仲間と共に切り拓く、そして始まりへ
※登場する人物や学校やクラブなどは全て架空であり実在とは一切関係ありません。
2年の年が終わり、季節は再び新たな年を迎える。中学3年、中学生活最後の年だ。
勝也の実家に再び成海と豪山が集い、炬燵に入って新年恒例の高校サッカーをテレビで見る。去年も見た光景だが、去年と違うのは宿題に追われてはいない事だ。
なので気楽にサッカーをテレビで観戦出来る。
「なあ、勝也。倉石とはどんな感じよ?」
「ああ? なんだよどんな感じって」
「いや、ほら。付き合ってんだろお前ら」
「ちげぇよ」
炬燵入って蜜柑を食べる勝也に、豪山は京子との仲について尋ねる。
よく二人が一緒に居る事は知っていて、試合の方を見ている成海も分かっていた。
外から見れば、勝也と京子が良い感じな雰囲気であると伝わり、部員の間では付き合ってると噂されてるぐらいだ。
実際はそこまで行ってない。京子にサッカーを教えたり、たまに遊んだりしてるぐらいで、まだ恋人までは行っていないと勝也は思っている。
遊園地の時に告白しようかという所までは行ったが、踏み切れなかった。その事は目の前の友人だけでなく、兄の太一にも伝えていない。
「蹴一、お前もそう思うよな?」
「……え? 悪い、聞いてなかった」
相当目の前の試合に夢中だったのか、成海は豪山と勝也の恋愛話を聞いていなかった。
「お前、確か此処の高校行きたがってたよな」
勝也の視線の先には、テレビの中で試合をしている東京代表の名門校。試合はその東京代表がリードしている。
「IQ高いだろ此処。スポーツ推薦でも無ければ地獄の受験勉強だ」
成海が名門校を目指す一方で、豪山の方は此処の学校には入るつもりは無いようだ。スポーツ推薦でもない限り、自分の学力では受験失敗の確率が高いと見て、別の高校へ行くつもりらしい。
中学3年、そろそろ高校の事を考えなければいけない。
学生サッカーの中でも一番の華である、高校サッカー選手権はテレビによる全国中継で注目度は高い。プロへの登竜門と言われ、此処を目指す学生のサッカープレーヤーは数多く、3人も憧れの舞台へ立つ事を目標としている。
此処からプロへの道。そして日本代表への道が開かれるかもしれない。
「勝也はどうすんだ高校? 勿論続けるんだろサッカー」
「当たり前だろ。けど入る高校か、まだ決めてない」
成海や豪山と違って、まだ勝也は何処の高校に入るのか決めていなかった。こういうのは早い方が良いだろうが何処に入るべきか、どの選択が正解なのか、この時の勝也は答えを出せずに迷うばかり。
その前にまずは今年最後となる中学生活と中学サッカー。去年やり残した事をやってから、高校の事はゆっくり考える。改めて勝也は考えを決めて蜜柑をほうばると、東京の方に追加点が入って試合は決まった。
2月になるとバレンタイン。女子からチョコレートを受け取る男子の姿が学園内で目立つ。
そんな中で成海は多くの女子にチョコ菓子を貰っていて、本人はかなり戸惑っている。ルックス良くてサッカーをする姿がより格好良く映るせいか、それに惹かれる女子が多かったのだろう。
相棒のモテる姿を見ていた豪山は不貞腐れており、自分の方は一個もチョコを貰えていない。
そう思っていると豪山に声をかける女子が現れた。彼も女子からチョコ菓子を貰うと、先程まで不貞腐れていたのは何処へ行ったのか、上機嫌そのものでチョコクッキーを受け取る。
「智春の野郎が一番バレンタイン浮かれてんじゃねーか」
チョコを貰ってゴールを決めた時のように喜ぶ豪山の様子に、勝也は軽くため息をついていた。
「貰ってないの?」
「! 悪いかよ。この通りモテないみたいだからな」
何も貰っていないのを見て京子が声をかけると、勝也は軽く両手を上げて手ぶらをアピールし、何もまだ貰ってないと開き直る。
「じゃあ、はい」
「!?」
その勝也へ京子は箱を差し出す。この箱を開けていいかと許可を貰い、包装を解いて箱を開けると中身はマカロンだった。
「嫌いだった?」
「す、好きに決まってんだろ。マカロン嫌いって奴聞いた事ねぇし、ありがたく貰う!」
勝也が京子からもらったマカロン。その菓子の味は今まで食べた菓子より美味しく、甘く感じた。
3月、小学生時代に同じクラブで活躍した年下の弟分こと、弥一が親の仕事の都合でイタリアへ飛び立つ事になった。
その旅立ちに勝也は空港まで太一と共に駆けつけると、弥一の旅立ちを見送る。
弥一と家族を乗せた飛行機は日本を飛び立ち、勝也が見上げる機体はどんどん遠く、小さくなっていく。
中学サッカーへ自分に続いて飛び込んで来るものと思っていたが、そのステップを飛ばして弥一はサッカーの本場、イタリアへの道を選ぶ。
弥一は迷っていたようだが、弟分の背中を勝也は押した。早い時期にイタリアへ行く機会なんか無い。このビッグチャンスは物にするべきだろうと。
