はいない事を確認すれば中央でパスを要求。
味方へのパスを受け取った時だった。
ピィーーー
「!?」
オフサイドの判定を取られ、立見からボールに触られる事なく奪われる形となる。
満足行く攻めは出来ず、2-0で前半が終了。
「(こんな守り堅かったのか立見は!?)」
口ではキャプテンとして周囲を鼓舞して奮い立たせてきているが、森岡の内心では困惑があった。
去年までの立見の守備と全く違う。オフサイドトラップを仕掛ける巧さ等、そういったのは無いと記憶している。
だが、この試合で既にいくつかトラップにはまり、それに加えて森岡は弥一の姿を見ていない。彼は本当にあのフィールドに居るのかと疑うぐらいだった。
「なあ、あのチビDF……試合中何処に居たとか分かるか? 俺あいつの姿見てないんだ」
「え? あいつ最終ラインにいただろ」
「そうか? 俺はチビが中盤の後ろ付近に居た気がするけど……」
「いや、サイドじゃないのか?」
森岡の問いに弥一が何処に居たのか、選手それぞれが別の位置で見たと言う。
それは問題を解決させるどころではなく、益々困惑させる。
何がどうなってると問題が解決しないまま岩城は後半戦を迎える。
後半攻める岩城、森岡は弥一を後半開始の時は姿を見ている。それが今は……。
「(またいない!? あいつ何処に!)」
森岡はまたも弥一の姿を見失う。味方からすれば、森岡がフリーになっていると見える。当然チャンスだと見てグラウンダーの長く鋭いパスを送った。
「いっただきぃー!」
「!?」
このパスを狙ってたかのように弥一はパスコースを読んで飛び込み、インターセプト成功。
森岡にボールを渡さない。素早く影山へとパスを出せば、弥一は後ろからコーチングで伝えて行く係となる。
「(全く気づかなかった! こいつ、まさか自分の身体の小ささを逆に利用して紛れ、姿を消して死角からのディフェンスをしてたってのか……!?)」
FWの立場としてもDFの死角を突く攻撃というのはやっていた。
ただ、こうも巧く自分の死角を突いて来る守備というのは森岡の経験に無かった。
ピィーーー
オフサイドで再びボールを取られたり、更に弥一だけでなく周囲の守備陣も攻撃を跳ね返し続け、彼らの守備の前にエリア内のシュートを1本も撃つ事が出来ない。
ゴール前にやっと高いクロスが上がるも、長身にして長い手足に加え跳躍力のある立見GK大門がボールをキャッチ。数少ない岩城のチャンスを潰す。
そして後半30分、優也と武蔵が途中出場。
するとボールを受けた成海がDFラインの間を通すスルーパスを蹴り、それに反応して優也が抜け出し、飛び込んでいく。
岩城キーパーはまたも大胆に飛び出すが、その動きを優也は見ていた。ボールをトラップすると冷静にキーパーの飛び出しを躱し、軽く右足で蹴って流し込む。
3-0。
決定的とも言える3点目が立見に入り、岩城イレブンはがっくりと肩を落とす。
「(強い……今年の立見……特に、あのチビ)」
森岡はショックを受ける中、得点した優也を祝福する弥一の姿を見ていた。
もしかして彼が常識を根底から覆す活躍をするかもしれない。小学生ぐらいの小さな彼が高校サッカーを揺るがすような。
弥一と戦った森岡は何となくだが、そんな予感がしたのだった。
試合はこのまま終了、立見がこの試合を制して1次トーナメントを勝ち上がり2次への進出を決めた。
立見3-0岩城
成海1
豪山1
歳児1
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