勝也が高校をどうするか決めかねている時に、弥一は勝也より上のステージへ行こうとしていた。
弥一が日本から離れ、勝也は気持ちを新たにサッカーと向き合う。
3年生へ進級してサッカー部のキャプテンには成海が選ばれる。最上級生となった自分達が今度は下級生に教える側となり、基礎練習に励む後輩の姿を見れば、1年の時に基礎練習の繰り返しに文句を言っていた時の自分と重なって見えた。
そういう事もあったなぁと、3年生の勝也は笑いつつ自らも練習へと励んで汗を流す。
新体制となった3年目の中学サッカー公式戦を迎え、東京予選をかつてない勢いで勝ち進む。特に勝也が縦横無尽に動き回ったり声を出したりと、献身的なプレーでチームを支えれば、前線の成海と豪山を中心とした攻撃陣が得点を積み重ねる。
この勢いのまま予選決勝も3-1で勝利して、柳石中学は2年連続で全国大会への切符を勝ち取った。
中学最後となる全国大会。去年は2回戦で敗退してしまい、それ以上の結果をチームは今年の目標としている。
ただ、勝也は違う。2回戦以上の結果で満足などせず、目指す目標は全国制覇だけだ。
1回戦を2-0で勝利すれば、去年の自分達を超える為に次の試合へ臨む。
2回戦は中々両チームに得点が入らず、0-0のままPK戦へ入る。最初に柳石の方が3人PK成功して、後攻の相手はプレッシャーとなったのか、ボールを浮かせる失敗があった。更に柳石のキーパーのストップもあってPK戦を制し、準々決勝へと駒を進める。
準々決勝、相手は去年敗れた優勝候補の強豪校。
開始早々に攻め込まれて焦った柳石DFが相手を倒してしまい、ゴール前でのFKのチャンスを与える。これに相手キッカーが直接狙ってボールが壁を飛び越え、片手を伸ばして飛ぶキーパーも及ばずゴールネットが揺れる。
先制を許してしまうと、皆が下を向いていた。
「まだ1点だ! 行くぞー!」
これを見た勝也は声を張り上げ、チームの気を引き締めさせる。
反撃に出たい柳石だが、ゴール前に豪山へ厳しいマーク。更に相棒のゴールを多く演出してきた成海にもマークがついて、二人に守備のプレッシャーが襲う。
チームの攻撃を支える二人だが、相手の封じて来るプレーは想定していた。
マークが集中している分、勝也の方は自由に動ける。リードされている今は守りに入る理由は無い。勝負に出るなら此処だと、勝也は自分へ渡すように手を上げれば、味方から出されたパスを受け取る。
ボールを持って走りながら勝也は成海の方を見ると、相変わらずマークがついているが構わず視線を向けてパスの可能性を匂わせる。
これに相手は成海へのパスがあるのかと、勝也が何時蹴り出すのか警戒していた。
その勝也がパスを出したのは左の成海とは逆の方向、全く相手の方を見ずに右の味方へノールックでボールを転がす。
勝也は直後に相手ゴールを目指して走り、受けた味方はダイレクトでパスを返す。
意表をついたワンツーから、勝也は走り込んで勢いをつけると右足を振り抜いてシュートを放つ。
ミドルレンジからのシュートはゴール右隅を捉え、相手キーパーは反応して飛びつく。
指先を掠めるもコースは変えられず、それほどの強い勢いが勝也のシュートに宿っており、シュートは豪快にゴールネットを揺らした。
同点ゴールが決まった瞬間に勝也は天へと向かって吠える。成海や豪山といった仲間達も集い、価千金の得点を大いに喜ぶ。
勝也が全国大会で決めたゴールは、ベンチで見ていた京子には眩しく輝いて見えた。
更にこの後PKをもらうと、これを成海が沈めて逆転。
2-1の逆転で昨年の借りを此処で返す事に成功した。
準決勝。相手は優勝候補本命、将来の日本代表を期待されるエース格のプレーヤーが何人か居て、高い技術力に組織力を誇る。
総合力は明らかに相手が上。それに対して勝也は鬼気迫るような激しい守備を仕掛け、相手に攻め込ませない。更に声を出す事も忘れず、指示をしたり味方を鼓舞したりと、前の試合に続いて縦横無尽の活躍を見せる。
0-0まで持ちこたえたが後半、スピードあるFWが後半から投入されて縦の突破を許し、キーパーと一対一になった所を決められて先制を許す。
相手は研究しており豪山と成海だけでなく勝也にも注意し、徹底した守備で1点を守りに行く。
自由にはさせてもらえず1点が遠く、選手達へ重くのしかかる。
そして試合終了の笛。
0-1で敗退。
全国ベスト4、勝也の中学サッカー最後の大会はこれで終わった。
「え? 神山。お前今なんて?」
ある日、学校の職員室で勝也は高校の方針について聞かれると答えを出した。それに教師の方は「え?」という反応だ。
「だから、高校は立見高等学校。そこ行きます」
全国の活躍で勝也に高校のスカウトは入っている。スポーツ推薦の所もあるので、そこに行くものかと思えば本人は誘いを蹴った。
それもサッカー部が設立されていない高校へ行くというのに耳を疑う。
「サッカー部の無い高校行くって、サッカーやらないのか?」
勝也が立見に行くという話は広がり、成海や豪山達の耳にも入っていた。高校はサッカーを結局やらないのかと、勝也は部活中に成海から尋ねられる。
「やるよ、やるけど今度は俺が一から作るんだよサッカー部を。勿論それで全国も目指す。立見はスポーツに力を入れてるって聞くから、サッカー部の許可は出してくれるはずだろ」
遊び感覚で部を作る気はなく、勝也は全国を本気で目指すつもりだ。
サッカー部の無い高校に一生徒が何も無い所からサッカーを作る。いくら人気あるスポーツといえど大変な事で、監督やコーチといった人材が都合良く、新設の部に来てくれるとは思えない。
小中と全国を知る勝也が高校へ在籍している間、全国へ通用する部になれる可能性は限りなく0に近いだろう。
それでも勝也に迷いは無い。
「俺は本気だ。蹴一よ、来年以降はお前の名門校ぶっ倒してやるから覚悟しとけ」
「……」
得意げに勝也は成海へと宣言すると、成海の方は勝也を見ながら何かを考えていた。
部活が終わると勝也はドリンク片手に教科書を見ていた。受験に向けての勉強を今から始め、その時間を増やしていく。
立見に行くと決めたらサッカー部が無い為、スポーツ推薦は期待出来ない。自分の頭で立見に行くしかないのだ。
「そこ、違うから」
「あ」
部室で問題を解いてる勝也に声をかける京子は、何時ものように冷静に言うと間違っている箇所を指摘。
「立見に何でわざわざ行くの? サッカーやりたいなら部のある所行けば良い」
京子も勝也が立見に行くというのを既に聞いて、彼が何故その道を選んだのか分からず理由を聞こうとしていた。
「後悔する前に……やってみたいんだよ。ドラマみたいな、漫画みたいなでっかい事を」
「でっかい事?」
「何も無い所からサッカー部を作って、それで全国大会行って優勝する。漫画とか見てるならお前も分かるだろ」
「私が見てたのは元々あったサッカー部が弱小で、全然勝てないチームから成長して勝って行くっていう話だから」
「あー、そうかい。でも似たようなもんだろ」
ドラマや漫画のような、現実では無いだろうという事をやってみたい。そう言う勝也の顔は無邪気に笑っていた。
「立見に行くなら私も行く。そのサッカー部のマネージャー必要だと思うし」
「え? いや、そんな無理に俺に付き合う事は……」
京子が自分も立見へ行くと言い出したのを聞くと、勝也は戸惑ってしまう。人生を左右するような選択なのに、簡単に決めて大丈夫なのかと。
「無理してない。私が望んだ事だから」
京子の方は譲らない。もう彼女の中で高校は立見、勝也と行くという選択の他には存在していなかった。
「あー……先越されたけど、倉石ならしゃーねぇか」
そこに豪山、成海の二人が揃って部室へ入ってくる。
「お前ら、どうしたんだよ?」
何か用事でもありそうな二人を見て、勝也は用件を聞く
「俺も立見、行くわ」
「!?」
豪山も立見に行くと言い出せば勝也の目が見開いてしまう。てっきり豪山とは別の高校になると思っていたので、彼の言葉は予想外だった。
「豪山だけじゃない。俺もだよ立見行きは」
「はあ!?」
東京の名門校を目指していたはずの成海まで立見へ行くと言って、勝也は信じられない様子。
「お、お前ら待て! 成功するかどうか分からない俺の挑戦だぞ!? そんな無理して付き合って大事な高校生活を棒に振るような事……!」
「何を勘違いしてんだ? お前の為だけにわざわざ立見行きを決めるかよ。俺の頭なら立見の受験はなんとか行けるし、通う距離も家からそう遠くは無い。そんで一からサッカー部作って成功すればヒーローになるチャンス。俺の為に立見へ行くんだ」
「俺も、そういう挑戦を実際にするような奴は初めて見るし、漫画みたいでこれを逃したらこんな機会一生無いだろうと思って挑戦する。お前一人で未知の挑戦を楽しむのはずるいから俺も混ぜてくれ」
「未だかつてない挑戦……凄い景色を間近で見てみたくなったから、勿論私の為の立見行き」
それぞれが理由を言い、何も勝也の為に行くのではない。それぞれが己の為に立見へ行く事を決めたのだと。
「これで勝也だけ立見の受験落ちて、俺らだけ合格になったら盛大にお前を恨むけどな」
「あ、それは笑えない展開だな」
「成績的に勝也が一番危ない」
「わーってるよ! だから今から勉強頑張るんだろうがー!」
茶化された勝也はムキになりつつ教科書に向かい合うと、ぽつりと彼は呟く。
「……ありがとな、お前ら」
中学生活、良い仲間と巡り会えた事に勝也は感謝した。
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